「おい、起きろ。」
声が聞こえる。体をゆすられているのか心なしか頭が揺れている。
そして、何度目かの声と共に僕の体の感覚が明確に正確に戻ってくるのがわかる。
ボーっとしていまだに夢うつつの状態が腹部の痛みと共に一気に頭を覚醒へと導かれる。
固い何かから起き上がると例の転入生三人に囲まれていた。
「やっと起きましたか。」
足元で本を読んでいる難場くん(だっけ?)が本を閉じて立ち上がる。
助けてくれたのか?
そんなことを思いながらまずは感謝をする。
「ありがとう。」
「いや、お礼を言うにはまだ早い。」
黒瀬くん(だっけ?)が腕組みしながらこちらへ飲み物を渡す。
ココアの缶を開けて飲み干す。
甘いチョコの匂いが気分を落ち着けてくれた。
「そうだ。まだ問題は解決されてない。」
確かに、問題は解決されていない。
僕は、これからどうしようかと頭を抱える。
すると三人は僕に携帯端末を見せてきた。
端末に映っていたのは夕暮くんが僕を殴っている動画だった。
「これは……」
「いや、すまない。あの後、道に迷ってたまたまお前を見つけて後を追った結果がこれだ。」
焔戸くんは壊れそうな強さで端末を握りしめていた。
映像が乱れ始め、焔戸くんは慌てて動画を止める。
「これを先生に見せる。多分いじめはなくなるだろう。」
「なんで、ここまでやってくれたの?」
その疑問が考える暇もなく口から出てきた。
他の誰も僕のことを助けてくれなかったのに……何よりも、三人の表情が怒りに満ちているように見えるのは間違いではない。
「仲間だからな。」
「仲間?」
「そう、仲間。同じ学校に通って同じクラス。それはもう仲間だろう。」
他の二人も無言でうなずく。
この三人は心が優しいんだろう。
出会ってまだ一日しかたっていない僕に手を差し伸べてくれて。
「ありがとう。」
「ははっ、よせやい、照れるじゃねぇか。」
焔戸くんが頭を掻き照れ隠しをする。
そして、難場くんが口を開く。
「動画を先生に見せるのはいいですが、おそらくいじめはエスカレートしそうですよ。」
「そうなのか?なぜ?」
「漫画や、小説ではそれがテンプレになってました。」
「なるほど……」
黒瀬くんが顎さわり考える。
というか、難場くんのその勉強の仕方はちょっと偏りが生まれるんじゃないかな。
そんなことも言える雰囲気ではなかったのでそれは言わなかったが、数分の沈黙の後、焔戸くんが切り出す。
「じゃ、一緒に行動しようぜ。」
「ま、その方が無難なんですが……とか、……の時どうするんですか。」
「ん~まぁ、どうにかなるだろう」
三人は何か作戦会議を終えたらしく、こちらへ向き直り改めてともに協力することを提案してきた。
もちろん願ってもないことだ。むしろありがたい。
「本当にありがとう。」
「いいってことよ。」
三人の顔は穏やかだった。
────────────
午後7時。高架下。転入生三人組にぶちのめされた不良三人は起き上がる。
「あ、れ?俺ら、なんでここに?」
一瞬混乱するが思い出す。
何者かに異能力を使えず無抵抗でやられたことを思い出す。
「ちっ!なんななんだよ!」
「虎、とりま今日は帰ろうぜ。俺、なんか疲れたわ。」
「さんせー、んじゃ虎、帰ろうぜ。」
仲間のその言葉に虎は苛立っていた気持ちを切り替え高架下を出たその瞬間。
他二人の姿が一瞬にして目の前から消え失せた。
「おい、
そして、夕暮 虎はいつもの河川敷が見当たらないことに気づく。
後ろを振り向くと黒い影が立っていた。
炎のような揺らめき、甘い華の香り。
影がこちらに向かってくるとその姿がはっきりと見えてきた。
四足歩行の”ソレ”はやがて立ち上がる。
身長2mはあるだろうその巨体に虎は後ずさる。
「な、なんだよお前。」
『お前ではない。』
”ソレ”はそう言うとのそりのそりとゆっくりと虎の横を通り過ぎていった。
虎は恐怖に体を支配されそのまま固まってしまった。
そして、気が付く。
「いつもの河川敷……」
辺りを見渡すとこちらに手を振って合図している二人が笑いかけていた。
「おーい!虎ぁ!早く帰ろうぜ!」
虎はすぐにいつもの調子で駆け寄っていった。
「何、ずっと固まってたけど。ダイジョブ?」
「お、おう、ちょっと考え事してた。行こうぜお前ら。」
夕暮 虎は二人の前を歩き出した。
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帰り道。
竹林は、たびたび公園の方を向き、しんみりしながらも歩き出す。
「うれしかったな。」
そんなことをつぶやきながら帰路へつくが違和感に襲われる。
誰かにつけられている?
気のせいだと振り払おうとするが頭の中に”違和感”が残る。
『このままでいいの?』
ふと声が聞こえた。
辺りを見渡すが誰もいない。
竹林は足を速める。
『弱いままで、守られてばかりでいいの?』
「僕は一緒に戦ってるんだ。僕の成長の邪魔をしないでくれ。」
『何か、勘違いしているんじゃないか?』
その言葉に竹林は止まった。
止まってしまった。
視界がゆがんでいるように感じ動いてしまったら倒れそうだった。
『キミは何一つ成長できてないだろう。』
『今まで無視されていたキミ如きが急に戦える存在に?』
『何か勘違いしているんじゃないか?』
「やめろ。」
竹林は本能で理解した。
これは異能攻撃もとい異能”口撃”だと。
歩みを進めようと足を踏み出したが視界が揺らめく。
「異能力……」
『さぁ、どうだろう?キミの幻聴かもしれないし、悪魔の囁きかも知れない』
「やめろって言ってるだろ!」
竹林が叫ぶとささやきが笑いながら消えると視界は戻り普段の帰路に戻った。
恐怖を覚え、捨てようと振りかぶろうとしたがさっきの言葉が頭の中に残っていた。
『何か勘違いしているんじゃないか?』
『成長なんてしていない。』
『キミ如き』
竹林は、動悸を抑えるように慌てて帰路を駆けた。
Ep5:FIN