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Ep???:↓ → + ω → ⤴” _ /

そこに大国があった。


国土が大きいだけで貧しかったその国はそれでも力強く生きていた。

王は日々、城下町だけはなく他の町も回っていたし、開拓されていない場所はすぐに国民のために切り開いた。そんな国は確か北欧辺りにあったがその国は最初からなかったかのように歴史から抹消されている。

記憶をたどれど、記録をたどれど、どれだけその国の痕跡を探そうとその国は歴史には存在していなかった。


────────────


それはまた、蠢き、呻く。


「よべ。我を、私を、僕を、それがしを、俺を、呼べ。」


『誰なんだ。お前は』


少年は話しかける。

いや、少年の口からは声は発せられていない。

だが、少年は伝える。

お前は一体何者なのかと。


それはただ黙っているだけだ。

そして、口をただ動かすのみだった。おそらく何かをしゃべっているのだろう。だが声が聞こえてこない。こちらも再び伝えようと声を発しようと口を開けたが、息ができなくなってきた。


そして、気づく。


今までいたのは”乾いた陸”ではなく、”押しつぶされそうになるほど深い海の底”だと。

黒瀬 零は音を立てながら、不本意に酸素を口から漏らしてしまった。

必死に叫び訴えるが、それはだんだんとぼやけてきた。

これは体が覚醒の準備を始めだしていると黒瀬はさっきよりも慌てる。

だが、思考ではこんなことでは伝わらないと知っている。体が、口が、勝手に動いてしまう。そのうち酸素がなくなった黒瀬の視界は暗くなってきた。


『お前は、誰なんだ……』


「思い出せるはずだ君なら、あなたなら、お前なら。」


『待て、どういう意味だ!!』


その言葉を最後に黒瀬は覚醒した。


夜の自室。

黒瀬は目を開け、飛び起きる。

顎を伝い汗は布団へと落ちる。

バケツをかぶったかのような汗をぬぐうとベッドから降りて上半身を脱ぐ。

ふと、月明りに照らされた鏡に自分が映っていたので傷の具合を見ようと鏡の中の自分と向き合う。

視線を落としていくとあの痛々しい傷が視界に入ったかと思ったが、そんな傷は最初から負っていないかのように傷が治っていた。その光景に完全に目が冴えた黒瀬は鏡に近づき、軽い火傷を負っていた顔面も確認する。


ない。


否。


治っている。


完全に治っている。

ただれた肌は完全に綺麗に元通りに治っていた。


「これは……」


傷のあった箇所を触ったりちゃんと感覚があるのか確認するためつねったりした。

ちゃんと感覚も、痛覚もあった。

自分は確かにあの時、竹槍に思い切り腹を貫かれたし、爆風に巻き込まれて軽くだが火傷も負ったはずだ


はずなのに……


「はぁ……これは、困ったな。」



深夜2時の出来事。黒瀬 零は汗を流すためシャワーを浴びて再び寝床へつきさっきのことは見間違えだとしたいため、そして、明日も学校があるので早く眠りにつくことにした。


翌日、その傷は完全に治っている事が確認できた。

この異常事態を伝えるべきか否か、黒瀬は悩む。

時計が登校時間を知らせるように目に入ると黒瀬は朝食を終えて自室を後にした。


「少年。思い出せ、自分の使命を。」


それをつぶやく。

暗く、深く、押しつぶされそうな海の底で。


「あれが、黒の王か……」


黒瀬の登校姿を遠くから見つめるのは白いローブをかぶった人影。

ローブから見える口はニヤリと口角を上げる。

そして、朝の陽の光に溶けるように消えた。


「……?」


黒瀬は視線を感じて後ろを振り向くが当たり前だが、そこには何もいない。

再び通学路へ振り向くとそこには珍しく焔戸と難場の二人がいた。

二人は黒瀬へ手を振りながら待っていた。合流した黒瀬は一緒に通学路を歩み始める。


「はよ~」


「おはよう。」


「後ろを振り向いていましたが、何かいたんですか?」


「いや、視線を感じてな。それより早く学校へ行こう。」


「そんな急ぐなよ。どうせまだまだ余裕はあるんだゆっくり行こうぜ。」


焔戸の言葉に走り出そうとしていた黒瀬は二人に挟まれ歩き出す。


Ep???:FIN

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