バイクのアイドリング音だけが響き渡る廃ビリヤード場。
そこにいた人間はバイクに視線を集中させていた。バイクに騎乗している焔戸は改めてアクセルを回す。
そのままバイクを急発進させると、虎に銃口を向ける男へと突っ込む。もちろん、傍にいる大男こと穴井は銃口を向ける男こと白淵の前へ能力で作った穴を盾にする。穴の先はどこかの海岸であったのを、焔戸はほぼ本能的に危機を察知してバイクを乗り捨てる。穴へ入っていったバイクは激しく水に落ちる音と岩に当たる音が響く。
「シンプル……それゆえ強力な能力だな。」
焔戸が感心していると、穴を閉じた直後にもう一人身長の小さな少年がナイフを逆手に持ち焔戸を狙って刺しにかかる。それにもほぼ反射的に反応した焔戸は、力加減を間違え、少年の首を絞めつける。
「
穴井が海外人に見えた焔戸は懐の銃を少年のこめかみに当て、動こうとした白淵と穴井の動きを止める。
「俺は日本人だ。それよりも、貴様何者だ?」
「教える義理はねぇ、義務もねぇ。持ってる武器全部遠くに投げろ。」
焔戸は鋭い視線で二人を見つめる。
白淵と穴井の二人は、困惑した表情で懐の武器を焔戸の側に投げる。
二人で両手を上げ、武器はないことをジェスチャーすると、焔戸は少年を締めていた腕を緩めて少年を解放する。少年は何を言うわけでもなく二人のもとへ向かうと思っていた。しかし、去り際に能力で銃を作り出し、焔戸に向かって発砲する。間一髪で避けると、虎の手を引き自分の後ろへ放ると焔戸は燃えていた銃を三人に投げつける。
「穴井、泡沫。」
白淵のその掛け声とともに穴井は穴を作り出し、燃えた銃を焔戸の真上へと落とす。
その燃えた銃に一瞬気を奪われた焔戸の隙を泡沫と呼ばれた少年が追撃する。何もないところから今度は刀を抜刀し、焔戸に切りかかる。焔戸はその刀に反応できずに腕でガードしてしまった。
丁度、骨のところで止まった刀を思い切り、押し返すと泡沫は力負けし後ろへと飛ばされる。
刀から手を離した泡沫を白淵がキャッチすると、視線を焔戸に向けたまま降ろし一歩で焔戸の目の前まで来る。
「ち…!!」
「売られた喧嘩は買うのが流儀。覚悟しろ。」
羽のように軽くなった体を持ち上げると、白淵は焔戸の首を絞める。
焔戸はガリガリと音が出るまで白淵の手を掻き続けたが、白淵は顔色を変えずに力を込める。
焔戸の気が遠のく中、新たな銃声が響く。そのゴム弾は白淵の手に命中し白淵は手を放す。
銃声の先には引き金を弾いた黒瀬とその後ろに、難場と我楽隊長が立っていた。
「見つけた。」
「お前ら…」
焔戸は虎を連れ、慌てて三人のもとへ行く。
「よくやった。」
「でも、勝手に動いたことは許さん。」
「いや、見つけた興奮と、勘がこっちって言ったので…………」
「とりあえず、新BLACK D.O.G総員、ターゲットは三人、確実に捕縛するように。」
「「「了解!!!」」」
我楽を背に黒瀬、難場、焔戸の三人が構える。相対するのは白淵、穴井、泡沫の三人。お互い、じりじりと近づくとまず動いたのは焔戸だった。穴井が手をかざすと、焔戸は我楽に視線を向けたまま叫ぶ。
「俺の発信機生きてますか?」
「バッチリだ。」
「捜索はよろしくお願いします!!」
穴井が開いた穴へ仕込まれると焔戸は後ろを振り向きながら、サムズアップをした。
焔戸の様子を見た黒瀬と難場は残りの二人に向かう。
それぞれ、黒瀬は白淵へ、難場は泡沫へと走り出す。
「来い、黒の王、こっちだ。」
「白淵とか言ったな。相手しよう。」
「えぇ~なんか、僕の相手ひょろがりなんだけど……」
「まぁ、その認識で間違いないですが……後悔しますよ?」
黒瀬と白淵は奥の方へと走り、難場と泡沫はそのまま構える。
「さて、あなたの能力。何ですか?」
冷静に、率直に難場は質問する。
泡沫はいたずらに微笑みナイフを取り出す。
「聞きたきゃ、僕を捕まえてみな。」
ステップを踏むと、一歩で難場の目の前まで来る。
ナイフを一撃難場の顔面に目掛けて突き刺すが、難場はその一刺しを躱しすぐにナイフを取ろうと手を絡めた途端、泡沫は手を離し、ナイフは難場の手に渡る前に消え去った。
「惜しいね。」
「能力解除ですか…器用ですね。」
「そうかな?どうかな?もしかしたら、幻かもしれないよ?」
「そうですか…でしたら、
難場は静かに歩き出すと、一度、我楽と虎の方を向き、逃げるように指示を出す。
我楽は難場が能力を使う合図だと悟ると、慌ててビリヤード場の外へと向かった。
「何すんだよ。てか、なんで、先生とあいつらが?」
「訳は後だ。取り合えずここから離れるぞ。」
難場は我楽たちが出たのを確認したら、懐から実弾が一発入った銃を取り出し、能力発動と共に発砲した
「何してんの?見たところ、その銃は一発しか入ってなかったみたいだけど。」
「不幸ですよ。不幸。まぁ、今回は前回みたいにはいかないでしょうけど。」
「は?」
泡沫が首をかしげると同時に、二人の真上が大爆発した。
────────────
大爆発が聞こえてきた奥の部屋。
ビリヤード台がきちんと並べられており、白淵はビリヤードの玉を指ではじきながら、目の前で警戒している黒瀬に笑いかける。
「そう警戒すんなよ。あっちの方も盛り上がっているみたいし、こっちも始めるか?」
黒瀬に目を向けた瞬間、白淵の目の前には銃口が突きつけられていた。
引き金が引かれると同時に顔を必要分傾けゴム弾を避ける。
「おいおい、いくらゴム弾とは言え打ちどころ悪かったら死ぬんだろう?」
「だがお前なら、よけるだろう?」
「嫌だね~その信頼の仕方。」
「信頼ではなく、勘だな。」
「どっちでもいいよ。そのみち今夜は運がないからね。」
「難場のようなことを言うのだな。」
再び発砲した黒瀬は躱した白淵の手を掴み、関節技を決めようと引っ張り上げるが、白淵はその引っ張られる力を利用して能力で出したナイフを突き出す。そのナイフを手で受け止めようと黒瀬は手をそのまま突き出す。ナイフが黒瀬の手を貫通したが、一滴も血が流れていない。
その様子に白淵は驚きと喜びの両方が押し寄せた。口角が自然に上がると、黒瀬から一度距離を置く。
「覚醒したんだな?!」
「お前の言う、黒の王とやらの力らしい。だが、完全に覚醒はしていないようだ。」
「だが、私と同じレベルの能力値だ!これで今の全力が出せる!!」
白い靄のようなものが白淵を包み込む。
「嫌な予感がするな……」
黒瀬はため息をつき、黒い靄を出そうと力を振り絞る。
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「ったく。ここどこだよ。」
森の中に穴井と呼ばれた男と共に来た焔戸は頭を掻きながら、困惑する。
目の前には穴井がおり、すでに帰りの穴をあけていた。
「させるかよ。」
焔戸は穴井に近づき羽交い絞めにする。
穴井は、すぐに焔戸の寝技から抜け出し、すぐに穴を作り出す。
「ちっ!せめて戦ってけ!!」
側にあった野球ボールサイスの石を投げつけると、穴井は自分の後ろに穴を作り出し焔戸の真上に落とす。
その石をキャッチすると再び投げつける。
「しつこいな。」
穴井は同じことをすると、焔戸はその場の石を全て拾い上げ全て穴井に向かってなげる。
さすがに穴井は作る穴を増やさざる負えず、投げられた石を全て穴の中に入るように作り出す。
「隙あり」
穴を作り出すことに集中し過ぎた穴井は焔戸がこちらへ来ることを察知できず、拳を腹部へともらう。
「…………!!」
「さて、能力使ったあとは疲労感すごいよな?」
「ここで、俺を消費させたら、元の場所に帰れなくなるぞ?」
「知らねぇなぁ」
焔戸は拳を鳴らすと、穴井に拳を振り下ろした。
Ep29:FIN