数日後。
学校は何事もなかったかのように、日常を取り戻していた。
誰も、異界送りのことは口にしない。
欠席していた生徒たちも、不思議なほど何事もなかったように戻ってきた。
ただ――
私たちだけが知っている。
あの夜、本当に何があったのかを。
◇ ◇ ◇
放課後。
私は、資料室にいた。
異界送りの記録を、再び見直していた。
緒川美琴。
そして、その祖母、緒川陽子。
彼女たちは、代々続く「呪い」に絡め取られていた。
美琴は、異界送りの“器”として選ばれ、
陽子は、その“始祖”だった。
だが、もっと深い闇が存在する気がしてならなかった。
なぜ緒川家なのか?
なぜ代々、仮面を被る存在が生まれるのか?
この世界に、何が――?
(答えは、まだ全部見つかっていない)
私は、封筒に挟まれた一枚の古びた写真を手に取った。
30年前、緒川陽子が教師として写っている卒業アルバム。
その隣に、もう一人、目立たぬように立つ黒い制服の少女。
アルバムには、名前が書かれていなかった。
ただ、少女の顔は、微かに――私に似ている気がした。
ぞくり、と背筋を悪寒が走った。
◇ ◇ ◇
その夜、帰宅してベッドに潜り込んだとき。
窓の外、風に乗って、誰かの声が聞こえた。
『――まだ、終わってないよ』
私は、静かに目を閉じた。
ポケットの中で、仮面の破片が、冷たく光った。
(……また、いつか)
呪いと向き合う日が、来るかもしれない。
だが今は、この短い平穏を、噛みしめていた。
◇ ◇ ◇
――そして、世界のどこかで。
誰かが、また夜中の教室に集められる、音がした。