小鳥の声が消えた世界で、エンジン音だけが静かに響く。
フリーダム号は北へ、青森へ向けて、今日も変わらず走り続ける。
「さて、この辺でブランチにしようか」
俺は道路脇に小高い丘を見つけ、そこにフリーダム号を停車させた。
見晴らしは抜群。風は少し冷たいが、日差しは暖かい。
「じゃあマルタイ棒ラーメン、いくぞ!」
「はいっ、楽しみです!」
「わふっ!」
調理開始。
キッチンユニットに鍋をかけ、ラーメンの準備を進めるしゅう。
ユイはその横で、ドッグフードをコハクの器に盛っている。
「コハクちゃん、今日はつまみ食いしちゃダメだからね?」
「わふふん……」
どこかしら耳が伏せ気味である。
「しゅうさん、マルタイ棒ラーメンって食べたことなかったんですけど、有名なんですか?」
「九州民の誇りだよ。茹で時間はたった2分、ストレート麺で替え玉いけるから最強だ」
「へぇ、そこまで語れるなんて……」
「そりゃあ一人暮らしの味方だったからな。カップ麺よりうまいし、安いし」
ぐつぐつ。お湯が沸き、麺を投入。
「スープは粉末と液体のW構成。濃厚豚骨の証さ」
「しゅうさん、ちょっと興奮してません?」
「してるよ? 終末世界でマルタイ棒ラーメン食えるなんて、奇跡なんだぜ?」
ふと、視線を感じた。
見ると、すでにコハクが“いつもの位置”でおすわりしていた。
「……おまえ、ドッグフード食べたろ?」
「わふ……(※食べたけどまだいける)」
「見てこの目、完全にラーメン狙ってる」
「さっきあげたばっかりなのに~」
やがて完成。
白い湯気が立ち上り、器にはストレートな細麺と濃厚な豚骨スープ。
刻みネギや紅しょうががないのは残念だが、それでも旨そうだ。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます!」
「わふっ!」
ズズズ……。
「……うん、うまっ。え、めっちゃうまっ!」
「なんかすごい……スープ濃いのにくどくない!」
「麺が硬すぎず柔らかすぎず、絶妙。替え玉したくなる気持ちわかるだろ?」
「これはやばい……ハマる味です!」
ふと、ユイの器に前脚をかける気配
「おっと! コハク! ダメだってば!」
「わふぅぅぅ……」
「お前のはこっちだ、ラーメンスープちょっとかけたツナ粥。はいどうぞ」
「わふっ!」
ドッグフードを工夫するうちに、まさかの“つまみ食い専用メニュー”が出来上がっていた。
食後。
空になった器と、満足そうな顔のコハクとユイ。
「マルタイ棒ラーメン、またあったらまとめ買いしましょう!」
「同意しかない」
「おかわりください……って目してますよ?」
「無理です」
暖かい陽射し、静かな空間、そして温かなブランチ。
この時間を守るためにも、先へ進まなくちゃいけない。
「さーて、行きますか。青森、そして……北海道へ」
「はい!」
「わふっ!」
フリーダム号は再びエンジン音を響かせ、北を目指して走り出した。