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第10話 仮面の血脈

 数日後。

 学校は何事もなかったかのように、日常を取り戻していた。


 誰も、異界送りのことは口にしない。

 欠席していた生徒たちも、不思議なほど何事もなかったように戻ってきた。


 ただ――


 私たちだけが知っている。

 あの夜、本当に何があったのかを。


 ◇ ◇ ◇


 放課後。

 私は、資料室にいた。


 異界送りの記録を、再び見直していた。


 緒川美琴。

 そして、その祖母、緒川陽子。


 彼女たちは、代々続く「呪い」に絡め取られていた。


 美琴は、異界送りの“器”として選ばれ、

 陽子は、その“始祖”だった。


 だが、もっと深い闇が存在する気がしてならなかった。


 なぜ緒川家なのか?

 なぜ代々、仮面を被る存在が生まれるのか?

 この世界に、何が――?


(答えは、まだ全部見つかっていない)


 私は、封筒に挟まれた一枚の古びた写真を手に取った。


 30年前、緒川陽子が教師として写っている卒業アルバム。

 その隣に、もう一人、目立たぬように立つ黒い制服の少女。


 アルバムには、名前が書かれていなかった。


 ただ、少女の顔は、微かに――私に似ている気がした。


 ぞくり、と背筋を悪寒が走った。


 ◇ ◇ ◇


 その夜、帰宅してベッドに潜り込んだとき。

 窓の外、風に乗って、誰かの声が聞こえた。


『――まだ、終わってないよ』


 私は、静かに目を閉じた。


 ポケットの中で、仮面の破片が、冷たく光った。


(……また、いつか)


 呪いと向き合う日が、来るかもしれない。


 だが今は、この短い平穏を、噛みしめていた。


 ◇ ◇ ◇


 ――そして、世界のどこかで。

 誰かが、また夜中の教室に集められる、音がした。

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