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Ep.21 白昼夢

危なかった。あと一歩遅かったら私は今頃あの身体と共に死んでいた。

いや、死んでいたのか?だが、能力解除に垣間見たのは明らかな”死”のイメージ。

思い出し、考えるだけで呼吸が荒くなり、体が震える。その恐怖を捨てるように私は風呂場へと向かう。

部屋が湯気で充満するほどのお湯を出し湯船にためる。十分に溜るのを見て汗を流すために今度はキンキンに冷えたシャワーを浴びる。今回の失敗を汚れと共に洗い流すといよいよ熱々の湯船へとつま先から浸かる。呼吸を整えながら全身が針に刺された感覚を我慢しながらゆっくりと腰を落とす。


「やぁ、萬罪天羅。」


ふいに、風呂場の扉から声が聞こえてきた。それと同時に影も現れる。

誰だか知らないが、私は今心底疲れているんだ。

そう思いながら、しゃべるのが面倒なので私は黙る。

影は数分待つとまた声をかけてきた。


「おいおい、無視か~い?寂しいよ~」


ギャーギャーと騒ぎだしたので私はとうとうしびれを切らして声を出す。


「誰だい?」


「おいおい、勘弁してくれよお。BLACK D.O.Gあいつらと戦って僕の情報は得なかったのか?」


BLACK D.O.Gとの戦闘………

トラウマになりつつあるあの光景を思い出さぬように戦いでしゃべったこと、聞いたことを思い出す。


『白いフードの男。』


確か、真顔に等しい黒髪の少年がそういっていたような気がする。


「白いフードの男か……何の用だ。」


「名前聞いたんじゃないのかよ。」


そんなもの聞いていない。そのあとすぐに……

私はその後のことを思い出し、少し震える。

震えが止まらなくなったてきたので蛇口をひねり先ほどよりも熱いお湯を出す。

水の音が響く浴室内。声の震えを誤魔化すようにお湯につかりながらしゃべる。


「さぁ、聞いていないな。」


あぁそうかいと影は座る込んだのか扉に広がっていた細長い影は縮こまる。


「んじゃ、教えておこう。白淵 無幻。白き王になる男だ。」


名前を聞くのと訳の分からない夢まで聞いてしまって、さらに加えてお湯が熱すぎて湯あたりしそうになったので私は湯船から上がり、冷水シャワーを浴びた。じんわりとお湯が流れてゆき、体が冷たい水に慣れる前にすぐにシャワーを止める。バスタオルを取り、体を隅々まで拭き水気を取ると影のいる扉の前に立ち手をかける。影は私が出るのを察したのかその場からどき、黒い影は跡形もなく消え去った。

いたのを確認すると私は脱衣所に出る。後ろから声がしたので振り向くとBLACK D.O.Gあいつらの言ったとおり白淵は白いフード付きのパーカーをつけていた。

顔を見ると私よりもはるかに年下。どちらかと言えばBLACK D.O.Gあいつらと同年代の雰囲気が漂っている。


「白淵か。それで、本題は?何か用があるのだろう?」


白淵はそうだそうだと思い出しように手を軽くたたき、持たれていた壁を押しのけると私に顔を近づける。


「僕の下につけ。」


その顔はあの時見た少年の顔そのものだった。

殺気立つ目に、何を考えているかわからない光の通っていない瞳。あの少年は真顔で口元が一文字だったが、この白渕という少年はその口元がニコリと笑っている。ただ、目は笑っていない。


質問の意味を考える。

下につく?つまり私はこいつの部下になるということか?なぜ?

私が見るにこの白渕という男は私よりも、BLACK D.O.Gあいつらよりも格段に能力値が格上。その気になれば今ここで私を殺すこともたやすいだろう。


なら、なぜ?


「質問の意味が分かっていないのかい?」


「いや、そんなわけではないのだが…なぜ君のような強者が仲間を求める。」


白渕は脱衣所から廊下へと通じるドアノブに手をかけると首をかしげる。


「言っただろう?俺は王になる男だ。それには軍師が必要だと思ってね。そんじゃ、いいお返事待ってるねぇ」


ドアノブを回しドアを開けるとそのまま勢いよく廊下へ出る。

私は服も着ずに廊下へと飛び出て白渕の後を追ったが、廊下には誰の姿もいなかった。

茫然としていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。


「リーダーどうしたんです?ゴキブリでも出ましたか?」


「ん?あ?あぁ…すまないな。猛攻猛将ザ・ストレングス。それよりも大丈夫かい?その傷は今回の戦闘でか?」


ボロボロの装いで頭には枝葉まで突き刺さっている私の自慢のメンバーの一人は、ははっ…と照れ臭そうに笑ってごまかす。彼がこんな風にするのは敵に完膚なきまでにやられた時だ。相当強い能力者が相手だったのだろう。


「まぁ、そんなところです。これからは筋力だけじゃなくて、運気も上げないといけないっすね。」


何を言っているんだと思いながら、私はあぁとその言葉の意図まで読まずに返事をした。

私は服を着てそのままリビングへと向かう。リビングではすでに食事の準備ができていた。

台所にはニコニコと包丁を待つ陰の番人アーミーナイフに私はありがとうとお礼を言って食卓に着く。今夜はビーフシチューとフランスパン、ワインと私の好きなものが多い食卓のようだ。スプーンをそれぞれの皿へ並べると陰の番人アーミーナイフは私の向かいに座る。


「やっぱり、リーダーはその顔の方がしっくりきますね。」


にこやかにそう言った。

私は立てた作戦を実行する場合、”変装”と称して死ぬ寸前の人間を捕まえてきてはその人間の体を使う。

私の能力は、魂に触れることができる能力。油断や隙が生じた対象の魂に触れて対象物を操ることができる能力だ。もちろん条件はあるが、その中に必須事項がある。”生きて、動ける者”である。

どんなに体が弱り切っていても魂に触れさえすれば体の自由も私のものになる。そんな能力だ。

不便なことは今のところない。ただ、やはり、魂を司る能力者としてメンタル面で撃たれ弱いところは何とかしないといけない。


「リーダー?ご飯覚めちゃいますよ?」


「あ?あぁすまん。だが、猛攻猛将ザ・ストレングスも来てから食べるとしよう。」


「わかりました。」


数分後にタオルを首からぶら下げて、猛攻猛将ザ・ストレングスが顔を赤くして出てきた。


「リーダー。何か悩み事っすか?湯船のお湯。とても熱かったんすけど…」


「すまないな。少し考え事をしていて温度調整を間違えてしまったようだ。」


「そうすか、それならイイすけど。」


そして、猛攻猛将ザ・ストレングスは食卓を見ると目を輝かせで席に着く。

やっとそろった私を含めた組織の面々は手を合わせる。


「そろったね。では。我らの未来が明るいことを願って、いただきます。」


「「いただきます」」


我々は異能組織ECHO

今日も苦しむ異能力者を解放する日々を送っている。


Ep21:FIN

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