あの日の大けがを気に足が全く動かせない日々が続いている。
医者が言うには、完全に歩けるようになるにはかなり時間がかかるらしい。
こんなことになるならあの日、あいつに突っかかるんじゃなかった。
などと後悔を奥底に沈めて、久々の登校に柄にもなく胸を躍らせている。
だが、俺の立場は俺が想像しているよりもはるかに悪いものになっていた。
教室の扉を開ける。おしゃべり中だった連中の視線が俺に集まる。
どこかその視線に違和感をもちつつ、千手と奥原の元へと向かう。
だが、二人は俺を見た瞬間明らかに避けるように「便所」と言って教室を出ていった。
その後二人はホームルームが始まるまで戻ってこなかった。
何だよ、何があったんだよ。俺がいなかったこの数週間。
昼休み────
俺は、二人を校舎裏へと呼び出し詰め寄った。
二人は、話はそれだけかと言い放ち俺を押しのけ教室へと向かっていった。
「おい、待てよ。俺が入院してる暇に何があった。」
「いや、別になにも?ただ、もういいかなって……」
「は?どういうことだよ。」
すると千手は奧原に耳打ちして何かこそこそとしゃべっている。
何だよ、こっち見んじゃねぇよ。
話が終わったらしい二人は俺に向き直ると何か言いたげな顔で目をそらしたりしている。
「何だよ、俺ら友達だろ?言えよ。」
「あ、あぁ、それじゃいうけど、竹林のいじめの件バレた。そのせいで俺ら単位とかやばいんだわ。だからしばらく距離、置こうぜ?」
「は?」
千手がごめんと手を合わせてにこやかに言うと奧原もはにかみ笑いでごめんな~と言って俺を背に教室へ戻っていった。二人は俺を気にすることなく穏やかに話をしながら戻っている。
そのまま片膝をつき、松葉杖が転げ落ちる。気が付けば、予鈴が鳴るまで俺はそのままの体勢でいた。
ふと我に返り、杖をつかみそのまま何も考えるでもなく俺も教室へ戻った。
結局、あいつらも同じだったわけかよ。
────────────
午後の体育の授業。
まともに体操着も着られない俺は見学となった。
しかも、隣に散々いじめていた竹林がいた。最悪…というか気まずい。
どうやら竹林は調子が悪いらしくしばらく顔色が悪かった。あとでクラスの連中のこそこそ話を盗み聞きしたが、最近まで何かの検査入院していたらしい。
横目で見ているが、別段俺を怖がったり、嫌悪の目を向けるわけではなく目が合うとはにかみながら会釈するぐらいだった。もっと、嫌悪的な視線とかむけられると思っていたが…俺にいじめられていたのに平気なのか。
授業終了後、松葉杖を取ろうと手を伸ばしたが取り損ねて横に転がってしまう。
取ろうとかがんだが、俺より先に延びる手が視界に入った。視線をずっと上へと移していくと、竹林の顔が見えた。にこやかに、ただ、自信なさげな顔で俺の松葉杖を手に取り、俺に手渡そうと松葉杖を持った手を伸ばしていた。
「はい、大丈夫?」
「……あ、ありが…」
感謝を伝えようと言葉を発しようと声を出した時、竹林は他の奴に呼ばれた。
「ごめん、じゃ、僕は行くね。」
そういって竹林は俺の言葉を待たずに行ってしまった。
「お、おう……」
そして、ふと、千手と奧原と目が合い、手を振ったが二人は明らかに無視していってしまった。どうやら俺は本当にこのクラスから居場所がなくなりつつあるようだ。
『居場所ならここ以外にもあるだろ?』
ふと、そんな声が聞こえて後ろを振り向くが誰もいない。
俺は少し気味が悪くなり急いで教室へと戻った。
────────────
午後の授業も終わり帰ろうと、いつ面をいつもの癖で誘おうとしたが、二人はすでに教室を後にしていた。俺は今、この場にいるのが恥ずかしくなり急いで教室から出ていった。
「おい、待て。」
教室から出た俺を止めたのは担任の我楽だった。
最初は少しうれしくもあったが、止められた理由が例の件と知った俺は、途端に逃げたくなった。だが、もう誰も助けてくれないので潔く指導室へと向かう。指導室にはすでに呼ばれていた竹林が着席しており、俺はますます逃げたくなった。
「ここに呼ばれた理由は分かってるな?」
「ハイハイ、分かってますよ。」
我楽のいつになく真剣な表情に俺は気圧されてちゃんと座り直す。
そこからは、なぜいじめに発展したか、どうしていじめたか、他の二人も参加させたのか、やられるとどう思うかとか、小学生にする説教みたいなのが始まった。竹林も終始黙った状態で、俺はその様子を見ながら淡々と質問に答えるだけだ。
いじめた理由?自分がやられるとどう思うか?そんなのもうどうでもいい。
全て適当に答えて適当に謝罪すれば元通りの日々に戻るだろう。そう思って俺は本当に適当に理由を答える
先生も竹林もそのしゃべる俺を見て黙ってその理由を聞くだけだった。
「……って感じです。ごめん。」
頭を下げると竹林はいいよいいよと、はにかみながら笑って許してくれた。
先生はなんだか納得していなかったようだが、いじめの件はこれで幕を閉じたかと思われたが、翌日いじめの対象が移っただけだと俺は実感した。
────────────
竹林と、夕暮が指導室を後にすると、黒瀬、焔戸、難場の三人は夕暮の顔を見てため息をつき教室へと入っていった。
すでに待ち構えていた我楽は次なる対象の資料を見ながら、深刻そうな顔をしていた。
「せんせー来たぜ?」
「どうしたんです?何か悪いものでも食べましたか?」
「それにしては、汗の量が少ないから恐らく次の対象が厄介なのだろう。誰なのだ?」
我楽は無言で資料を配り始め、その資料に目を通した三人は苦い顔をする。
「資料を見てもわかるように次なる対象は、夕暮 虎だ。」
「なんで、俺らがあんな奴助けないといけないんですか。」
「何かの間違いでは?」
「……むぅ。」
三人は口々に散々な言いようだ。だが我楽はそれをため息一つで黙らせる。
その貫禄にかつての隊長の面影を感じた三人は、その場の空気の変わりように静かになる。
「いや、君らの意見は分からんでもない。俺も教師としてはあまり言いたくないが、あの嘘つきでめんどくさい奴をなぜ助けなければならないのか。俺もそう思っている。だが、すまない。上からの命令だ。それに仮にも俺が受け持ったクラスの生徒だ。どんなに最低な奴でも無償で救わないといけない時がくる。」
「まぁ、上の指示なら仕方ないだろ。」
「先生、もとい隊長も苦労していることくらい僕らも承知ですよ。」
「まぁ、頑張るしかないな。」
「そ、そうか、それなら今回も頼んだぞ三人とも。」
監視対象。以下の者を監視対象とする。
名前:
出席番号:20番
生年月日:20XX/10/6生
血液型:O
身長:178.5㎝
体重:52.4㎏
異能力名:
能力説明:身体を人から虎へと変えることができる能力。完全に獣型になる完獣化と半分だけ獣化できる半獣化とコントロールもできる。一部分だけでも可能。
三人は指導室を後にした。
Ep23:FIN