岩手の山間、日が傾き始めたころ、フリーダム号は人目のつかない川沿いの空き地に停車した。
「さて、戦利品をいただこうじゃないの!」
「わぁ……冷麺、楽しみです!」
「コハク、お前もわくわくしてるだろ」
「わふっ」
荷物置き場から乾麺パックとスープ粉末を取り出し、キッチンユニットにセット。
「えっと、冷麺は茹でてから冷水で締めて、スープは水で割る……だよな」
「氷……ないですね」
「冷蔵庫にある保冷剤で代用しよう。冷たければいいんだよ冷たければ!」
「あはは、強引ですね」
「生き残ってるだけで奇跡の世界だしな、調理法くらい自由にいこうぜ」
鍋にたっぷりの水を入れ、IHコンロで沸騰させる。
「では、冷麺を……投入!」
ぐつぐつと踊る麺を見つめていると、コハクが足元でそわそわ。
「わふっ……」
「お前はまだ早いぞ。これは人間用だ。ちゃんとドッグフード用意してやるから」
「わふっ……」
「ユイ、冷水用意してくれる?」
「はい! 保冷剤付き水、行きます!」
茹で上がった麺をザルにあけ、手際よく冷水で締める。
キュッと引き締まった麺を器に盛り、粉末スープを水に溶かして注ぎ込む。
「トッピングがないのが惜しいが……このシンプルさがまた良し!」
「では、いただきまーす」
「わふっ!(ズルい)」
まず一口、ちゅるんとすすり上げたその瞬間、
「……うん、これは……最高!!」
麺のコシと冷たいスープが体中に染み渡る。
ほのかな酸味と旨味のあるスープが絶妙に絡み合う。
「ユイもどうぞ」
「いただきます!」
ユイも遠慮なく一口、そして
「ん~! これこれ、やっぱり冷麺って美味しい……!」
その様子をじっと見つめる一匹の影。
コハクである。
「……おい、よだれ垂れてるぞ」
「わふぅ……」
ちょっとだけ罪悪感が湧く。
「ユイ、ツナ缶出してやってくれる?」
「はいっ!」
ユイが準備を進めている間に、しゅうは冷麺の麺を一本だけ手にとった。
「ほら、味はついてないから一本だけな?」
「わふっ!」
パクリ。
噛んでる。味わってる。
……からの、もっとください顔。
「ないない、これは俺たちのご飯だ」
「わぅぅ……」
ユイがツナ缶を持ってきたところで、やっと満足げな表情になったコハク。
その後も、冷麺はもう一杯茹でられ、
コハクにはツナ&乾パンの特製プレートが用意された。
「こんな時代でも、ちゃんと冷たい麺が食べられるなんて……」
「文明の力ってすげぇよな。フリーダム号のおかげだ」
「そしてコハクちゃん、ほんとに食いしん坊なんですね」
「わふふん」
「いやいや、これ以上太ったら助手席乗れないからな?」
「わふっ!?」
夜の空には星が輝き、山の風がやさしく車体を揺らす。
今日も笑ってご飯を食べられた。
それだけで、生きてるって気がするんだ。