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Ep.18 第二任務 蒼炎

早い話。相手の異能力は”姿を隠す能力”だがシンプル故に厄介なのだ。

木の裏で考え事をしていると再び銃声が鳴り響く。今度はつま先のギリギリ当たらないところへ着弾した。

これは相手からの”お見通し”ともとれる合図だ。その証拠に今度は木を貫通させて後頭部の方へ弾丸を着弾させてきた。


「なめやがって…」


焔戸は発信機の映らなくなった画面を見ながら動く。

確実に前に行くように動く。だが、その考えはとても甘かった。前へと進もうと、射程距離から離れようと動くと不可思議なことが起こる。

なんと、あろうことか明らかに射程距離から外れた距離の逆の距離から発砲音と着弾跡が見える。


「見誤ったか?」


能力の見誤りか、相手が複数人いるか。

その二択になったが肩の痛みと発信機のことで焔戸は今、正常な判断と思考ができなくなっている。

再び走り出そうと足を踏み出した瞬間、発砲音と共に右足が打ち抜かれる。


「ちっ!せめて、声とか聴ければある程度は分かるけど。相手はさっきからしゃべらねぇ…こうなったら…………」


焔戸は周りの被害なども考えてあまり使いたくはない戦法をする。

身を包む特殊繊維の服を上半身だけ脱ぐと発火した体を投げだす。

血と汗と涙をまき散らしながら。

走り回り、弾丸を避ける。発砲を続ける相手に焔戸はそのまま変則的に走り続ける。

その間も炎は木から木へ、林から林へと燃え移る。

そして、とうとうその辺は焼け野原となり緑は橙色へと変わっていった。

異変に気付いたのか、見えない相手は慌てて音を立てながら移動し始めた。


「…!そこか」


その辺の小石を思い切り投げつけると見えない奴は声を上げながら能力を解除した。

その際に何か爆発物にぶつかったのか大きな爆発が起こる。


「ひぃぃぃぃ……」


「自分は人一倍痛みに敏感、そのくせして他人を傷つけるのには躊躇がない…………」


「ひぃぃぃ……」


指を鳴らすと今まで見えていなかった奴は小心者の臆病者だと知る。

その顔はガスマスクをしており素顔が見えない。だが、体格、しぐさ的に女人だと推測した焔戸はため息をつき、持っている手錠と縄で縛りあげる。


「さて、燃え広がらないうちに素顔と、素性を明かしてもらうぞ。」


ガスマスクを取り上げその顔をあらわにした。

どこにでもいるような同い年、または同級生の少女だった。

その目は弱々しくこちらを見つめている。


「名前と能力。明かすのはそれだけでいい。言え。じゃないと火傷するぜ。」


「は、はひぃぃコードネームと異能力は陰の番人アーミーナイフで、ですぅぅ…………」


「んで?名前は?本名!ほ・ん・みょ・う!」


「む、む、無理ですぅぅ!!本名を名乗ったら、組織に戻れなくなっちゃいますぅぅぅ!!」


必死に暴れて死んでも話すかという態度だが、そのおどおどとした感じに緊張が意図せずにほぐれていく。肩を落とし、燃える炎の中においていくわけにもいかず、もうその辺もやがて火の手が回るので焔戸は陰の番人アーミーナイフと名乗った少女を米俵のように担ぎ走りだ出す。そのとき我楽から通信が入る。


『近隣住民から、警察や消防に火事の通報が絶えないようだが、まさか焔戸……使った?』


「相手が隠れる系の能力で仕方ありませんでした。それよりも、水辺を見失いました。発信機の反応もなしです。どうしますか。」


『こちらの発信機では見えているが、どういうことだ?』


「そ、それぇ私の能力まだ完全に解除してないんですよねぇ…………」


「原因分かったんで大丈夫です。」


『そうか、それはよかった。それとリタイア報告だ。難場隊員が結構な重傷でリタイアだ。焔戸隊員。黒瀬隊員と二人で頑張ってくれ。』


「はは、重傷ってやつは大体そこまで重傷じゃないんだよな~…ま、いいやわかりましたよ。」


『では、健闘を祈る。』


通信が切れた瞬間、焔戸は陰の番人アーミーナイフの臀部を思い切りひっぱたく。


「ひゃう。何ですか?セクハラですか?」


「まだ余裕がありそうだな。それよりも能力解除しろ。さっさと。」


「は、はひぃぃ」


陰の番人アーミーナイフは焔戸のその殺気に耐えられずにすぐに能力を解除した。

再び発信機が光り出すと水辺との距離が近いことに気づく。位置はこの先の廃工場で止まっていることがわかる。


「よし、さっさと終わらせる。」


「おい、焔戸。この惨状はなんだ。」


その聞き覚えのある声に焔戸は後ろを振り向くと炎を避けながら黒瀬がこちらへと走ってきていた。


「この能力者が思った以上に厄介でな。あ、あと難場が重傷でリタイアだそうだ。」


「大概そんな奴の大けがは大したことないはずだがな。」


「ま、そんなことはいい。この先の廃工場だ。行くぞ。」


「あぁ。」


燃える炎を背に二人は息が整ったので再び走り出す。

数分後、すぐに廃工場が見えてきた。

二人は廃工場へと入ると真ん中に突っ立っている水辺を発見する。

周りを警戒しながら二人は水辺の方へと近づく。


「水辺。」


焔戸はぼうと立つ水辺に話しかけるが反応はない。

何度揺さぶっても手を鳴らしても効果はない。


「む、無理だと思いますぅ。その子は今リーダーの能力で中身が侵食されていっていると思いますぅ」


「どういうことだ?リーダーって誰だ。言え。」


焔戸は再び陰の番人アーミーナイフの臀部を叩く。


「ひぃぃ…こればっかりは私も言えません……」


頭を抱えて怯えていると陰の番人アーミーナイフは暴れて焔戸の肩から落ちる。


「何だお前、急にだまりこっくて。」


そして、陰の番人アーミーナイフはゆっくりと立ち上がりありえない怪力で縄と手錠を引きちぎる。二人は水辺を抱えて距離をとる。


「困るよ。陰の番人アーミーナイフ。僕の能力のつかみの部分を言ってしまったら。」


首を鳴らすと二人を見つめる

その顔は今までのおどおどとした表情ではなくまるで人が変わったかのような表情。

霊か何かに憑りつかれたようにしゃべり方まで変わっていた。


「誰だ。お前。」


「おっと、客人の方々、初めまして、僕がこの異能組織」


名前を言う前に黒瀬がかぶせて名前を言う。


「ECHOだろう?」


「おっと、誰がその名を?」


「白いフードの男だ。仲間だろう?」


「いや?そんな男は私の組織にはいない。誰だ?」


「本当に仲間じゃないんだな。」


「最初のフードの男はこいつらの仲間じゃなかったんだな」


「あぁ、そうだ、まぁこの話は今度ゆっくりしよう。今は目の前のこいつを捕縛しよう」


「おう。」


「困るな、二人だけでおしゃべりなんて。」


陰の番人アーミーナイフの体にとりついた何者かはそのままの体勢で余裕しゃくしゃくと言った様子だった。


Ep18:FIN

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