学校帰り、私は人気のない図書館の一角にいた。
新聞の縮刷版をめくる指が震えるのを、止めることはできなかった。
それは10年前――。
東北地方のある町で起きた、「女子校クラス全員行方不明事件」。
記録には、失踪前の異常な校内状況、教師たちの沈黙、保護者による集団提訴。
だが、決定的な解決には至らず、事件は迷宮入りとされていた。
唯一名前の出ていたのは、当時の2年C組に所属していた少女――緒川 美琴(おがわ みこと)。
彼女は、ある日学校の非常階段から飛び降り自殺を図り、遺書を残して命を絶った。
『わたしが死んでも、あの子たちだけは許されない』
『夜の教室で、ひとりひとり連れていく』
その日から、クラスの生徒は次々と姿を消し、最終的には全員が失踪した。
現地の旧校舎はその後廃校となり、立入禁止に。だが、そこは今も現地では“祟りの場所”として囁かれていた。
「ここに、行くしかない……」
私は決意した。
もう逃げるだけじゃ、誰も救えない。
この呪いの“起点”に触れなければ。
◇ ◇ ◇
数日後、私は一人で東北の町に降り立った。
SNSで集めた写真、現地の噂、そして美琴が遺書を残した階段の場所を頼りに、問題の廃校へと足を運ぶ。
周囲は山に囲まれ、夕暮れ時にはまるで異界のような静けさだった。
校門は崩れ、立ち入り禁止の看板は風で歪んでいる。
フェンスの隙間から校庭に足を踏み入れた瞬間、風が止んだ。
「……ここだ」
構内は廃墟そのものだった。
割れた窓、剥がれた壁紙、黒ずんだ天井。
だが、見覚えがある。異界で私たちが逃げ回った、あの校舎と寸分違わない。
私は校内を進み、非常階段の前に立った。
そこで、私は見つけた。
剥がれた壁の向こうに、黒ずんだ血の跡。
そして、誰かが爪で刻んだような言葉が、うっすらと残っていた。
『この場所で、終わらせて』
その瞬間、背後から風が吹き、ドアが軋むように開いた。
中は、まるで別の世界――
あの“異界”と、完全に一致する空間が現れた。
そこに、いた。
仮面の教師。
しかし、異界とは違う。ここでは“静止している”。
動かず、しゃべらず、ただその場に立っているだけ。
私は、おそるおそる仮面に近づき、手を伸ばした。
……仮面の奥には、美琴と同じ制服を着た少女の顔があった。
「……あなたが、“呪いの始まり”……?」
彼女は、目を閉じたまま、口だけが動いた。
「――誰かが、見つけてくれるのを、待ってた」
「……なにを?」
「本当の“儀式”は、あの教室じゃない。
この場所、“ここ”で……私を解放して」
その言葉の意味を問いかける間もなく、校舎が震えた。
異界の気配が、こちらの世界に滲み出してくる。
この場所は、呪いの源。
誰かが怒りと悲しみを抱いて命を絶ち、そして忘れられ、時間だけが過ぎた。
だが、想いだけが今も残り、儀式を繰り返していた。
私は、ここで終わらせる。
そう決めた。