黒瀬は拳をいなしながら、関節技を狙う。
だが、フードの男はそんなの関係なく、拳を止めることはしない。
次第に、黒線は拳をいなせなくなり、距離をとる。男は一息つかせる暇を与えぬように一緒に移動する。
「くっ!」
「どうした?どうした?君も向かって来いよ。」
男は再びナイフを取り出し黒線に向ける。
先程の拳と同じ速さで刺突攻撃をされると黒線は反応できないため、なんとしてでも距離を取りたい。
黒線は懐からゴム弾を射出する銃を取り出し、ナイフを向ける男に銃口を向ける。
お互いの鼻先に凶器が突きつけられる。連続攻撃のせいか、男は肩で息をしている。
「ふぅ…休む隙を与えていいのかい?」
「隙を作ったのはお前自身だろう?」
数分、お互いに見つめ合い、動かない。
男の息が整った瞬間、先に動いたのは黒線だった。
引き金を躊躇なく引き、男を驚愕させる。
ゼロ距離のゴム弾射出。
もちろん常人なら呆気もなく眉間に命中して気絶、あるいは運が悪ければ後遺症の残る障害、最悪の場合絶命の可能性はあるが、目の前の男はその秒速1秒以内のゴム弾をいとも簡単に避けて見せた。
「能力か…?」
「これは自前。ナイフを取り出すとかは異能力だね。さて、分かるかな僕の能力。」
「全くわからないな。さて、”一撃与えたら素性を明かす”約束は守ってもらうぞ。」
「あぁ、僕は犯罪者の中でも”白”に近い方だから、約束みたいな簡単なものは守るよ。」
訳の分からないことを言うと男はナイフを眼球目掛けてダーツのようにまっすぐ飛ばしてきた。黒線は目くらましだと理解したうえでそのナイフを防ぐ。黒瀬の思惑が的中し、男は第二のナイフを突き出してきた。その攻撃をすでに予想できていた黒瀬は男の腕を取り関節技を決める。そして、すぐに関節技を解くとフードをめくるようにアッパーカットを繰り出す。男はとうとうその素顔を現す。そして、黒瀬はまるで鏡かパラレルワールドにでも来たみたいな感覚に陥る。瓜二つなその顔立ち、その顔はニコりと爽やかに微笑むとフード付きのパーカーを投げ捨てた。顔立ち、体系、それだけでも混乱しそうだが、違いが二つある。
黒瀬と違い男の神は真っ白で太陽の光を反射する。そして、もう一つはその表情である。
先程もそうだが、自分にちゃんとした感情表現ができたらあんな風に笑うのかと思うほど表情がイキイキとしている。
「どうだい?僕の顔はかなりのイケメンだろう?」
「声も少し似ているような気がするな…ま、どうでもいいか。さて、名前と能力を教えてもらうぞ。」
「どーしよーかなー?」
黒瀬は無表情で引き金へ指をかけてすぐにでも発砲準備に入る。
その様子と静かな殺気に男は慌てて黒瀬を静止して約束を果たす。
「本名は
「どういうことだ。約束を違えるか?」
「そうじゃないんだよね。君の能力がまだ覚醒してないから言えないんだよね。」
距離を縮め白淵は黒瀬の銃口を降ろす。
「何が言いたいんだ。この歳からは能力の覚醒は無理だろう?」
「それがそうでもないんだよねぇ。」
そして、耳にそっとささやく。
キミはまだ能力に目覚めてないだけ。
どこかで能力を受け継いだはずだ。
思い出してみて。
白淵はそうささやくと一瞬にして目の前から消えた。
そして、周辺に再び声が響く。いや、それすらも黒瀬の耳にしか届いていない幻聴かもしれない。
『この一件、僕は関係ないよ。今回の首謀者は三名。異能犯罪集団
黒瀬は周囲を警戒するが人気は全くなくなった。
そして、山奥で大きな音が鳴り響く。黒い煙がもくもくと上がりそれが狼煙にも見えなくもなかった。
「何が起こっている。」
その方向が水辺の向かった先だとわかると急いで走り出す。
その後ろ姿を見つめる白淵は再びフードをかぶり屋根を次々に飛び移る。
「さて、これで覚醒してくれるかな。お眠な王様たち。」
意味深な笑顔と共に白淵は青空へと溶けていった。