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第48話 冷麺調理&コハクのつまみ食い

 岩手の山間、日が傾き始めたころ、フリーダム号は人目のつかない川沿いの空き地に停車した。


「さて、戦利品をいただこうじゃないの!」


「わぁ……冷麺、楽しみです!」


「コハク、お前もわくわくしてるだろ」


「わふっ」


 荷物置き場から乾麺パックとスープ粉末を取り出し、キッチンユニットにセット。


「えっと、冷麺は茹でてから冷水で締めて、スープは水で割る……だよな」


「氷……ないですね」


「冷蔵庫にある保冷剤で代用しよう。冷たければいいんだよ冷たければ!」


「あはは、強引ですね」


「生き残ってるだけで奇跡の世界だしな、調理法くらい自由にいこうぜ」


 鍋にたっぷりの水を入れ、IHコンロで沸騰させる。


「では、冷麺を……投入!」


 ぐつぐつと踊る麺を見つめていると、コハクが足元でそわそわ。


「わふっ……」


「お前はまだ早いぞ。これは人間用だ。ちゃんとドッグフード用意してやるから」


「わふっ……」


「ユイ、冷水用意してくれる?」


「はい! 保冷剤付き水、行きます!」


 茹で上がった麺をザルにあけ、手際よく冷水で締める。


 キュッと引き締まった麺を器に盛り、粉末スープを水に溶かして注ぎ込む。


「トッピングがないのが惜しいが……このシンプルさがまた良し!」


「では、いただきまーす」


「わふっ!(ズルい)」


 まず一口、ちゅるんとすすり上げたその瞬間、


「……うん、これは……最高!!」


 麺のコシと冷たいスープが体中に染み渡る。

 ほのかな酸味と旨味のあるスープが絶妙に絡み合う。


「ユイもどうぞ」


「いただきます!」


 ユイも遠慮なく一口、そして


「ん~! これこれ、やっぱり冷麺って美味しい……!」


 その様子をじっと見つめる一匹の影。


 コハクである。


「……おい、よだれ垂れてるぞ」


「わふぅ……」


 ちょっとだけ罪悪感が湧く。


「ユイ、ツナ缶出してやってくれる?」


「はいっ!」


 ユイが準備を進めている間に、しゅうは冷麺の麺を一本だけ手にとった。


「ほら、味はついてないから一本だけな?」


「わふっ!」


 パクリ。


 噛んでる。味わってる。

 ……からの、もっとください顔。


「ないない、これは俺たちのご飯だ」


「わぅぅ……」


 ユイがツナ缶を持ってきたところで、やっと満足げな表情になったコハク。


 その後も、冷麺はもう一杯茹でられ、

 コハクにはツナ&乾パンの特製プレートが用意された。


「こんな時代でも、ちゃんと冷たい麺が食べられるなんて……」


「文明の力ってすげぇよな。フリーダム号のおかげだ」


「そしてコハクちゃん、ほんとに食いしん坊なんですね」


「わふふん」


「いやいや、これ以上太ったら助手席乗れないからな?」


「わふっ!?」


 夜の空には星が輝き、山の風がやさしく車体を揺らす。


 今日も笑ってご飯を食べられた。

 それだけで、生きてるって気がするんだ。

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