俺は死んだんだな。
弾丸を受けた瞬間そう思った。
必死に血を止めようとしてくれている友の悲しそうな顔。
あぁ…すまない。でも俺はここまでだ。もういいんだ。逃げてくれ。
『まだ、終わらんだろう。』
聞き覚えのある声が耳元で語りかけてくる。
「誰だ。お前は」
「いや、気づいているだろう、キミの能力だ。」
「俺には能力はない。」
「いや、ある。名を呼べ。」
頭に流れる聞き覚えのない名前。
だが、心の中で記憶の中で覚えているその名。
黒く、蝕み、喰らう、王の名。
「
弾丸が焔戸に触れる瞬間、その手は伸びた。
弾丸はすでに運動を辞めており完全に黒瀬が受け止めていた。
だが、未だに生気の感じられない目を見た焔戸は心配をぬぐえないでいた。
「こんなバカなことがあるか…いや、キミの異能力は”死”が発動キーなのかな?」
能力分析をする
その間にも黒瀬の体には穴が空き、血がダラダラと流れる。
「やめろ!!」
焔戸は黒瀬を引き留めようと手を引くが黒瀬は一歩、また一歩と
「あ”あ”A"」
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前に進み続ける身体。
黒瀬はそれを止めようと踏ん張っているつもりだが、それでも前に進む。
『止まれ。頼むから。止まれ!!!!』
痛みはない。だが、このままだと死んでも、目の前の対象を殺すという本能だけで体が動いていることに黒瀬はどこかで気づいていた。
『どうなっている?!俺の意識や感覚はどうなっている?』
『傷を治せ。生き還らないことには意味をなさない。』
『どうやって!!!』
『自分の体だろう?自分が一番知っているだろう。』
今は四の五の言ってられないと黒瀬はそれ以上はしゃべらなくなった。
聞こえる声の通りに傷を治すことに、生き還ることに集中する。
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ゾンビになった黒瀬が動き出して約五分。
そして、口を開きしゃべり出して一分。黒瀬はラジオの電波を合わせるように体を動かし、それと同時に発声する。
「A”あ”あーあい、うえあおうか…………治った。」
それと同時に弾丸を装填し終えた
黒瀬が指を鉄砲の形にして
その瞬間
「何が起こった…………?」
黒瀬は頭を整理する
「どこから、取り出した?君らは確かに武器を全部捨てたはず……なぜ。」
「なんでだと思う?」
「な、何なんだその能力は……いや、それはそれは能力なのか?」
「さぁな。」
だんだんと距離と縮める黒瀬に恐怖を覚えた
「や、やめ……」
「
黒瀬は自分の体を靄のような霧のような不定形へと体を変えると
「おい、黒瀬!!」
焔戸はそれを止めようとしたが、一歩遅かった。黒瀬は完全に
いつもの何ら変哲のない人の体。
「喰ったのか……」
「食べたという感覚はない。ただ、あいつも
「それでも、お前、傷は。肝臓やられてんだぞ。血は?」
「大丈夫だ。」
上裸になると、焔戸に体を見せる。傷はおろか血の一滴も出ていないその体に焔戸はべたべたと触った後に叩いたり、殴ったりとしたがいつもと同じ黒瀬である。
「痛いぞ。」
「そりゃ、おまえ、弟も同然のお前が目の前で撃たれて死んで、生き返って、こうして傷もなくたっていることが不思議で、でも……」
ふいに涙が出てくる焔戸はその姿を見せまいと黒瀬から顔をそらす。
黒瀬は何も言わずに、焔戸をぎゅっと抱きしめると焔戸はそのまま黒瀬の胸で鳴き始める。
「や、やっぱり、二人はそういう関係だったの……」
聞き覚えのある声に二人は声の方向へ顔を向けると、起きたばかりの顔色の悪い水辺がこちらを凝視していた。デジャヴを感じた焔戸は慌てて黒瀬から離れると水辺へと近寄る。
「水辺~!!大丈夫か!?体は?気分は?」
「焔戸、それよりも誤解を解いた方が…………」
「うるせぇ!ちゃんと起きてくれたことを喜べ!おい、それで?どこか変なところとかないか?」
水辺は自身の体の感覚を取り戻しつつ、自分の頬っぺたをつねったり焔戸の頬っぺたをつねったりと動作した。
「いっ...!けど。問題はなさそうだな…」
「何か、記憶があいまいです。何かにこちらに導かれたような気がしたんですけど。」
「もう終わったことだ。気にすんな。さ、帰ろう。」
焔戸は水辺の手を引き廃工場を出た。
その後は政府関係者が来て木々に燃え広がった炎を鎮火して我楽隊長にこっぴどく叱られはしたが、今回の任務もギリギリ達成ということでしっかりとほめられた。
そして、右足にギプスを巻き松葉づえをつく難場を見つけると二人は鼻で笑う。
「何ですか。仲間が大けがしているのに。」
「いや、思ったよりも大けがだと思ってな。」
「あぁ、突き指とかもう少ししょぼくれた理由かと思ったが、ガッツリ骨折とはな。」
「突き指もしましたよ。」
三人は冗談を言い合うように笑いながら車に乗っていった。
その様子を見ていた我楽は肩の力が抜けてふいに笑顔になる。
「まるで兄弟みたいだな。」
そういうと我楽も車へ乗り込んだ。
水辺はその後、きちんと治療矢検査を受けてうちへと帰った。
母親ともこれからのことを話すのだろう。母親と帰っていく後姿はどこかすっきりとした感じに見えた。
EP20:FIN