「君を我が王国へ歓迎しよう。」
その言葉に虎はポカンと口を開ける。
白淵はその様子を気にすることなく話を続ける。
「君の情報を色々と調べさせてもらった。母親が幾たびの労働で精神崩壊。逃げた父の多額の負債。そして、終わらない返済……そんな君に僕らは手を伸ばしたわけさ。」
大げさに手を差し伸べると、虎は手を払いのけてにらみつける。
その態度に白淵は口をポカンと開ける。
「なぜ、手を払われたかわからないって顔だな?」
「当然だろ。僕らのもとへ来れば、あの生活で苦しむ必要もないんだぞ?」
虎はそのふざけた態度の白淵へ嫌悪の目を向ける。
「なぜ、そんな目で見る?僕らも君を同じで苦しい思いをしてやっと集まることができたんだ。」
「で?なんだ?俺には関係ないね。」
「言っている意味が分からないのか?」
「俺をバイト先に帰せ。明日も学校だ。」
「なぜ、働く必要がある学校に行く必要がある?どのみちこのままだと、人生は暗いぞ?」
白淵のふざけた態度に虎の堪忍袋の緒が切れた。
胸ぐらをつかみ圧をかけながらにらむ。白淵はそんな虎と目を合わせても驚きも怯えもしない。
だが、ようやく虎が話に応じる気がないと悟ると虎をにこやかに睨み返す。その圧に虎は気おされて後ずさる。その勢いを利用して白淵は虎を押し返す。
「先ほどの威勢はどうした?」
「ちっ...!どうでもいい。は、早く帰せ。」
「そうか、そんなに帰りたいのか…ならば帰してやろう。土に。」
「は?」
白淵はどこから取り出したのか銃を向ける。
虎はどうせおもちゃだろうと気にすることなく立ち上がるが、聞いたことのない大きな音に後ろを振り向くと同時に右足に激痛が走る。
「っ...!あ”!」
白淵の持つ銃口からは白い煙が上がっていた。
「まともに歩けない。獣風情が。私に立てつく気か。」
口調が変わっていてその威圧感に虎は静かになる。
「どうした。何か言ってみろ。」
ゆっくりと近づいてくる白淵から逃げようと立ち上がろうとした虎にも一発弾丸が命中した。
以前怪我をしたところに見事命中してしまったので先ほどのものとは比べ物にならないほどの激痛が虎の足を襲う。うずくまり、それでも顔を上げた虎の眉間に白淵は煙の上がる銃口を突きつける。
発砲したての銃口は高温になっており、遊び半分で触ると軽く火傷する。その熱が虎の眉間を焼き、眉間には軽く丸い火傷を負う。
「く…なんで……こんなこと。」
「気が変わった。」
「は……?」
「お前を仲間にしようと最初は何を言われても許そうと思っていたが……気が変わった。もったいないが、お前を殺してしまおう。」
白淵の目は先ほどの憐れむような自愛に満ちた目は、悲しそうでそれでも悔しそうな目をしている。
それでも、虎は嫌悪に目を止めない。
「私をそんな目で見るな。せっかく手を差し伸べたのにお前は拒否したんだ。悪いのは一目瞭然だろう?」
「お前……何の苦労も…知らない境遇で育っただろ。」
「それがどうした?」
「いや、なんでも?」
精一杯の煽りに白淵は鼻で笑い、右肩を打ち抜く。
虎は歯を食いしばってその痛みに耐えるが今にも吐きそうなほど内心は恐怖に支配されている。
「もったいない。こんなことで殺すのは本当にもったい。」
「んじゃ、なんで殺さない。」
「今、こうやって話している最中でもね。悩んでいるんだよ。君を生かそうか。殺そうか。」
虎は涙を必死にこらえて、左手一本で体勢を立て直そうとしたが、とうとう左腕も打ち抜かれる。
「ぐっ……!!」
「はぁ、最初から仲間になると言わないからだ。これがラストチャンスだ。仲間になれ。」
「嫌だね。」
悲しそうな白淵はため息を漏らし、引き金を弾いた。
Ep27:FIN