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Ep.14 第二任務 水槽

水槽の中にいるような気分だ。

私は常にそう感じている。

家族、学校、町、国、世界……自分のいる位置を中心としてだんだんと立ち位置を変えていくと自分はどれだけ小さく、狭い場所にいるのかと考えてしまう。


それでも、私はこの水槽の中から出たいと思ったことは一度もない。


『本当に?』


誰かの声が聞こえる。

聞いたことのない、不思議な声。

まるで水槽の中にいる私に語りかけるかのような声。


目が覚める。

夜の病室に月明かりが差し込む。

私はその光を目で追いながら、窓の外を見つめる。

人影が見える。でも不思議と恐怖はなく、逆になぜか安心している自分がいた。

人影はゆっくりと窓際に近づいてきてその姿をあらわにした。


黒い髪の爽やかな笑顔の男性。

童顔だが、服装や立ち振る舞い、雰囲気で私よりもはるかに年上だと悟った。

その男性は窓をこつんと叩くと笑顔で口を「開けて」と動かす。

私は警戒心なく窓を開ける。


「こんばんは。静かな夜だね。」


「そう…ですね。ど…ちらさまです…か?」


「私の名前はね…………だよ。」


声が小さくて聞こえなかったがこの夢うつつの状態では聞き返すこともできずに、私はそのまま黙り込んでしまう。恐らく政府関係者の人なのだろうと勝手に解釈した私は男性が話を進めるのでその話をを黙って聞いた。

同僚と思われる人の愚痴。恐らく昔、友達が警察に補導された話。

ところどころ聞き取りづらかったり、そもそもなんの話をしているかもわからない状態だ。


「おっと、もうこんな時間。悪いね。こんな時間に長話に突き合わせてしまってそれでは……」


男性はそう言って、私の手を握り頬を撫でた。そしてほぼ同時に眠気が襲ってきて、私はベッドに倒れ込んだ。


────────────


翌朝、健康チェックを受けて家に送ってもらった。

でも、記憶の消去とかなんとかはなかったのでまだその「保護期間」というのが終わっていないのだろう家に着くと母親からも心配され、今日は学校を休んでもいいと許可が出た。


「今日は外に出ないでおとなしくね?お昼ご飯は冷蔵庫の中に入れてるからチンして食べてね。」


ドア越しにそういうと母は仕事へと向かった。

母の言う通りに私は部屋にこもって漫画を読んだり、時間を過ごす。

何時間経っただろう。もうそろそろ昼頃だと思い、私は冷蔵庫のある台所へと向かう。

廊下に出るとふと昨日のことが頭をよぎる。


『思い出せた?』


男性の声が聞こえてきた。

幻聴かと廊下を端から端まで見渡す。

だが、男性の姿は見えない。

私は気のせいかと不安を切り捨てお昼ご飯を取りに下に降りる。


『悲しいなぁ』


階段を降りる途中。

また、男性の声が聞こえた。


『水槽から出てみない?』


『きっと楽しいよ?』


『キミは特別になれる。』


『縛られたくないだろ?』


次々に言葉が聞こえてきた。心の奥の方が触られている感じ。心地よくなった私はそのまま玄関へ向かう。


「私は、水槽から出る。」


気分が高揚してきた私は家中を見渡し、能力を使いそして家中を水浸しにして外へと出た。


────────────


学校にて、黒瀬、焔戸、難場は疲れたはてた目をこすり、焔戸に至ってはまだ治らない傷とも戦っている。


「そこ、三人、頑張って起きて~」


数学教師が手を叩き三人はそのおかげで寝ずに済んでいるが、数分に一回は手を叩く音が教室に響く。

眠気と戦うこと50分。本日最後の授業終了の鐘が鳴る。

学級委員が号令をかけると三人はパタリとドミノ倒しのように机に突っ伏した。

そして、数分後に担任が入ってきて、ホームルームの号令と同時に三人は起き上がる。


「……ということで、週末には事故や怪我に気を付けてください。そして、来週からは期末テストあるからな~お前ら、異能力は底辺だからって知能まで底辺になる必要ないからな~んじゃ、三人はいつものところ集合。」


号令が終わり、一斉にみんなは教室から出ていく。

三人は担任が出るのを確認すると続けて出ていく。

そして、いつも一時間くらい待たせてくる我楽は今日はすでに指導室で待機していた。

深刻そうな表情で三人が入ってきた瞬間に本題に入った。


「今日、水辺が休んでいるのは分かっているな?」


三人はもちろんとうなずく。

何せ、関係者の指示で水辺は今日は絶対に自宅から出ることはできないはずだった。


「何があったんですか?」


何かを察した黒瀬が我楽へ質問する。

我楽は少し間を置き今の現状を報告した。


「水辺が行方不明になった。」


もちろん、監視役はいた。自宅のいたるところに盗聴器も設置していた。だが、その盗聴器を能力ですべて水没させて、自宅から出たと思われる。監視役は何をしていたのかと疑問に思う三人だったが、監視役は背後から何者かに気絶させられていたと我楽は語る。


「最悪だな。」


「油断しすぎです。」


「俺からは何も、一つ言うならば、俺らの現役時代よりずさんだ。」


その言葉に我楽は三人に何も言い返せず、話をつづけた。


「……すまない.、何も言い返せない。だが、幸い発信機は機能している。すまないが、三人には水辺を追ってほしい。」


三人は頭を下げる我楽を前に無言で立ち上がる。

我楽が頭を上げると三人の姿はすでに教室からは消えていた。

そして、携帯のメールには指示をよろしくお願いします。と残されていた。


「了解。」


我楽は口角を上げると教室を後にした。


Ep14:FIN

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