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Ep.3 第一任務

暗い暗い闇の中。


”それ”は蠢き、呻く。


低い声は人のものなのかそれ以外のものなのかそれは分からない。


だが、一つ言えるのは”それ”は何かを探すそぶりを見せているということだけだ。


そして”それ”は突然言葉を思い出したかのように流暢に言葉を話し始める。


「よべ。我を、私を、僕を、某を、俺を、呼べ。」


蠢く”それ”が手と思しきものを伸ばしてきた。


────────────


夢から覚める黒瀬 零くろせ れいは滝のように汗をかいていた。

額を伝いこめかみを通り抜け、頬を伝う汗はあごへ流れると布団に一粒落ちる。

ぼうっと数分が過ぎる。


午前4時。

学生が起きるには少々早すぎる時間である。

カーテンを開け昇り始める朝日を部屋いっぱいに取り入れる。

黒瀬は深呼吸するとまだ暑くなりきらない外気をいっぱい灰に取り入れて体の覚醒を促す。

そのあとはシャワーを浴びて寝汗を流し完全に覚醒する。


そして風呂上りに制服を手に取る。

あの頃のような重々しい隊服ではなく年相応の学生服にやはり違和感を覚える。

袖に手を通し、ボタンを一つずつゆっくりと閉めてゆく。

ズボンをはきベルトをまくと体中を動かし制服に慣れてゆく。


午前4時30分

朝食には必要な栄養成分が詰まった味のないウエハースを一つ口の中へ放り投げ30回咀嚼して水で詰め込むように流し込む。

一通り支度を済ませると時計の時間は5時を指していた。


「また、やってしまった。」


そうつぶやくと黒瀬は携帯電話を取り出し、焔戸 燃えんと もゆるという名前と電話番号が表示された画面へと操作して電話をかける。待機音が数分後、うまく声が出せないでいる燃が電話へ出た。


「……んだよ?」


不機嫌そうな声に黒瀬は申し訳なさそうに「今日もまた癖でやってしまった」と落ち込みながら燃へ話すとため息の後、電話を切ろうと構えたが再び大きな溜息をつき話始める。


「すまない。朝早くから。」


「朝早くから電話かけるのは迷惑って理解してるみたいだな。」


「あぁ、本当に申し訳ない。だが、この癖どうすれば治るのだろうか。」


本人も悩むその癖…それは彼が”元”BLACK D.O.Gであるということに関係している。

BLACK D.O.Gとは、犯罪異能力者を殲滅するために結成された少数先鋭部隊のことである。

元々孤児だった黒瀬、燃、難場ともう一人はそこから政府に引き取られBLACK D.O.Gに所属することになる。まだ7歳だった四人には衣食住と勉学を教えてくれる人がいるだけで天国も同然だった。

そんな黒瀬の癖というのは軍隊張りの早起きである。BLACK D.O.Gとして活動していた頃、黒瀬、燃、難場ともう一人は子供であるにもかかわらず、成人と同じような訓練、習慣を余儀なくされた。

どうもその頃の癖が黒瀬はまだ抜けないらしい。


「で、なに。一通りやっちゃったのかよ?」


「あぁ、早起きから制服に着替えるまでをやった。」


「普通にか?」


「あぁ、時間を早めないように遅く遅く入った。」


カーテンを開ける、窓を開けて空気入れかえはもやり、少しでも遅くするために時間稼ぎを意識した行動だったようだが、それでも黒瀬は準備を完了させてしまっていた。


「まだ、登校時間まであるし…ん~銃の整備とかしとけば?」


「だが、普通の高校生は銃を所持していなし、整備とかもしないのだろう?」


「ん~、じゃ、しらね。本を読むとか、ケータイで何かくだらない動画見るとか……」


「なるほど、分かった。やってみる。」


「おうおう、んじゃ俺はもう少し寝かせてもらうぜ。」


「あぁ、おやすみ。」


プツリと電話が切れると黒瀬はソファに寝転び、携帯電話で動画サイトを開き適当な動画を検索して見始めた。

ちなみにその後は動画を見終わるたびに難場へと電話をかけまくって結局うまくいかなかった黒瀬であった。


────────────


登校後。

黒瀬、燃、難場の三人はさっそく昨日同様担任に進路相談室へ召集される。

眠い目をこする二度寝した燃、本に没頭している難場、背筋を伸ばし先生が来るのを待つ黒瀬。

それぞれが思い思いに待っていると教室のスライドドアが開く。

担任兼隊長の我楽 多がらく おおいが入ってくる。

何やら厚めの紙媒体を目にした三人は何か指令が来たのだと悟る。


”元”BLACK D.O.Gの三人が受けた政府からの指令は私立井中高校の生徒の犯罪を未然に防ぐと初者だった

我楽隊長が持っているのは今回、犯罪を起こすとされている生徒の情報だろう。

我楽は紙媒体を配っていくと自分用の資料に目を通し三人に目を向ける。

支持を待っている三人を確認すると我楽は前置きなく話し始める。


「さて、おはよう三人とも。」


「おはようございます~」


「おはようございます。」


「おはようございます!」


「黒瀬、声大きい。まぁ、前置きはなしでこの高校にきて初めての任務だ。」


資料に乗っていた生徒は一言で言えば”目立ちそうにない”というのが第一印象であった。


名前:竹林 植たけばやし うえる

出席番号:10番

生年月日:20XX/7/7生

血液型:A

身長:160㎝

体重:55㎏

異能力名:竹爆バンブーボンバー レベルE

能力説明:「竹」を生やし、その竹を任意のタイミングで爆発させることが出来る能力。

ただし、たけのこがないと発動できない。


その情報の他には住所、電話番号etc.……が載っていた。

三人はある程度目を通すと、我楽に読み込み終わったことを視線で送る。

その視線に気づき我楽は任務の概要を説明し始める。


「えっと…彼だが、未来視で未来を見たところ、数日後に学校へ爆破テロを行うと見えたらしい。」


燃はすぐに挙手して我楽に質問する。


「はーい。その未来視って本当に信用していいんですか~?」


「何度も言うが、それは君ら次第だ。それで話を戻すが、内容は以下の通りだそうだ」


資料には丁寧に未来視の内容も書かれていた。

7/7標的の誕生日当日。私立井中高校にて標的がテロ組織を連れて爆破テロを行う。

本人を含めたテロ組織はその後自決した。犯行理由などを調査したが見つからず事件は迷宮入りとなった。

以上、またこれはあくまで未来の話である。


「ということで。この未来が起こらないようにきみらが今日から竹林君を監視してくれ。」


「結局、政府は俺らしか頼らないわけね。」


「まぁ、僕たちなら失敗しても死んでも問題ないってことでしょ。」


「そうだな、その方が合理的だ。」


「マイナスに考えるのはやめなさい。君らにはちゃんと実力がある。その実力を政府の方々は買ってくれているんだ。あと、死んでいいような人間にこんな重要任務はいらしない。」


「おだてるなって。何もうれしくない。」


「同感です。」


我楽はため息をつくと、とにかく頼んだと言い三人を教室へかえす。


実力は本物だ。

この任務は失敗することはないだろうと我楽は余裕の反面、少し不安もあった。


「よろしく頼むよ三人とも。」


Ep3:FIN

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