昨日のこともあり三人はさっそく夕暮を尾行してどうにか監視しやすい関係になろうとしているが、竹林の件のこともあり快くは実行できないでいた。今も下校中の虎を尾行している。竹林や水辺と違っていわゆる不良の行動を三人はあまり知らなかった。虎がどんな放課後を送ってどんな生活をしているのか想像できない。なので竹林の時同様、気づかれずにそっと尾行してる途中である。
尾行するのはいいが、虎は決まってここに行くとか、ここによく出没するとかもない。日によって違う地域に行ったり、夜遅くまで遊んだりと本当にだらしなく生活していた。ちなみにそのせいで三人は目の下にクマを作るほど毎日疲れている。そして、もう一つ気が付いたことがある。帰宅しないのだ。
自宅と思しき場所へ来たと思えば、クラスの女子生徒の家だったり、別クラスのやんちゃな女子生徒の家だったり、知り合いと思しき成人女性の家、どことなく危険な香りのする男性、果てはオカマバーと転々と泊まったりしている。
「こいつ、自分の家はないのか?」
「いえ、そんなことはないはずですよ。いい加減自宅が知りたいと政府関係者さんたちに聞いたら苦い顔をして、この住所を送ってきました。」
「ここは、学校のすぐ近くじゃないか。なんでわざわざ遠くへ行って宿泊しているのだ?」
「何か、事情があるみたいだな。」
彼には何かあるのかもしれない。と考えた三人は、最近学校でも一人でいることが多くなった虎に逃げず隠れずにその理由を聞こうと決めた。もちろん、いきなり話しかけたら不審がられるだろう。
そこで三人は、どこかの漫画でやっていた方法を試そうと虎へ手紙を一通送った。ちなみに根本的には彼とも仲良くなりたいと思っている。いくらいじめをしていたとはいえ、完全な悪でないと思ったからだ。
「なぁ、ホントにこれであいつと仲良くなれるのかよ。」
「行けるはずです。不良漫画と少女漫画の登場人物たちはこうやって仲良くなっています。きっと、いや、絶対できる…はずです。」
「自身があるのかないのか、わからんな。」
靴箱へ入れた手紙のその内容は以下のとおりである。
夕暮 虎君へ
放課後、体育館裏までツラ貸せ。
ちなみに、この作戦後、このことを我楽隊長へ話した三人は叱責されたのち、漫画や小説からの知識を試すことを禁止されたのであった。
そして、放課後。
手紙通り体育館裏へ来た虎は内心少し怯えていた。
なんせ、最近までいじめをしていた主犯だ。噂が流れて次なるいじめの対象になっていてもおかしくはない。そんな内心怯えた状態で松葉杖を壁にもたれかからせて、携帯をいじっていると足音が聞こえてきた。
先を見つめると、三年の先輩方が話しながらこちらへゆっくりと歩いてきていた。
「んあ?おい、アレ。虎じゃねぇか?」
虎は礼節の基本をわきまえている方だった。
もちろん目上の三年生にタテつこうとする意思は毛頭なかった。三年生と目が合う前に松葉杖をもっていたが中腰で三年生に笑顔で会釈する。
「お疲れ様です。先輩方。」
「おう、お疲れ。ここで何してんの?」
「いや、朝に靴箱に手紙が入ってたのでここで待ってます。」
「おう、そうか。で?相手は女子なの?」
「いや、文字的に男かもしれません。」
「ははは!なんだよソレ。とうとう男からも告白されるようになったか!」
「いや~そんなんじゃなっすよ~」
談話しながら待っていると、もちろん暇になる。
先輩たちは周りに先生や見回りの人がいないのを確認すると、懐から白く細い筒を取り出す。
紛れもなくそれは煙草だった。虎は不良だが、煙草、酒、ドラッグはもちろん体を壊すようなものはやらないと心に決めている。
先輩が煙草に火をつけ煙を吹くのを内心不快に思いながら笑顔で先輩と話を続ける。
「先輩、大人っすね~」
「だべ?まぁ、こいつのせいで最近息切れとかひどいけどな~」
「ソレ、やばいじゃないっすか~」
取り巻きもハハハと笑っていると一人が突然、虎の怪我をしている足を蹴り上げる。
周りの驚きを隠せない表情でそいつを見る。隣の奴が慌ててそいつを取り押さえるが、いつもより強い力に歯が立たずに吹き飛ばされる。
「おいおい、どうしたんだよ。落ち着け落ち着け。」
いつもはおしゃべりのそいつは黙りこくってまるで虎だけを狙っているようにも見える。
先輩は煙草の煙を消して虎をかばう。
「虎!逃げろ!」
「先輩!」
「いいから逃げろ!!」
虎はおぼつかない足取りで逃げていく。
だが、先輩はすぐに吹き飛ばされ、暴走した取り巻きは虎へ突進してきた。
虎はその形相に恐怖を覚えて完全に腰が抜けた。そして、竹林の件を思い出し、冷や汗が額から垂れてくる。呼吸が荒くなり、手に無意識に力が入る。竹林のあの件が完全にトラウマになっている虎は頭が真っ白になった。取り巻きが拳を振りかぶろうとしたその時、虎の前に誰かが立った。虎はそれに気付かずにうずくまって目を瞑った。
「おい、大丈夫か。」
この声はよく覚えている声だった。
確か、暴走した竹林からもこの声が助けてくれたのだ。
瞼を開けると前に立っていたのは、転入生の黒瀬 零だった。
「おまえ……」
黒瀬が虎を起こすと後ろから焔戸と難場が来た。
「おい、いつも言ってるけど勝手に飛び出すなってあれほど……これどうしたの?」
「僕も聞きたいですね。何したんですか零。」
「いや、時間だったからそろそろ行こうとしたらこのありさまだったのだ。」
虎を体育館の中へ連れて行き、三人はバスケットボールを持ち出し部活をしている生徒の横でパスをしたりボールを投げあったりし始める。疲れた焔戸が虎の横へ座り何か話すまで待っているようだった。
「何だよ。」
「いや、どんな獰猛な獣でも怪我していたら丸くなるんだなって。」
「喧嘩売ってんのか?」
「いや、わりぃ、そんなわけじゃないんだ。ただ最近一人が多いなって思って。」
そして、虎の電流が落ちたような衝撃が走る。何かを察した虎は焔戸に驚きながら手紙のことを話す
「もしかして、今朝の手紙って、お前らが……?」
「あぁ、そうだが?」
虎はどこか安堵した様子で胸をなでおろしていた。
「何だよ。」
「あの手紙、誰が書いた?」
「あれはあっちにいる難場が書いたが。」
「あの手紙は勘違いされるから普通に話かけるとかしてくれれば俺は他の不良みたいにバカじゃないから上辺だけでも仲良く見せることくらいできる。」
「さすが虎だな。」
その後は黒瀬と難場の二人も加わり、放課後男子トークが始まったのであった。
Ep24:FIN