いつもの生徒指導室へ集まった三人は我楽を待つ。それぞれが読書や勉強をしている。
黒瀬はテスト範囲の勉強をしている。その黒瀬を見つめる焔戸。どうやら何か違和感に気が付いたようだ。
無言で黒瀬を見つめているともちろん黒瀬は気が散るので焔戸と目を合わせる。
「どうした?」
「いや?怪我してまだ数日しかたっていないけどやけに元気そうだなってな……」
その会話に読書中の難場も参加する。
「確かにやけに元気そうですね。」
「そんなことはないと思うぞ。腹の傷はまだ痛むし、火傷もまだ治ってはいない。」
いつもと違う様子に二人はますます黒瀬をじっと見つめる。耐えきれず、黒瀬が二人から目をそらすと何かを察したというより、勘に近い感覚で焔戸はそれが嘘だと見抜いた。二人の様子に黒瀬も気づいたのか三人の動きが固まり、教室には呼吸の音だけが聞こえる。黒瀬が音を立てて椅子を引くと、二人は黒瀬を取り押さえ、焔戸は制服をめくり難場は顔をの包帯をはぎ取る。
「や、やめろ……」
「おい、お前、傷治ってるじゃねぇか」
「火傷も完治してますね。」
その時、ガラガラと教室の戸が開く。
二人は我楽が入ってきたと思いそこに視線を移す。そこにいたのは我楽ではなく、女の子が一人、三人と目をバッチリと合わせた。
その場にいる四人の間に沈黙が流れる。
押し倒され、制服を脱がされる一人と、その一人に対して襲い掛かる二人は女子生徒からはどんな風に見えるか……答えは……
「ふ、不純同性交遊?!」
その声と共に焔戸と難場はハッと気づく。
そして、慌てて今の状況の誤解を解こうと説明する。
「誤解だ!勘違いだ!」
「そうです。あなたは大きな勘違いをしています。」
そんな二人の言葉にあとに黒瀬は口を開く。
「同意はしていない。無理やりだ。」
「「お前は黙れ!!」」
黒瀬が口を開いたせいで余計にややこしい状況になった。
わちゃわちゃと騒がしくなった放課後の指導室に急いできた我楽が騒がしい教室へ近づいた
「お前たちどうした~?」
女子生徒が我楽の方を向くとやってきた我楽に今の指導室の状況を見せる。
我楽は三人の状態を見て天を仰ぎ、ため息をつく。そして、何となく状況を察しツッコミを入れた。
「全くお前たちは……ややこしいことすんな!」
「本当にすみません。」
「いや、水辺は謝る必要ないぞ。ほら、俺はこいつらと話があるから早めに帰りなさい。」
「分かりました……さようなら…」
女子生徒を帰宅させると我楽は指導室へと入る。そして、三人の頭をはたきながら席につかせる。場が整ったところで改めて次なる任務の資料が渡される。前回と同じで能力などの情報が載った紙が渡されると三人…いや、我楽を含む四人が苦い顔をする。
名前:
出席番号:25番
生年月日:20XX/8/1生
血液型:B
身長:152.5㎝
体重:43.5㎏
異能力名:
能力説明:”体内”の水分を使い、水を勢いよく鉄砲玉のように素早く射出する能力。一回の射出で大体実弾と同じ質量の水分を使用する。連続使用時間は大体30分程度。
※水辺の場合は射出水分量が制御不安定のため30分としている。
もちろん顔写真付きの情報である。
その顔写真が先程の女子生徒と似ている、いや、確実に同一人物である。
本日三回目の沈黙が流れる。そして、焔戸が挙手し我楽に現実逃避の疑問を投げる。
「ふ、双子の可能性はありませんか!?」
その返答に我楽は静かに首を横に振る。
生徒の情報を調べるにあたって家族関係などの個人情報は、最初に、絶対に、間違いがないように確実に調べ上げるため水辺が双子の可能性は絶対にない。
焔戸が肩を落とすと次は難場が挙手した。
「先ほどの生徒は水辺さんではないという可能性のは!!」
「それもないな。」
その可能性も我楽は否定する。
もちろん見間違いの可能性はおおいにあるが、これも情報を調べるにあたって必ず確認する事項なのだが、”似ている顔”の生徒も徹底的に調べ上げる。というか、今の会話で我楽は水辺のことをはっきりと苗字で呼び、それを水辺が否定していない時点でさっきの少女が水辺 彗星なのは100パーセント揺るがない。
「むぅ……ならば、政府関係者に言って記憶抹消の異能力者に依頼するのはどうだろう?」
黒瀬の発言に焔戸は思い出したように我楽へ報告する。
「そうだ!隊長!こいつ、前の任務の怪我が完治してるんすよ!!見てやってください!!」
「なに?」
怪訝そうな顔でが我楽は黒瀬の怪我の具合を見る。
確かに貫かれた腹部と火傷を負った顔がきれいに治っていた。
「どこか異能力者のところで治療したのか?」
その問いかけに黒瀬は黙り込む。完治しているのは芽生えたかもしれない異能力のおかげというべきか、嘘をつくべきか黒瀬は数分黙り込んだ後、口を開く。
「治療してもらいました。」
数分黙った我楽は黒瀬の目を見て、ため息をつく。黒瀬が目をそらしながら報告をしたからである。黒瀬は嘘をつくときに目を逸らす癖があるのを分かっている我楽は嘘と思いながら、それを許す。
「はぁ…そういうことにしといてやる。」
焔戸と難場は顔を見合わせて首を傾げる。
再び我楽の方へと向き直ると我楽は脱線した話を戻した。
「政府の人間はこれ以上ここでは増やせない。記憶を消すこともできない。すまんが、お前らでどうにかして水辺を監視してくれ。」
誤解を解いたと言っても、もちろん本人の中に疑念などは残るわけで、今すぐに”仲良くなろう”などとはできない。しかも、隊長は記憶を消せないと明言している。つまるところ今回の任務は最難関任務になること間違いなしだった。
その後、改めて必須事項などを聞かされると我楽は指導室を後にした。
「最悪だぁ!今回の任務絶対失敗しただろ!!!」
「確かに難易度が急激に上がりましたね……」
「そんなこと言っても仕方ないだろう。切り替えていこう。」
「それも、そうだが……」
「そうですね……」
焔戸と難場は再び黒瀬に詰め寄る。
黒瀬は二人から逃げの体勢で詰め寄られる。
「な、なんだ。」
「怪我の話ですよ。」
「お前、能力に目覚めたのか?」
その質問に黒瀬は長考する。
その様子に焔戸はしびれを切らす。
「はぁ、隊長には言わねぇよ。もちろん他の奴にも言わない。」
「えぇ、そうですよ。僕らは兄弟みたいなもんじゃないですか。話してみてください。」
その二人の目を見て黒瀬は話始める。
夢のこと、その夢の黒いもやのこと、そいつのおかげかわからないが傷が治ったこと。
全てを話した。
「なるほどな。」
「どこかにいる異能力者がテレパシーみたいな異能力で黒瀬君に何か伝えたいのかもしれませんね。」
「むぅ……」
「とりあえず、今日はもう帰ろうぜ。」
「そうですね。」
気にしても仕方ないと焔戸が切り出したところで三人は指導室を後にした。
その誰もいなくなったはずの教室のカーテンに人影がぽつり。
「なるほど、まだ目覚めてないようだね。」
カーテンと同化していてわからなかったのか、それとも”わからなくしていた”のか影はローブを深くかぶると溶けるように教室から消えた。
Ep9:FIN