小さなころの記憶だが、よく笑う人だった。
ただ、ある出来事を気にその笑顔は途絶えた。
父の浮気、それに加えその父がした多額の負債を母が負わないといけなくなってしまった。
父はどこにいったのか?それは一番、母親が聞きたいことだろう。
父の負債を返すため、虎の母は毎日寝る間も惜しんでパートや時には水商売までしていた。
しかし、減らない負債。そんな中母の精神はついに崩壊した。酒とたばこと、パチンコに入りびたり、息子の虎がバイトを始めるもそのバイト代に手を出し、ついに息子の虎はその母に嫌気がさして家を出た。
放課後男子トークで聞いた内容を難場がわかりやすいようにまとめた資料を担任兼隊長の
生徒のしかもそのクラス担任として我楽は自分のことを不甲斐なく思い、そしてそんな自分に嫌気が指している。
「先生?」
いつもは隊長呼びの難場が先生と呼ぶ。その心配そうな顔は元BLACK D.O.Gしての難場 十三ではなく、生徒の難場 十三として心配しているように思えた。
思いつめた顔を急いでひきつる笑顔へと変え、その心配をぬぐうように椅子から立ち上がる。
「大丈夫だ、問題ない。」
「そんな風には見えないです。何かあれば、僕らにも話してください。話すだけでも楽になるはずなので。」
その言葉に思わず、涙が出そうになるのをこらえると、我楽は難場の頭に手を置きポンポンと軽く叩くと大丈夫と言って、難場の前を後にする。
教室を後にする我楽の背中を見送ると難場は焔戸、黒瀬、夕暮の待つ玄関へと急いだ。
三人はすでに靴を履き終わっており、玄関先で雑談しながら待っていた。
「お待たせしました。終わりました。」
「おせぇよ…っと、これでみんな揃ったな。んじゃ行こうか。」
焔戸が声をかけると四人はゆっくりと歩き出す。
歩いて数分して、焔戸が話し始める。
「なぁ、昨日、繁華街の方で見たって聞いたんだけど。」
その言葉に今まで楽しそうな顔をしていた虎の顔は暗くなる。
何とかフォローを入れようと難場が口を出そうとしたが、焔戸が自ら止めた。
その行動になんの意味も見いだせない難場にはただただ、不信感しか感じなかった。
数分、沈黙が続き足音だけが聞こえる帰路となった。焔戸がまた話を切り出そうとしたその時、虎が口を開く。
「バイトだ。」
「あんなところでか?」
「その方が稼げるんだ。」
「なんのバイトしてんの?」
「清掃とか、厨房に立って料理とか、そんな感じのことだ。」
確かに、尾行していて気づいたのはオカマバーから出てきたときにオーナーのオカマが「今日もありがとう、今度はワタシにも作ってね。」と言っていたような気がする。なら、男性のところで何をしていたかとなると清掃である。しかも、その二軒から例のクラスの女生徒と成人女性の家がかなり近い。
尾行してない日(寝不足による限界のせい)もあったのでその空白の時間にバイトを当てはめればすべての辻褄があう。と、頭の中で結論付けた焔戸はその言葉を信じる事にした。
「へぇ、いいじゃん。今度、俺たちにも教えろよ。」
「あ?あぁ…いいぜ。時間があるときに俺から相談してみるよ。」
今までの奴と反応が違ったので虎は内心バカか?と思いながらも話をつづけた。
そして、今週のバイト先の近くに来たと言って、オカマバーの方面へ歩き出した虎を見送ると、難場、黒瀬の二名は尾行しようと足を動かしたが、焔戸はそんな二人を止める。
「なにするんですか。まさか本当にバイトだと信じているんですか?」
「あぁ。」
「あの話をうのみにする気か?」
「あぁ。」
焔戸は先ほど考えたことを二人に話したが、やはり半信半疑と言ったところだった。
「宿泊する理由がないでしょう?」
「家出中なら、バイト先にも泊まるだろ?」
難場はそこから何も言わなくなった。
黒瀬は任務を忘れていると思い、焔戸を説得し始める。
「だが、今は任務だ。せめてバイト終わりまで尾行はしないといけないだろう?」
「だが、今までのパターンからだったら、今夜はバイト先に泊まるはずだろ?あいつのことだ、学校には毎日きてるし、明日に支障をきたすようなことはしないだろ。」
焔戸は帰ろうと踵を返し歩き始める。
二人は焔戸の考えに納得いかず、どうにか説得しようとするが、焔戸はこちらを振り向き言う。
「一応、友達になったからな。」
「なら、なおさら……」
「それは友達のすることじゃねぇだろ。」
焔戸はそのまま二人を背に帰宅した。
残された二人は顔を見合わせ、今回の焔戸は何を言っても結論を曲げないと仕方なく納得し、二人も帰路につく。
「零。どうしましょう。」
「まぁ、俺らも今日のところは帰ろう。こんな時に身内内でもめるのはごめんだ。」
「同感です。ですが、一応バイト終わりまで見ていましょうか?」
「いや、焔戸の言うように友達のすることではないだろう。」
「あなたまでそんな。はぁ…分かりました。私も今日は潔くお暇しましょう。」
そんなこんなで夕暮 虎の監視一週間と二日目は終わりを迎えた。
Ep25:FIN