「決着をつけるか…」
黒瀬が指を指す先、白淵はボロボロで無言でうなずく。
その光景をかたずをのんで見守る、我楽、穴井、泡沫、焔戸、難場、夕暮の六名はその場の空気を乱さぬように指先を一ミリも動かさないようにしている。いや、二人のあまりの気迫のぶつかりに動くことができないという表現の方が正しいだろう。まるで二入の立っている場所だけ別の時間や空気が流れているようにも感じる。
刻一刻と経過する時間。だが、二人は互いの出方を見計らっているのか、動こうとしない。
さらに、数分が経過した。夜空が薄暗く、白く染まったその時、互いに一歩動いた。
そのまま、足取り軽く近づく二入は互いに拳を握る。白い炎と黒い炎が漏れ出すその拳で同時に殴った。
それが開始のゴングになり、互いに倒れそうになった二人は合わせ鏡のように同じ動作をする。
「考えていることは同じみたいだな。」
「黒の王の力が完全に覚醒していないとは言え、ここまでの力を引き出すとは………面白い。」
白淵は周りに無数の白い炎を展開してその形をナイフの形状へと変化させ、黒瀬に照準を合わせる。
指を強く黒瀬に向ける。ナイフの形の白炎は黒瀬めがけて射出される。
目にも止まらぬ速さに、黒瀬は最初のナイフを頬にかすり、痛みと共にそのナイフを避ける。
「やはり、完全覚醒していないと力量の差は歴然だな。」
「だが、お前と、俺の覚醒レベルは一緒だと最初に言ったよな?俺もお前みたいなことができるってことだよな?」
黒瀬はよけ終わった体勢から、白淵に向かう足を動かす。
頭の中のイメージ……目の前の敵を穿つイメージ。
そのイメージを自在に操るイメージ。
落ち着いて考える。
そして、白淵にだんだんと近づく黒瀬がイメージしたものは相手を穿つ、”剣”だった。
白淵の肩まで届きそうな剣を手にそして、すぐさま振りかざす黒瀬の刃は綺麗に白淵の左肩へ食い込んでいく。やがて、服の袖を切り、身体を切り、その真っ向切りは白淵の左脇へと通り抜けた。
「…………!!」
「まだだ。」
剣をそのまま手放し、二本目の刃を白淵へと向ける。
二本目の刃、それは実弾が一発詰まった拳銃だった。黒瀬はその銃口を白淵の眉間へ向け、躊躇なく引き金を弾いた。だが、白淵も負けっぱなしではない。目の前の銃口を痛める中、ほぼ脊髄反射で弾丸を避ける。切れた左腕を掴むとその左腕を黒瀬と同じく剣に変え、黒瀬の首を狙う。
この間、わずか一分の出来事である。
お互いに血の流れない体。お互いの攻撃に感覚が鋭くなる体。
すでにこの二人の体は異能力か、もしくはそれ以外の何かで、人外のそれになっている。
その人間のしない戦いを見守っている六人は、目を抑えるわけでもなく、そらすわけでもなく、ただただ、見ているだけだった。
切り合いの中、二人はだんだんと体の感覚がもともとは正反対のものとなっていった。
相手の次の一手が手に取るようにがわかる。
相手の考えてが手に取るようにわかる。
切ってはその部位を武器に変え、その武器が不発したのならば、その武器を体にもどし、新たな武器を生成、再現する。数分その場から動かず切り合う二人。だが、その斬り合いは唐突に終わった。
黒瀬が一歩踏み外し、その隙を見逃さなかった白淵がそこに漬け込み、銃口を眉間に当て、すぐさま引き金を弾く。
乾いた銃声は朝の広場に響き、それが終わりのゴングとなった。
「これで最後……だ。」
「そうだな…。」
黒瀬はその一発をギリギリで避け、すぐに刀を再現し白淵の上半身と下半身を切り分けようと腰の方に刃を真一文字に入れていた。
しかし、刀は通り抜けてはおらず、白淵の右骨盤の方で止まっていた。
「まだ、実力が足りないようだな。」
「はは……決着はまた今度か……」
白淵は力なく体勢を直すと、刀を無理やり引き抜くと、指をパチンと鳴らす。
すると、焔戸と難場が捕まえていた穴井と泡沫が白い靄で包まれ、一瞬で白淵のもとへと移動した。
「なっ……!」
「待ちなさい!!」
「悪いな。仲間を捕まえてもらっちゃ我慢ならないんだよ。返してもらぜ?」
手錠が壊され、そのまま穴井が手をかざし、どこかへ通じる穴を作った。
黒瀬はその背中に銃を再現し発砲するが、穴井は白淵の背中へ穴を作りすぐさま弾丸をどこかへと飛ばす。
「またな。」
「逃さな……い」
二発目の引き金を弾こうとしたが、力がうまく入らずその場に背中から倒れる。
「黒瀬!」
倒れた黒瀬に集まる我楽と焔戸、難場を確認すると白淵はすぐに穴に入り逃走した。
もはや白淵を気にする者はそこにはいなくて、全員が黒瀬に駆け寄ってその心配をした。
だが、黒瀬はうつろながらも目をあけ、意識を保っていた。
「大丈夫…だ。」
「今にも死にそうになってんじゃねぇか。」
「傷は見当たらないようですが、本当に大丈夫ですか?」
「本当に大丈夫だ。ただ……少し………疲…………れ…………た…………」
「「黒瀬~!」」
黒瀬の体を揺らす焔戸と難場を押しのけ、我楽は黒瀬の脈を図ったりと異常がないが確認しているが、特に異常は見当たらなかった。
「異常はない。だが、疲労のせいか、俺がどこを触ろうが反応なしだ。」
「「それならよかった。」」
夕暮と黒瀬を担ぎ、三人は広場を後にした。
黒焦げになった広場は後日、政府関係者が警察を使いどうにかこうかしたのだった。
EP32:FIN