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第49話 ブランチは豚骨ラーメン

 小鳥の声が消えた世界で、エンジン音だけが静かに響く。

フリーダム号は北へ、青森へ向けて、今日も変わらず走り続ける。


「さて、この辺でブランチにしようか」

 俺は道路脇に小高い丘を見つけ、そこにフリーダム号を停車させた。

 見晴らしは抜群。風は少し冷たいが、日差しは暖かい。


「じゃあマルタイ棒ラーメン、いくぞ!」


「はいっ、楽しみです!」


「わふっ!」


 調理開始。

 キッチンユニットに鍋をかけ、ラーメンの準備を進めるしゅう。

 ユイはその横で、ドッグフードをコハクの器に盛っている。


「コハクちゃん、今日はつまみ食いしちゃダメだからね?」


「わふふん……」


 どこかしら耳が伏せ気味である。


「しゅうさん、マルタイ棒ラーメンって食べたことなかったんですけど、有名なんですか?」


「九州民の誇りだよ。茹で時間はたった2分、ストレート麺で替え玉いけるから最強だ」


「へぇ、そこまで語れるなんて……」


「そりゃあ一人暮らしの味方だったからな。カップ麺よりうまいし、安いし」


 ぐつぐつ。お湯が沸き、麺を投入。


「スープは粉末と液体のW構成。濃厚豚骨の証さ」


「しゅうさん、ちょっと興奮してません?」


「してるよ? 終末世界でマルタイ棒ラーメン食えるなんて、奇跡なんだぜ?」


 ふと、視線を感じた。

 見ると、すでにコハクが“いつもの位置”でおすわりしていた。


「……おまえ、ドッグフード食べたろ?」


「わふ……(※食べたけどまだいける)」


「見てこの目、完全にラーメン狙ってる」


「さっきあげたばっかりなのに~」


 やがて完成。

 白い湯気が立ち上り、器にはストレートな細麺と濃厚な豚骨スープ。

 刻みネギや紅しょうががないのは残念だが、それでも旨そうだ。


「じゃあ、いただきます!」


「いただきます!」


「わふっ!」


 ズズズ……。


「……うん、うまっ。え、めっちゃうまっ!」


「なんかすごい……スープ濃いのにくどくない!」


「麺が硬すぎず柔らかすぎず、絶妙。替え玉したくなる気持ちわかるだろ?」


「これはやばい……ハマる味です!」


 ふと、ユイの器に前脚をかける気配


「おっと! コハク! ダメだってば!」


「わふぅぅぅ……」


「お前のはこっちだ、ラーメンスープちょっとかけたツナ粥。はいどうぞ」


「わふっ!」


 ドッグフードを工夫するうちに、まさかの“つまみ食い専用メニュー”が出来上がっていた。


 食後。

 空になった器と、満足そうな顔のコハクとユイ。


「マルタイ棒ラーメン、またあったらまとめ買いしましょう!」


「同意しかない」


「おかわりください……って目してますよ?」


「無理です」


 暖かい陽射し、静かな空間、そして温かなブランチ。

 この時間を守るためにも、先へ進まなくちゃいけない。


「さーて、行きますか。青森、そして……北海道へ」


「はい!」


「わふっ!」


 フリーダム号は再びエンジン音を響かせ、北を目指して走り出した。

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