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Ep.11 第二任務 弐

「さて…交渉ゲームだぁ!」


手を組み画面の男はニヤリと口角を上げる。画面の奥では一人の少女が椅子に括りつけられていた。気を失っているのか先ほどまでの会話にも反応はなかった。画面をたたき割ろうと拳を握る焔戸は込み上げる怒りを腹の底で抑え、声を冷静に装い質問する。


「条件は何だ。」


プロフェッサーFはそのセリフを聞いてさらに口角を上げる。


「ハハハッ!そう来なくちゃ!」


イスごとぐるりと回転すると再び画面に顔を向ける。


「条件は簡単。キミ。焔戸 燃が一人で僕の指定した場所へ来ること。君以外の人間が異能力で化けていたり、君以外が指定した場所に来た場合は……もちろんどうなるかわかっているねぇ?」


フフフと笑うとFは画面上に地図を出す。

そこは、この場所から数時間、橋を越えた先の港だった。

その港は大体、怪しい団体や危険な組織が取引につかったり、身を隠すためにつかったりとりあえず警察なんかに見つかりにくい場所だ。


「いいだろう。」


焔戸はその交渉に乗り、Fを見下すように画面を見つめる。

Fはそんな焔戸の返事に手を叩いて喜んだ。


「けってーい!!!さぁ、時間は5時間!!早く来ないと彼女が死んじゃうよぉ?」


「てめぇ!!ざけんな!!条件が増えてるじゃねぇ―か!!」


先程の交渉と違う言葉に焔戸は我慢が切れて拳で殴り掛かろうとしたが画面のF鼻で嗤い映像を切った。

タブレット端末の黒い液晶にひびが入ると焔戸と黒瀬と難場の顔が反射していた。


「くそっ!!」


「やられましたね……」


難場はため息をつき考え込む。

ひび割れたタブレット端末を捨てるとそれぞれの携帯電話へメール通知音が鳴る。


「場所は覚えてるっての!!なめやがって!!」


「落ち着け、焔戸。メッセージが続いている。」


以下、それぞれの携帯電話へきたメールである。


『ヤッホーい!!焔戸君みってるぅ?今から、あの女の子を硫酸の中へぶち込もうとおもいまぁぁぁす。

さてさて、写真もつけてるよぉぉぉ?早く来ないと……( *´艸`)フフフフ……どうなってもしーらないからねぇぇぇぇぇぇ!!』


そのメールの下に水辺が宙へつるされ、硫酸と思しき液体が真下にある写真が映し出された。


「くそが!なめやがって!」


犬歯をむき出しにした焔戸は黒瀬の携帯画面を叩き割りそうになったが黒瀬は焔戸の拳をつかみ関節技を決める。数分もだえた焔戸は肩をタップして黒瀬は焔戸を解放した。


「落ち着いたか?」


「あぁ、だが、頭は冷えてねぇ。」


「いや、ついでに頭も冷やしてくださいよ。」


そして、三人は作戦会議をする。そのスクラムの会話はスーツの人には聞こえていない。

作戦会議が終了すると三人はスーツの二人に乗せてと礼をした。


「よろしくお願いします!」


「えっと、作戦は?」


女性の質問に焔戸が答える。


「俺が一人で行きます。ただ、準備が必要です。」


「……?」


「俺の言ったものを用意してください。」


焔戸の話を聞いた女性は驚愕する。


「本当にそれをやるんですか?我々はほぼ役に立ってないですけど……」


「そりゃ、そうですよ。俺があいつをぶん殴りたいだけだからな。」


焔戸はニヤリと笑うと拳をバキバキと鳴らす。


「作戦開始だ。」


────────────


港のコンテナにて……


水辺 彗星は水の匂いで目を覚ます。

真下を見ると、どう見ても水の入った水槽に自分の姿が見える。


「こ、こは?」


やっと、声が出るとファンファーレと共に愉快なBGMが流れると水辺はつるされたまま辺りを見渡す。


「おっはよー!!!」


目の前に現れたサイバーパンクのサングラスの金髪男が白のスーツに身を包み拍手していた。

いかにも怪しそうな男に水辺は恐怖を飲み込み質問した。


「だ、誰ですか?」


金髪男は拍手を止めてつるしていた水辺を降ろす。

縛っていた手首を解放するとハンドクリームを水辺の手に塗り始める。

その姿に少しドギマギしたが淡々と塗るその様子に水辺は再度質問する。


「あ、あの、誰ですか?」


「ん~?僕かい?ただ、嫌いな人をからかって遊びたい悪い大人さ。」


ハンドクリームを塗り終わると次に男は水辺におにぎりとサンドイッチ両方を差し出す。


「どっちがいい?」


「え、じゃ、お、おにぎりで……」


どうぞと緑茶と一緒に渡すとサンドイッチの包装を開けて、てっぺんをかじる。

水辺もおにぎりを食べ始めると男は一口食べ終わると水辺の質問に答えた。


「名前は教えないよ。」


水辺はその答えにどうしてと言ったような顔で見つめる。

その意図をくみ取ると男はサングラスを外す。

髪をかき上げると悲しそうな顔をした。その顔は美しくどこかの映画俳優に似ているともとれる顔立ち。


「お互いにすれ違うだけの存在だからね。君はあいつを呼び出すためのエサってわけさ。」


「どうしてそこまでその人にこだわるんですか?」


「そうだねぇ…なんでだろうねぇ……」


「わからないんですか?」


金髪男は首を横に振るとサングラスをかけ直す。

そして、指を天へと向けると周囲の機械がバチバチと電気の音を立てて動き出す。

その様子に水辺は最初は驚いたがすぐに男の異能力だと気づき開いた口をふさぐ。

機械たちは思い思いに社交ダンスをするように動き回る。

そして、男が指を鳴らすとクラシックが流れ出し、機械たちの動きがさらに生物じみていった。

水辺はその様子を気にすることなく男の話の続きを待った。


「そうだね、分からないな。なぜ、彼に固執するのか、なぜ彼を追いかけてしまうのか…」


「それって……」


水辺がその結論を出そうとしたその時、入口から大きな爆発音が鳴り響く。

煙と共に光が漏れ出すと人影がぽつり。その影はゆっくりと歩いてくる。

その影に男はニヤリと口角を上げる。そして水辺の顔を見ると近くにいた機械に支持を出し水辺の気を失わせた。


Fフェスタぁぁぁぁぁぁ!!」


「やぁ、待ちくたびれたよ。こっちはランチタイムさ。で、君一人なんだよね?」


「当り前だ。」


「はは、キミはホントに馬鹿正直だな。」


「で?ここに呼んだのは何が目的だ。」


「そうだね……思い出したよ。」


「は?」


焔戸はその言葉に違和感を覚える。

いや、こいつと対面したときから違和感を覚えていた。

画面上の憎たらしい顔ではなく、どこか優しい表情で懐かしい友人を見るような視線。

だが、Fはその顔を崩し、邪悪な笑みを浮かべて言葉を絞り出すように吐き出す。


「お前を殺す。」


その殺気を、狂気を目の当たりにした焔戸は一瞬後ずさる。


Ep11:FIN

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