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Ep.22 黒い異能力?

早朝。陽が昇る少し前。

昨日のことを思い出しながら起床する。

体中を見ていつも通りだと確認する。

傷も、あの違和感も、どうも抜けきらない。

ストレッチを終わらせて、浴場へと向かう。その途中、全身が映るくらいの鏡から自分の姿を見る。

いつもと変わらない死んだ魚のような目つき、短く切りそろえた髪。ため息をつき浴場へ入る。

温度を調整してシャワーを浴びる。頭、顔、胴、腕、下腹部の順にしっかりと洗う。

泡を流すと歯磨きをして口を漱ぐ。浴場から出て時間を確認する。

部屋のいたるところに時計を置いている。脱衣所、キッチン、食卓の真ん中。それぞれ一秒のずれもない状態だ。


パンを二枚、電子レンジに放り込みテレビをつける。ここまでを10分で済ませる。

テレビをつけると丁度いつものニュース番組のオープニングが流れ出す。

最近有名な顔を出さない女性歌手の歌声が耳まで届く。アナウンサーが礼をして、朝の挨拶をすると同時に、電子レンジの焼き上がりを知らせる音が鳴る。

アツアツのパンを二枚取り出し、さらに乗せる。そして冷蔵庫からジャムを取り出し、パンと一緒にお盆に乗せて運ぶ。その時、ふいに足が絡まり転びそうになる。息をのむその瞬間黒い靄のようなものが伸びる。

その靄は落ちそうになったパンとジャムを受け止めており、まるで意志でもあるかのように動いていた。その挙動に驚き、結局俺はパンとジャムを床に落としてしまう。驚いたイソギンチャクのように引っ込んだ靄をもう一度出そうと力を振り絞ったが何ともない。


「何なんだ、本当に。」


口にたまる空気をため息として吐き出しながら、落としたものを拾い上げ机に並べる。

俺に発言した異能力黒蝕喰The Eclipse。外傷を治し、元の形に戻る身体。弾丸など物理的に触れることのできるものを分解して再現?する。他にも頭の中に色々なことが流れ込んできた。

まるで自分の身体の使い方を自分で教えるように、それと同時に異能力を使うのに必要な条件を思い出す。


「異能力名か?」


だが、先ほどは名乗らなくても発動したぞ?

どういうことだ。

そんなことを考えながらパンをほおばっていると、再び背後に黒い靄の気配を感じる。

いや、自分の異能力なので気配というのは変か。

後ろを振り向くと靄は炎のように揺れていた。

その靄に触れようと手を近づけると靄もこちらへと伸びてきて手が触れる。

感触は自分の手と手を合わせているようにも感じる。


そして、試しに食べ終わった皿を持とうと靄を自分の意志で操ってみる。

視線を皿へ移し、靄をそこに近づける感じに動かす。靄は力なく皿を持つとゆっくりと皿を流し台へと入れる。ゴトンという不安な音は響くものの割らずに何とか置けたようだ。

その後も靄を操ろうと何とか試行錯誤してみるが弱々しくのろのろとしか動かない。


「なんか、疲れるな。」


気が付けば、すでに登校している時間を過ぎており、俺は慌てて荷物を二度確認して部屋を飛び出した。

この日初めて遅刻ギリギリで学校に着いた。


────────────


「お前が遅刻なんて珍しいな。」


前の席の焔戸がこちらに向かって話しかけてきた。


「一応、授業中だ。自重しろ。」


一時限目の授業中であり。教壇では教科担任が授業の話をしている。

注意したが、焔戸はそんなの気にせず、話を続ける。


「まぁ、そんなこと言うなって。で、発言した能力試したのか?」


「いや…まぁ、少し試したが、あまりなれないな。」


話を聞いていた難場も参加してきた。


「今ホットな話題ですね。どうだったのですか。感想は」


「いや、何ともまぁ言えない感覚だな。」


そして、こそこそとしゃべっているのが教科担任に聞こえたのかおしゃべり中止の合図を送る。

これもなんだか体験できなかった感覚だな。

そんなこんなで授業中は自分に発言した能力のことであまり集中できなかった。

そして、放課後今日はいつもの指導室ではなく、医務室へ三人で集合した。


「こんなところに呼び出してどういうことっすか隊長。」


目の前にいる隊長、我楽 多さんは俺のことをじっと見つめてちゃんと医務室内に誰もいないことを確認すると保険医の先生を呼び出す。その顔はBLACK D.O.G時代にお世話になった見知った顔だった。


「リオさん。お久しぶりです。」


医療班のリーダー、リオ・ハウベルさんだ。

アメリカ出身の異能力者で異能力:白衣の印エンジェル・サインは、他者の怪我を完治までもっていくことのできる補助系統で最強の異能力だ。


「や、君たち相変わらず三人まとまって動いているのね。」


「えぇ、まぁそうですね。」


そんなことより…とリオさんは俺の手を引き、医務室の隣の部屋へと連れていかれる。

部屋に入ると、見覚えのある機械が待ち構えていた。

異能力計測装置という特殊な機械がある。大きな病院や特定の機関でしか扱えない代物。


「移動できたんですね。」


「あぁ、まぁ校長に許可をいただくのに苦労したが、とはいえできたものはできたのだから喜ぼう……と、そんなことはどうでもいい。黒瀬。君は異能力が発現したそうじゃないか。」


「そうですね。なんか黒い靄を出せたり、傷が一瞬のうちに治ったりと便利な能力ですよ。」


「そうか、ならば、異能値を測るからそこに眠ってくれ。」


この装置の目的は異能力の観測。

異能力も人のあらゆる能力と同じように発現が遅れたりする者もいる。

大体、5歳までに発現するのだが、それ以降発発現が見られない場合は「無能力者」となる。

子供も、5歳まで特定の単語をしゃべれないと発達障害とみなされる。それと同じような感覚で異能力もテストできればいいのだが、なにぶん未だ不可解なことが多い現象なのでこの機械を必要とするのだ。


異能力者は特殊な波長を流していると最近の研究で分かったためこの装置が実験に実験を重ねて誕生したのだ。なので、たとえ「無能力者」と断定されても波長が流れていればいつかは発言するらしい。

俺は波長がないので「無能力者」だったが、今回はどうだ。

俺は横たわり、機械が俺の全身をスキャンする。

数分にわたり俺が横たわっているとスキャンが終わった。

機械の周辺機の画面に結果が映し出され皆の顔が驚愕の色に染まる。


「結果はどうでしたか?」


「これは…。」


「嘘だろ。」


答えを言わない皆に俺は我慢できずに画面をのぞき込んだ。

結果、E-つまり、「無能力者」ということだ。


「どういうことですか。」


「こちらが聞きたいくらいだね。本当に発現したのなら見せてくれたまえ。」


リオさんにそういわれると俺は発言した能力を見せる。

見せようと気を集中する。目を閉じ、何も考えずに集中する。

すると皆の目が丸く見開く。


「本当に異能力が発現している…」


「だが、装置にはE-と出ている。」


「電波妨害もできるのか?」


今は分からないことばかりだ。だが、この能力を使いこなせば俺は今までより強くなれる…気がする。


EP22:FIN

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