異能組織ECHO

自らの存在を疑い、探す組織……のはずだった。

リーダーの性格ががらりと変わり現在は自分の異能力に苦しむ者の思想、希望を解放するために法外で動く犯罪組織となってしまっている。

「で、それがどうした？」

焔戸は陰の番人アーミーナイフにとりついた何者かのその説明を一刀両断する。

溜息をつくと手をかざす。焔戸の手はひとりでに動くと自らの首を絞める。

その力は自らを本気で殺そうとしている。

「何をしている。」

「あ、わからねぇ…だが、勝手に手が動きやがる…」

「私の能力の前では君らなどゴミ以下なんだよ。」

そして、黒瀬は白淵の言葉を思い出す。

リーダーやメンバーの名前は本名ではない。異能力名だ。

萬罪天羅ばんさい てんら。それがリーダーの名前であり、能力。

だが、名前がわかったからと言って能力の内容がわからない。

試しに黒瀬はゴム弾で陰の番人アーミーナイフを撃つ。

ゴム弾が見事に眉間に命中すると陰の番人アーミーナイフはその場に倒れる。

「困るなぁ。」

そして、どこからか男性の声が聞こえてきた。

耳に響いているのは確実なのだが、それが完全にヘッドホンをしている状態の聞こえ方なのである。そして、その声はどうやら黒瀬にしか聞こえていないらしい。

理由は目の前の焔戸がなんの疑いもなく警戒もなく陰の番人アーミーナイフへ近寄りこちらに話しかけているからだ。

「おい、黒瀬。どうしたんだ。」

「なるほどな。おい、焔戸。俺はどうやら憑依されたらしい。」

「どういうことだ。」

「頭の中に声が聞こえる。」

「おいおい、こっちの話に集中してくれよ。」

「お前は黙っていろ。」

すると、黒瀬の手の持っている銃がだんだんと自らのこめかみに銃口を向け始める。

「ボクの話を聞く気になったかい？」

「全く。」

その言葉を言うと黒瀬の手はだらりと垂れる。銃を逆の手で持って動かし、異常がないのを確認すると焔戸の方へとかけよる。向かっていくとこちらを指さし焔戸が後ろを振り向くように言う。

「おい、水辺はどこ行った。」

「しまった。」

確実に今回の大きなミス。

目を放した瞬間に水辺は消えていた。

「こちらだ。」

その声と共に黒瀬と焔戸は廃工場の中心を見つめる。

そこには水辺を抱き上げている男の姿があった。

「やぁ、改めまして、異能組織ECHO……リーダーの萬罪天羅ばんさい てんらだ。白いフード男から何かしら情報をもらっているのならば組織の決まりもわかっているね。」

「異能力名とコードネームが同じ……か。じゃ、お前のことはあまり詮索しても意味ないのか。」

「よろしく頼むよ。さて、ここからは話し合いで決めよう。」

懐から銃を取り出すと水辺へと銃口を向けた萬罪天羅ばんさい てんらは二人に武器を全て捨てるように命じる。もちろんその要求をのんだ二人は懐にしまっていた武器という武器を放り投げる。

「ふむ、折りたたみ式のこん棒、ゴム弾専用の銃、テーザーガン、etc.か。図分と物騒だね。」

「実弾が入った銃を人質に向けている奴のセリフではないな。」

萬罪天羅ばんさい てんらの指に力が入ると、二人は手を上げる。

「勘違いするなよ。君らの一挙手一投足がこの子の命のカウントダウンを速めるんだぞ？」

「どこが、話し合いだ！てめぇのそれは脅しっつーんだよ！」

再び引き金に指がかかると黒瀬は焔戸を蹴り上げる。

「それで、要件はなんだ。」

萬罪天羅ばんさい てんらは銃を陰の番人アーミーナイフへと向ける。

「簡単なことさ、そこの彼女と僕の手元にいるこの子。この二人を交換しよう。そして、そのあと君らは我々のことを追わないと約束する。それが要件だ。」

「いいだろう。」

黒瀬は即答でその要件を飲んだ。

焔戸は勝手に進む話にストップをかけることができず、黒瀬と萬罪天羅ばんさい てんらはすぐに実行しようと動き出す。

「おい、黒瀬、勝手に。」

「今は水辺の身の安全が大事だ。」

「確かにそうだが……」

お互いに一歩ずつ近寄ると水辺と陰の番人アーミーナイフを交代する。

そして、一歩ずつ離れていく黒瀬が後ろを振り向いた瞬間。

乾いた銃声が響く。

「黒瀬！！」

焔戸が動き出したがすでに遅かった。

黒瀬はこんな時も水辺のことを気にしていたそうで、水辺をかばうようにぐっと力を込めて力んだ。

弾丸は水辺には命中せず、黒瀬の背中の下が、肝臓あたりに命中してしまった。

「おっと、手が滑った。」

萬罪天羅ばんさい てんらはそういうとニヤリと笑い、陰の番人アーミーナイフを降ろす。

水辺を抱いたまま黒瀬からは大量の血が流れ出す。

焔戸は急いで黒瀬を仰向けに直し止血する。

だが、流れる赤は止まることを知らず、どんどん流れ出る。

焔戸は息を荒くして必死に止血を試みるが血は、とうとう水辺と焔戸の二人を囲うほどの量に達する。

「しっかりしろ！！ここで死ぬんじゃねぇ！！」

必死に血を止めようと手に力が入る。

だが、血は焔戸の手を赤く染めるばかりで全く止まらない。

そして、数分の止血もむなしく、黒瀬の肌は青白くなり、目はうつろのまま動いてはずの胸はとうとう動いている様子もなくなった。

「黒瀬…」

「おっと、これはこれはすまないことをしてしまったなぁ」

全然申し訳なさそうでない萬罪天羅ばんさい てんらの声が焔戸の鼓膜に届く。

その声と態度に焔戸は犬歯をむき出しに捨てていたゴム弾銃を躊躇なく発砲した。

それを避けると萬罪天羅ばんさい てんらは微笑みながら銃口を水辺へと向ける。

「これはまた手が滑ってしまうなぁ～」

萬罪天羅ばんさい てんらはまた発砲した。

次は水辺に向かって発砲する。そうはさせないと焔戸が水辺をかばう。

目を瞑りジッと痛みに耐える焔戸の背中には不思議と痛みはなかった。

どうしたのかと後ろを振り向くと弾丸は何者かによって止められていた。

その黒い靄のような、影のような何かは弾丸をしっかりととらえており、次の瞬間弾丸を萬罪天羅ばんさい てんらの銃へと撃ち返す。弾丸は綺麗に銃の中に入り萬罪天羅ばんさい てんらの銃は暴発したかのように爆発した。

「なんだ。」

すると、焔戸の視界の端。黒瀬の亡骸がある位置で何かが動き出している。

それは立ち上がり、焔戸をかばうように前に立つ。その姿は先ほど絶命したはずの黒瀬 零だった。

「ば、ばかな。」

「黒瀬！！」

流れていた血が黒く染まり黒瀬の体に集まり始める。

Ep19：FIN