火柱とその熱で二入は躱した拳を一度力を緩める。
「どうやら、あとは俺だけのようだな。」
「そうか、二人は捕まったか……」
白淵は一度バックステップを踏み、黒瀬から距離をとる。
黒瀬は白淵が逃走を図ろうとしているのかとそのステップに合わせて距離を詰める。
「逃げないさ。興はまだ覚めていないからな!!」
距離を詰めてきた黒瀬にナイフを突き立てるが、黒瀬の腕は傷をつけることはできない。
黒瀬にだけ能力が働いていないように感じた白淵は再び、格闘戦に持ち込もうとする。
だが、黒瀬は先ほどとは裏腹に白淵から距離を取り手をかざす。
力を込めて何か攻撃を仕掛けようとしたが、何も出ずにそのまま力が抜けた。
「ダメか……」
「まだ、うまく扱えないようだな。」
白淵はホコリを払い、ふらり棒立ちになる。そして、白い靄のようなものが現れる。手を力なくスナップさせると、一歩で黒瀬に距離を詰める。
その速さに反応できずに黒瀬はガードをしたが、白淵はそのまま後ろの周りの黒瀬に組み付く。
だがしかし、目の前にはもう一人の白淵がいた。
「何が……」
言葉の続きを言う前に白淵はそのまま黒瀬を押さえつけ、白い靄で黒瀬を囲む。
「
白い靄はそのまま無数の牙に形を変え、黒瀬の体に食い込む。
今までに体験したことのない痛みにどんな死線も乗り越えてきた黒瀬は喘ぐ。
「あぁ……!!」
「どうだ?痛むだろう?これがお前と私に課された宿命の痛みだ。」
「何だ……この痛みは…………」
無数の牙は動くたびに食い込んでくる。その痛みは治まることを知らずに、どんどん増していく。
「くそ……」
指一本も動かせない黒瀬に白淵はつまらなそうに靄から解放する。
完全に気を失った黒瀬を見つめて、ため息をつき黒瀬の亡骸を確認しようと近づく。
目と鼻の先まで近づいたとき、黒瀬は白淵の頭を掴み頭突きを繰り出した。
だが、白淵には全く効いていない様子で黒瀬と目を合わせるとにやりと口角を上げ、白い靄を再びまとわりつかせる。
「くっ…………」
「だまし討ちか。面白いが、能力を使わないと私には一切効かない。」
黒瀬はそのまま締め付けられ始める。音を立て始める白い靄はそのまま黒瀬の体をねじ切る勢いの強さだ。黒瀬は再び襲ってきた痛みから逃げようともがくが、無駄な抵抗で終わる。
「どうした?死ぬぞ?」
黒瀬の顔が赤から青へ変わり白くなった時、気を失った。
「気を失ったか……起こそうか。」
そういって一度力を緩め、黒瀬を床に降ろす。
力なく眠った黒瀬は今度こそ指一本も動かさない。その様子に白淵はつま先で軽く小突く。
動くこともないことから本当に気を失ったと確認して肩を落とし、入口へと向かう。
「今回はここまでか、残念だな。はぁ、対等に戦える奴だと思ったのだがな。期待外れだ。」
そのまま、炎をどけて捕まった二人を回収しようと向かおうとしたその時、後ろから鋭い殺気と視線が白淵の背中に突き刺さる。その今までない殺気を感じ取った白淵はすぐに後ろを振り向き期待の眼差しを向けた。そこに立っていたのは紛れもなく黒瀬 零だった。だが、どこか様子がおかしい。
だらりと立つ黒瀬は手をかざす。その指先に殺気を感じた白淵はすぐに構えガードの準備をしたが、黒瀬の攻撃はすでに終わっていた。
「は?」
吹き飛んだ左腕を見るが、出血はなくだが、綺麗に断面が見えるほどに切れていた。
「はぁ……はぁ………
左腕を切り取った黒い靄は無数の蟲のようにその左腕を喰らいつくしている。
白淵は食いつくされる前に左腕に指示を送り自分のもとへ戻ってくるように手をかざす。
群がっていた黒い靄は左腕が逃げると、近くの炎を食べ始める。
「炎すらも喰らうのか……」
「はぁ……難場が言っていた……こんな状況は”勝利フラグ”というものだと。」
「はは…!面白い、今ここで決着をつけるつもりか。」
炎を食べ終えた黒い靄は黒瀬の周りに戻っていく。
突然炎が消えたことで白淵の後ろには捕まった二人と焔戸、難場、我楽、夕暮の六人が見えた。
「黒瀬がやったのか?」
「そうみたいですね。」
焼け野原になった廃ビリヤード場で黒瀬と白淵が見つめ合う。
EP31:FIN