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Ep.28 第三任務 発起

廃ビリヤード場に一発の銃声が響く。発砲した白淵は感心しながら口角を軽く上げる。

その目の前には弾丸を躱した虎が白淵をにらみつけていた。

四肢には銃でできた赤い点から出血していた。


「感心したよ。一般人のキミが銃弾を躱せるとはね。」


「俺も、驚いたぜ。頭では怖いとわかっているし、このまま死んでも仕方ないと思っていたが、どうやら本能はまだ死にたくないらしい。」


「そうか、ならば今度こそ打ち抜いてやろうう。」


虎化:腕タイガー アーム!!」


虎は腕を虎に変え、白淵につかみかかる。だが、それは隣にいた大男によって阻止される。

男は手をかざすと、虎の目の前に自分の手が現れ、自分の首を絞めつける。

虎は驚き力を緩めて手を放す。目の前に現れていたのはさほど大きくない穴。


「穴井。邪魔するな。」


穴井と呼ばれた男は能力を解除し、一礼した。

一見チャラチャラとした見た目の褐色の男は無口で呼吸音すら聞き取れない。

虎を連れてきた少年は武器を構えていたが、すぐに武器を投げ捨てた。武器は霧のように消え去り跡形もなくなった。


「はぁ、もういいや、早く殺そう。」


再び銃口を向けられると、虎は今度こそ命の終わりを悟る。

目を瞑り、最後にみんなの顔を思い出す。オーナー、担任、先輩方、竹林、焔戸、難場、黒瀬、そして、母親。自然と涙が出てくる虎の様子に白淵は悲しそうな目で再び引き金に指をかける。


「サヨナラだ。同士よ。」


引き金に力がかかり、弾丸が打ち出されるその時、ビリヤード場の入り口で大きな音が響く。

飛び込んできたのは大きなバイクだった。そのバイクに乗っているのは、焔戸 燃だった。


────────────


すっかり夜も更けた頃、焔戸の携帯に一本の着信が入る。

最初は無視して再び眠りに着こうとしたが、その後、五分おき、三分おき、一分おき、三十秒おきと、スパンが短くなっていく。そのかけ方に黒瀬だと確信した焔戸はとうとう電話に出た。


「こんな夜になんの用だ。しょうもなかったら、燃やすぞ。」


「はぁ、のんきなものだな。お前のせいで夕暮が消えたというのに。」


その言葉に一瞬、黒瀬が何を口走ったのか理解できなかった。


「は?」


「寝ぼけるな。起きろ。すでに戦闘は始まっている。戦場で寝ることは許さんぞ。」


「いや、何言ってんだよ。一週間とか尾行して、なんもなかっただろ。今更、誘拐されたってのかよ。」


「さっきからそういっているだろ。さっさと携帯に送ったところに来い。と言ってもバイト先の住所なのだがな。」


焔戸は無言で電話を切り、慌てて部屋を飛び出す。

バイト先に着くと、黒瀬以外に、我楽隊長、難場がいた。

我楽は腕組みをして焔戸をにらんでいた。焔戸が近づいていくと我楽が、焔戸につかみかかり殴ろうとしたが、難場がすぐに静止する。息を整えた我楽はどすの効いた声で低くしゃべり始める。


「さて、俺がなんで怒っているかわかるか。」


「は、はい。」


「ならばいい。だが、状況は変わらない。いいか。ここからは捜索、そして、見つけ次第、誘拐犯たちを捕縛する。いいな?」


「りょ、了解。」


そして……と言って我楽は焔戸を一発殴った。


「……っ!」


「これは君がしっかり仕事ができるように喝を入れたつもりだ。何か文句は?」


「…………」


我楽はすぐにバイクスーツと武装を焔戸に投げる。そのすべてを受け取り焔戸はヘルメットを装着する。

そして、近くに止まっていたトラックからバイクが出てきた。すでにエンジンが温まっているバイクにまたがりアクセルを回す。そのエンジン音が鳴り響くと焔戸は改めて気持ちを切り替えた。

ヘルメット内に内蔵されているインカムから我楽が通信を入れる。


「気分は?」


「最高です。これなら、すぐに見つけられます。」


「そうか、それはよかった。だが、あまり時間はない。今からゼロから捜索だ。一晩中走り続けられるようにガソリンは満タンだ。さて、こちらもできるだけサポートはする。隣町までの範囲を捜索開始だ。」


焔戸は思い切りアクセルを噴き上げるとヘルメット内の液晶に映し出された地図の印に向かう。

空地、廃工場、山、川、その箇所をわずか数十分で回る。人気がないと悟るとすぐにその場を後にする。

虎が誘拐され、一時間。未だ場所の特定はできていない。

次第に全員が焦り始める。だが、誰一人として、文句も何もしゃべらない。


「さて、隣町に向かうぞ。」


「了解…………質問なんだけど……」


「何だ?」


「黒瀬と難場は?」


「さっきから君の周りを走りまわってる。君が見落としがないように君が行ったところ全てを再度捜索している。他の人達はかったぱしから廃工とか、人気のなさそうな場所の検索にいそしんでいる。」


「……ありがとうございます。」


「お礼を言うには早い。ほら、次、そこのビリヤード場。何か見える?」


「明かりがついてます。このまま行きます。」


「いや、待て、慎重に行こう。無茶はするなよ?」


焔戸はニヤリと笑うとアクセルを緩めずにそのまま速度を上げる。


「おい、また命令違反か?今すぐ止まれ。焔戸ぉ!」


焔戸はその通信を聞かずにそのままアクセル全開でビリヤード場へ飛び込んだ。


Ep28:FIN

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