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第47話 冷麺と笑いと盛岡の空

 ひと騒動を終えたフリーダム号の車内は、妙に静かだった。


 衣はユニクロで調達した。

 住はフリーダム号そのものが最強。

 では、残るは……食。


 現在地は岩手。ならば狙うはアレだ。


「ユイ、お腹減ってるよね? 冷麺、食べたくない?」


「冷麺……ですか?」


「こんな世界だけどさ、各地で観光しながら名産品食べて、そうやってここまで来たんだよ」


ユイは感心したように言う。


「すごいですね……勇気があるのか、怖いもの知らずなのか……」


「それとも、何にも考えてないとか?」


「そこまでは言ってませんよ」


「わふわふ」


 コハクの声が笑いに重なり、フリーダム号の中は一気に明るくなる。


 盛岡市内はゾンビの密度が高そうなので、少し外れた町で冷麺を探すことに。


 乾麺狙いだ。生や茹ではもはや望めない。

 スープも粉末で済むなら御の字。


「ちなみにさ、盛岡冷麺と韓国冷麺の違い知ってる?」


「知ってますよ。女の人って冷麺好き、多いんですよ」


「そうなんだ? で、どう違うの?」


「韓国冷麺はそば粉。盛岡冷麺は小麦粉と片栗粉。もちもちしてて好きです」


「完璧じゃん! で、どっちが好き?」


「これから盛岡冷麺探そうって時に、韓国冷麺って言ったら怒ります?」


「怒らないけど……探すだけだね、韓国冷麺も」


 冗談を交わしながら見つけたのは、やや大型のスーパー跡。


 正面ガラスは軒並み割れている。

 侵入には困らないが、警戒は怠れない。


「ちょっとコハクと待ってて。ちゃっちゃと行ってくる」


「気をつけてくださいね」


「わふ」


 グロックを手に、静かにガラス片を踏み抜く。

 照明の消えた薄暗い店内、棚の配置は今も記憶に残っている。


 右が乳製品、左が青果、なら真ん中が乾物とインスタントコーナー。


 ……あった。


 しかし、カップ麺は根こそぎ消えていた。袋麺もほとんど無い。


「……おっ、マルタイ棒ラーメン!」


 懐かしの味。しかも替え玉し放題。


 そしてその奥、冷麺、発見!


 数種類残っている。さすがに冷たい食べ物は人気がなかったか。

 全てを一気にカゴに放り込み、帰還ルートへ。


 幸いにもゾンビの気配はなし。

 これは完全勝利だ。


「戻ったよ、戦果もバッチリ!」


 スライドドアを勢いよく開け、勝利の凱旋。


「お疲れさまでした!」


「わふわふっ!」


「それじゃ、ちゃっと移動して、のんびり冷麺タイムにしようか」


 疲れた心を潤すのは、食と笑いと、仲間の声。

 終末世界でも、そんな時間があれば人は笑える。


 フリーダム号は静かにエンジンを唸らせ、盛岡の青空の下を走り出す。


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