水がぽつりと一つ、滴る。少女は雑多の中を一人で歩く。
すれ違う人々は少女を白い眼で見る。
またぽつりと滴る。
『どうだい?水槽の外へ出た気分は。』
「わからない。まだ水槽の外にでた感覚を実感できない。」
『すぐに実感できる時が来る。だから、声の方へ来て。僕の声のする方へ。』
少女はぽつぽつと何かをつぶやきながら雑多の中を歩いてゆく。
そして、だんだんと町から外れて消えていった。
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三人は画面に映し出された発信機の位置を見ながらすれ違う人が驚き三度見するぐらいのスピードで走る。
水辺に取り付けられた発信機は彼女が通った一分の間の道順、距離、時間を正確に記録しながら位置を教える優れモノとなっている。彼女は五分前、この人通りの多い道を一人で歩いていた。
彼女の発信機の痕跡はだんだんと町から外れておりどんどんと廃工場のような廃れたところへと向かっている。
「なんのために。こんな。」
「誰かが連れ去ったという過程で進みましょう。」
「そうだな。早くしよう。」
そして、突然携帯が鳴りだした。
画面を見ると我楽隊長からであった。
焔戸が電話に出るとスピーカーモードで他二人に聞こえるように設定した。
『何個か伝え忘れてたから伝えるが、何者かの妨害が入った場合、一般人とか、そうでない者とか関係なく実力行使してもかまわんからな。妨害の意志が相手にあったらだがな。』
「へえ…んじゃ、目の前の怪しい奴も実力行使していいってこと?」
『どういうことだ?』
町から外れた住宅街。
三人がそこへ入った瞬間、フードで顔を隠した男が道に立ちふさがった。
拳を構え、ボクシングのステップを踏むと、男はにやにやと歯を見せると黒瀬を指さし指先でかかってこいと挑発する。
「眼前にフードの男。明らかに妨害目的で黒瀬君を指名して拳を構えています…やってもいいんですよね…?」
『かまわない。ただし、やりすぎは禁物だ。』
改めて隊長の許可をもらった焔戸は前へ一歩出たがそれを珍しく黒瀬が止めた。
無能力者なのもあってかいつもはあまり一番手にはいきたがらない黒瀬が珍しく前へ出る。
「お前、いつも最後が~とか抜かしてるだろなんで…」
「いや、なんとなく。こいつは俺がやらんとダメだと思っただけだ。」
「指名もされてますからね。んじゃ、焔戸君行きましょうか」
「はぁ、ま、いいや。んじゃ俺れらは先行くからな。」
「あぁ、すぐに追いつく。」
「それ、”死亡フラグ”というヤツです。」
二人が通り過ぎると男は素早く殴り掛かってきた。
その身のこなしは明らかに素人やそこらにいるハングレとは別格だと黒瀬は悟る。
拳をかわし、男の関節をつかむ。
「おっと、止められちゃった。すごいね、さすが~」
「何者だ、お前。」
「ん~そうだな~僕に一撃入れられたら教えてあげるよ。く・ろ・せ・く・ん。」
名乗った覚えはないがと黒瀬は男をつかみ投げる。
男はその遠心力を生かし、空中で一回転して距離をとった。再びかなりのスピードで距離を詰められるとどこにしまっていたのかナイフを突きつけてきた。
先程同様、明らかにプロの身のこなしに黒瀬は反撃の隙を伺っている。
「どうした。どうした。さっきみたいに関節決めてきてよ。」
「どうも、刃物とはやりにくいのでね。」
なるほどと男はナイフを空中へと解き放つと、ナイフは虚空へと消えた。
「異能力か…」
「さぁ、どうかな~?」
再び拳だけになった男は先ほどとは比べ物にならないくらいの速さで連続パンチを繰り出してきた。
「こいつは、骨が折れる戦闘になりそうだ。」
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難場は黒瀬のことを気にかけるように時折振り返りながら走る。
「大丈夫だって。無能力者だからって心配すんな。」
「ですが、彼は時々無茶をしている節があります。」
「そうだが、それでも今回はあいつがやりたいって言ったんだ。やらせてやろうぜ。」
「そうだよ。あいつがやりたいって言ったんだ、死んでもやらせてやろうよ。」
知らない声が一人、間に入ったのを聞き二人は横を見る。
知らない顔が一緒に走っている。
その摩訶不思議な光景に二人は瞬時に理解し行動する。
第二の妨害である。
二人は隣を走る正体不明の人物に拳を入れるが、その人物は走りながら垂直飛びをするというこれまた摩訶不思議なことをやってのけた。
二人の拳は空を切り、二人はその瞬間互いに距離を取り、拳が当たらないようにする。
その光景を見て拍手が一つ二人の前から鳴り響く。
先程のフード男とは違い、今度は顔を出している男だった。
藍色の目に紺の髪の毛。エスニック系のファッションはその顔も相まって貞操観念が緩そうな感じに見える男だ。二人はどうすか見つめ合う。
「おいおい、どうするのか決めてないのかよ。誰でもいいからかかて来いよ。」
その声に、難波が動く。
「僕が行きましょう。焔戸君は先に。」
「わかった、任せたぜ。」
猛ダッシュで男の横を通り過ぎると難場は深呼吸をした。
そして、懐から銃を取り出す。
「へぇ、銃を使うんだ。」
「いえ、普段は仲間の無能力者の人がやる戦法なのですが、今回はマネてみようかと。」
「あっはー☆、面白いな、キミ。」
難場が引き金を弾くとゴム弾が射出され、男に当たりそうになる。
だが男はそれを綺麗な体さばきで避け距離を縮める。
拳の来る距離まで来たら、難場は迷うことなく銃を男の目と鼻の先に突きつける。
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一人、発信機を追う焔戸は体力がなくなってきたので少しペースダウンしてきていた。
「あいつら、もしかして走りたくないから戦闘に出たのか?てか、この発信機。おかしいだろ。距離が縮まる気配ないぞ!」
先程から妙な感覚に襲われるのも、これは何か異能力者がいるんじゃないかと周りの景色すら疑い始めた焔戸は少し回復した体力と走力で再びスピードを上げ始める。
スピードを上げて三分後、ことは起こった。
発信機の反応が消えたのだ。
その驚きの光景に焔戸は慌てて足を止める。
携帯の充電や電波の状況を確認したが異常はない。
これは発信機側に問題があったといっても過言ではない。
焔戸が電話をかけようと番号を押そうとしたその瞬間。
一発の銃声と共に焔戸の携帯電話ははじけ飛び粉々になる。
その銃声を聞くや否や、焔戸は林の中に身をひそめる。
「何が起こった。」
林に隠れて考え事をしようと頭を回転させ始めると再び銃声が鳴り響く。
今度は確実に肩に弾丸がヒットした。痛みと共に血が流れ始めると焔戸はその林から抜けて次は木の裏へと隠れる。
「どこに隠れてやがる。」
これは確実に異能力のものだと理解し、すぐに適応しようと動く準備をする。
Ep15:FIN