ひと騒動を終えたフリーダム号の車内は、妙に静かだった。
衣はユニクロで調達した。
住はフリーダム号そのものが最強。
では、残るは……食。
現在地は岩手。ならば狙うはアレだ。
「ユイ、お腹減ってるよね? 冷麺、食べたくない?」
「冷麺……ですか?」
「こんな世界だけどさ、各地で観光しながら名産品食べて、そうやってここまで来たんだよ」
ユイは感心したように言う。
「すごいですね……勇気があるのか、怖いもの知らずなのか……」
「それとも、何にも考えてないとか?」
「そこまでは言ってませんよ」
「わふわふ」
コハクの声が笑いに重なり、フリーダム号の中は一気に明るくなる。
盛岡市内はゾンビの密度が高そうなので、少し外れた町で冷麺を探すことに。
乾麺狙いだ。生や茹ではもはや望めない。
スープも粉末で済むなら御の字。
「ちなみにさ、盛岡冷麺と韓国冷麺の違い知ってる?」
「知ってますよ。女の人って冷麺好き、多いんですよ」
「そうなんだ? で、どう違うの?」
「韓国冷麺はそば粉。盛岡冷麺は小麦粉と片栗粉。もちもちしてて好きです」
「完璧じゃん! で、どっちが好き?」
「これから盛岡冷麺探そうって時に、韓国冷麺って言ったら怒ります?」
「怒らないけど……探すだけだね、韓国冷麺も」
冗談を交わしながら見つけたのは、やや大型のスーパー跡。
正面ガラスは軒並み割れている。
侵入には困らないが、警戒は怠れない。
「ちょっとコハクと待ってて。ちゃっちゃと行ってくる」
「気をつけてくださいね」
「わふ」
グロックを手に、静かにガラス片を踏み抜く。
照明の消えた薄暗い店内、棚の配置は今も記憶に残っている。
右が乳製品、左が青果、なら真ん中が乾物とインスタントコーナー。
……あった。
しかし、カップ麺は根こそぎ消えていた。袋麺もほとんど無い。
「……おっ、マルタイ棒ラーメン!」
懐かしの味。しかも替え玉し放題。
そしてその奥、冷麺、発見!
数種類残っている。さすがに冷たい食べ物は人気がなかったか。
全てを一気にカゴに放り込み、帰還ルートへ。
幸いにもゾンビの気配はなし。
これは完全勝利だ。
「戻ったよ、戦果もバッチリ!」
スライドドアを勢いよく開け、勝利の凱旋。
「お疲れさまでした!」
「わふわふっ!」
「それじゃ、ちゃっと移動して、のんびり冷麺タイムにしようか」
疲れた心を潤すのは、食と笑いと、仲間の声。
終末世界でも、そんな時間があれば人は笑える。
フリーダム号は静かにエンジンを唸らせ、盛岡の青空の下を走り出す。