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Ep.6 第一任務 始

「おはよう。」


手を置かれる肩へ目線を映し素早くその先を見る。

その手がいつもの夕暮くんのものではなく黒瀬くんのものだと確認すると僕は少し安堵する。

目が合うと黒瀬くんは小首をかしげ何か言いたげな様子だった。


「ど、どうしたの?」


「いや、今、何かにおびえるような表情を一瞬したから……」


すごい観察力だ。

思わず僕はこれまで朝から夕暮くん達にいじめられていたことも言ってしまった。

その話を聞いても黒瀬くんはやはりあまり反応が少ない、でも怒っているのは伝わってくる。こう、表情とか態度とかそんな感じじゃなくてオーラや雰囲気といった見えないもので伝わってくる。


「そうか、だが、大丈夫だ。今日からは俺らがついているからな。」


他の二人は例の動画を先生に見せに行ったらしい。

その間、黒瀬くんは僕が心配だからと動画のことは二人に任せてこっちに来てくれたそうだ。


優しいな。


教室の戸を引くとすぐ目の前に夕暮くん達がいてぶつかりそうになった。

無言でこちらをにらむ夕暮くんは何も言わずに僕と黒瀬くんを押しのけ教室を出た。

そこへ黒瀬くんがつかさず話しかける。


「おい、お前ら、もうすぐホームルームが始まるぞ。どこに行く?」


その言葉に夕暮くんは一瞬拳を握りぶるぶると震えたがこちらを振り向くと爽やかな笑顔で

「トイレ」と一言残すとトイレとは逆方向へと歩みを進めていった。


「あっちの方向にはトイレはないだろう。」


夕暮くんは聞こえていたはずだが無視して廊下の先へ消えていった。

黒瀬くんは疑問の残る顔をしながら教室へ入っていった。

僕もその後に続く。

教室へ入って数分後、我楽先生と焔戸くん、難場くんが入ってきた。

そして、ホームルームが始まる。


「……とまぁ、みんなも不審者に気を付けるように…あと、夕暮、千手、奧原の三人はホームルーム終わり次第……っていないか。ま、どうせサボりだろう。よし、これでホームルーム終わります。一時限目の準備忘れずにな~。んじゃ、先生はいくよ~」


そして、我楽先生は教室を後にする。

クラス中が少しざわざわして一時限目の準備を始める。

そして、僕の周りに黒瀬くん、焔戸くん、難場くんの三人が集まった。


「おはよう。」


「おう、おはよう。で、さっそくなんだけど、例の動画だが先生に見せて指導するようにちゃんと言ったから、あとはあいつら次第だな。」


「どうせ、テンプレ通りになりますよ。」


「あはは…そうならないと良いな……」


それから一時限目の先生が入ってきて三人は席へつく。

その後、夕暮くん達は授業に一切姿を見せなかった。

サボっていないのか、それとも指導で来れないのか。

それは分からなかった。

結局放課後まで夕暮くん達は姿を見せず僕は今日初めて普通に学校生活を送ることができた。

休み時間に呼び出されてはどこかへパシらされ授業に遅刻がほとんどだった。

毎回担当教科の先生からも珍しがられていた。


そして、午後のホームルームが始まる時間になった。

先生が教室へ入ってくると何か難しそうな顔をしていた。

僕と目が合うと先生は笑顔に戻りホームルームを始めた。


「……と、まぁお知らせはこのくらいかな。あ、あと来月のテストに向けて運動場と体育館のシステムを自由に使えるようにしといたから。んじゃ、ホームルーム終了後、黒瀬、焔戸、難場の三人は先生の所へ来るように。んじゃ解散。」


先生が出ていくと三人はその後へとついていった。

そして、焔戸くんはすれ違い様に「教室でまっててくれ」と一言残し教室を後にする。


────────────


生徒指導室にて黒瀬、焔戸、難場は担任の我楽の方へ視線を向ける。

我楽は三人と視線を合わせるとため息をつく。

三人はその顔を見ると小首をかしげる。


「どうしただよ隊長。」


「僕らは何も間違ってないでしょう?」


「……」


その言葉にさらにため息をつく。


「お前らは、本当に……はぁ、まぁいい。ターゲットを守れているからな。」


三人は何が問題かわからなかった。


「では、なぜ隊長はため息をつくのですか。」


「あの動画だよ。」


そういうと改めて昨日の動画を見せつけてきた。

殴られる竹林。気を失った後も殴るのをやめない夕暮。

そして、その映像が数分過ぎたその時映像が乱れる。

その後も動画は回っており、元BLACK D.O.Gの三人組が不良高校生を占め落とすというものだった。

動画終了後、三人の態度は三者三用であった。

焔戸は目をそらし、難場は言い訳を始める。そして、黒瀬は何が悪いのだというような態度だった。


「はぁ、まぁいいさ。でもこれからは気を付けるように。」


「りょ、了解。」


「ですが、このまま映像だけいうのも僕らは我慢できませんでしたので……」


「難場。言葉がおかしくなってるぞ。」


「とにかく、お前ら今回は許すが今後はこんな問題に直面した時には俺から戦闘許可を取るように。」


三人が申し訳なさそうに返事すると我楽は部屋を後にする。


「俺ら、何か間違ったか?」


「間違ってないですよ。」


「だが、隊長は困っていたぞ?」


三人は隊長の態度に疑問を持ちながら部屋を後にした。

そして、待たせていた竹林を迎えに教室へ行ったが、そこに竹林の姿は跡形もなかった。


「おい、こりゃまずいぞ」


三人はすぐに理解した。

例の不良共に拉致されたと。どこかへ連れ去られいじめられていると……

だが、状況は三人が予想するよりもはるか斜め上へと動こうとしている。


────────────


俺は今日一日を屋上で過ごすと決めたのだが……

どうやらそうもいかないらしい。

昨日の高架下でのことが担任にバレた。

千手が呼びに来て俺は苛立ちながらも呼び出しに応じた。


「さて、なんで呼ばれたかわかるな?」


「何でしょうね~」


担任はため息をつくと動画を見せてきた。

俺が拳を放つ動画。

覚えがありまくりだった。

内心舌打ちをして担任の話を反論もせずに聞き流す。


「聞いてるか?夕暮~」


「あ?え?えぇ…聞いてますよ~俺が悪かったですよ~」


「はぁ……適当だな。お前そんな態度じゃ、同じ立場に置かれたとき誰も助けてくれないぞ?」


そんなわけあるかよ。

俺は強いんだ。そんな立場になるなんてありえねぇッつーの。

と思うわけだがもちろんそんなことは言わない。

その後もダラダラと道徳がどうとか、人の痛みがなんだかんだと説教され俺は校門をくぐった。


その帰り。

さすがに千手も奧原もかえっていないだろうな。

チャットアプリを開き二人に連絡を取ってみると案の定バイトとか部活(サボりがばれて指導中だったらしい。)とかで今日は集まれない状態だった。


「はぁ、どうせおふくろは仕事でいないだろうし、ファミレスかゲーセンか……」


それもこれもどこかのだれかが動画を担任に渡したせいだ。

なんかむかついてきた。

あ~あどこかに竹林いないかな。

などと内心むしゃくしゃしながら歩いていると今欲しかったサンドバッグ竹林がフラフラと歩いていた。

丁度いい。ストレス発散にあいつ一発殴ってスッキリしよう。


「おい。竹林。」


俺の呼びかけに竹林はこちらへゆっくりと振り返ると腑抜けた顔でそして鼻で嗤った。

その態度に今日のストレスがすべて爆発した。

胸ぐらをつかむが竹林はその態度を変えることなく俺を見下したような目で見てくる。


「な、なんだよ。その態度は。」


だが、竹林は笑うだけで何も言わない。

俺がそのおかしな態度に少し怖気づくと竹林は手を振り払い突き飛ばす。

そのせいで肩から変な体制で倒れた俺の肩に痛みが走る。


「い…ってぇな!!」


再び胸ぐらをつかもうと迫った瞬間竹林はいつの間にか手に持っていた竹槍を俺の鼻先に突きつける。

俺はその鋭い竹槍に再び怖気づく。

何だ、こいつ様子がおかしい。

そう思った時にはもう遅かったのかもしれない。

距離が少し空いた俺に向かい竹林は目にも止まらない速度で竹槍を突き出してきた

危うく顔面にその竹が突き刺さろうとしたその時、俺は虎化で避ける。


「お、お前、マジで殺す気か?!」


「……」


何かブツブツとつぶやいているが何を言っているかわからない。


「おい!竹林!やめろって!!」


俺の声は全く届いていない様子だった。


Ep6:FIN

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