焔戸の拳が穴井の顔面に振り下ろされるが、能力をギリギリで発動できたため、焔戸の拳は自身の顔面を殴っていた。
「がふっ…………」
自ら手を引き、よろめきながら殴った部分をさする。鼻血が出ているのを確認する。詰まった鼻から血を思い切り吐き出す。
「いってぇ……」
「ま、そう簡単に俺は傷つかないさ……さて、こちらからも反撃させてもらおう。」
穴井は拳を握ると、シャドーボクシングを始めたが、攻撃は突然始まった。
焔戸の目の前に穴が現れ、その奥から穴井の拳が飛んでくる。よけようと揺らぐ視界でなんとか避けたが、よけた先から拳が飛んできた。
「俺の能力、説明はいるか?」
穴井は煽るように口笛を吹きながら、関節を鳴らしていく。
「いらねぇよ。大体わかったからな。」
そうか、と穴井は拳を振るのを辞めない。穴井の異能力。
「くそが。」
「考え事か?戦いに集中しないと死ぬぞ?」
再び拳を突き出し始めた穴井は焔戸と出口の距離をさらに縮める。
文字通り目と鼻の先なのだが、焔戸は肩で息をしながらそれでも拳を見極めて躱している。が、自分で自分の顔を一発殴ったためすでに軽く脳震盪が怒っているため拳をあまりよけられていない。
「ほら……!ほら……!ほら......!どうした?」
「くっそがよ……」
そのまま、三分程度が過ぎたとき、よろめき隙ができた焔戸に穴井の一撃が決まる。そして、力なくそこに倒れる焔戸に近づき気を失ったか顔を覗き込む穴井に手が伸びる。
「な……!」
「つか、まえ…た……ぞ……!
そのまま最初のように羽交い絞めにすると今度こそ絞め落とそうと必死に腕に力を込める。
その痛みに耐えられずに穴井は仲間に助けを求めようとビリヤード場に穴をつなげる。
焔戸はそれを待っていましたとばかりにそのまま体を動かし穴井ともども穴の中へ飛び込みビリヤード場へと出てきた。穴井は泡沫に助けを求めようと目を見開いたが、目の前に広がっていたのは火の海だった
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新BLACK D.O.G隊長 我楽 多は盛大に上がる火柱を目にしても表情を一ミリも変えずに腕組みをしている
その様子に夕暮 虎は異常性を感じて質問する。
「消防呼ばなくてもいいのかよ……」
「まぁ、後で処理するから大丈夫だ。」
「そうかよ……」
これ以上しゃべっても無駄だと悟った虎は背中に流れる汗を気にしながらも目の前で起こっていることに釘付けになっている。そして、ふいに先生としての我楽に話す。
「明日、竹林に改めて謝ろうと思う。」
「そうか。それはいいことだ。がんばれよ。」
肯定した我楽は少しうれしそうに火柱を見つめる。
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その火柱の中にて、爆発を起こした張本人の難場 十三は瓦礫からほぼ無傷で出てくる。
一方同じく瓦礫に足をはさまれた泡沫は身動きが取れずに迫りくる難場に銃を向ける事しかできなかった
「さて、チェックメイトです。」
「どんなトリックだ!お前だけ無事なのはおかしいだろ!!」
「この能力をもっていると、不幸を察知することが習慣づくんですよ。強制的に”不幸中の幸い”を起ことも可能ということですよ。」
「畜生!!」
その時、何もないところから穴が現れ、穴井を羽交い絞めにした焔戸が出てきた。
穴井は希望に満ちた目をしていたが、この惨状に再び絶望へと突き落とされる。
「おや、ここにも僕の不幸の餌食になった人たちが……」
「俺は仲間だろうが!!」
「そんなの見境ないと知ってるはずです。」
羽交い絞めにしていた焔戸は穴井を離し、難場へと近寄る。
「と、疲れた。」
「随分とボロボロですね。これ、手錠です。」
「ありがとう。」
手錠を受け取ると穴井と泡沫の二名に手錠をかけると、二人は消火できるものが無いかと周辺を探す。
もちろん、廃ビリヤード場にそんな設備はないので仕方なく、どこか外に出られる道はないかと探す。
かろうじて見つけた道は今にも炎で行く手が阻まれそうだったので、さっさと二名を動かしながら外へと出た。
「出てきたな。」
「死にそうですよ、隊長。」
「とりあえず、二人確保です。」
「よし、あとは黒瀬を待つばかりだ。」
三人はそれぞれを見張りながら、黒瀬を待つ。
EP30:FIN