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Ep.33 後日譚とその先で

「ごめん。」


屋上に続く階段の踊り場にて、声が静かに響く。今、目の前で頭を下げるのは最近まで自分をいじめていた相手だった。踊り場に呼ばれたときはまたいじめられるのと内心ひやひやだったが、いきなり頭を垂れるその姿に、あの日の形だけの謝罪ではなく心からの本気の謝罪。それがひしひしと伝わってくる。


「大丈夫だよ。謝ってくれてありがとう。」


竹林は夕暮に向かって言葉をかけると、夕暮は顔を上げ、目を潤ませる。涙は流さずにそのまま顔を隠すように後ろを振り向く。


「こっちも、ありがとう。」


「僕はもう気にしていないから。それよりも、僕もごめん。」


その言葉に夕暮は潤ませた瞳のまま驚きの表情で竹林に向き直る。


「その怪我、僕がやったんでしょ?本当にごめんね。」


「その話誰から……」


「焔戸くんたちから聞いた。」


「そうか。お、俺も気にしてないし…と、とりあえず、行こうぜ。売店でおごるよ。」


「いや悪いよ。今回はお互いさまってことで……でも、売店には行こう。」


竹林は夕暮に手を伸ばすと、照れ臭そうに夕暮は竹林の手を取りゆっくりと階段を降りた。


────────────


夕暮 虎の件は表立ってはニュースにはならなかった。

ただ、昨日の夜から明け方に隣町の廃ビリヤード場が全焼するほどの火事があってそれを見つけた四人組の高校生が消防に通報、無事に鎮火にまで至ったというニュースが地域レベルで流れただけだった。

異能力者同士の激しい戦闘があったとは思えないほどの小さなニュース。


「後日譚としてはこんなもんかな?」


放課後の空き教室の教壇にて我楽 多は書類をまとめる。

その話を聞いている三人は今にも眠りそうな目で我楽を見つめる。

なんせ、朝方まで戦闘をしていたのだ。死にそうな目をしていても何ら不思議ではない。

黒瀬は今日一日中、教科担任に注意されながら授業を受ける有様であった。


「もう、かえっていいっすか?」


「僕もその案に賛成です。」


「Zzz…」


そんなボロボロの三人の様子を見て、我楽は微笑み座り直す。

そして、数分書類の確認をすると角を整えてうなずく。


「そうだな。ここまでの任務で疲労も溜っているし、上からも特に急ぎの任務はない……そうだな。指示があるまでは待機ってことでいいかもしれないな。いいぞ帰っても。」


黒瀬を除く二人はだらりと立ち上がると、そのまま教室を後にした。

一方、未だ目覚める気がない黒瀬に我楽はため息をつきながら起こす。


「黒瀬。ミーティング終わったから、帰ってもいいぞ?」


黒瀬はパチリと目を開けると、我楽に向き直り身なりを整える。


「あ、りが、とうござい、ます。では、失礼しま、す」


眠りながら教室を後にした黒瀬は珍しく雑に礼をすると教室の戸をきちんと閉めた。


「大丈夫かなぁ。」


────────────


空き教室を後にしようと書類をまとめた我楽は携帯に一通のメールが入っているのを確認した。


件名:帰国する。


その文字を見ると我楽の口角はゆっくりと優しく上がる。


皇  王手すめらぎ おうて…………帰ってくるか…………っ!」


元BLACK D.O.G副隊長補佐。皇  王手すめらぎ おうてからのメールだった。

そのメールを閉じると我楽は足早に職員室へと向かい、準備を始める。

同じ日の夜。そのメールは元BLACK D.O.Gの三人のもとへも届いた。


────────────


「楽しみだ。三人はうまくやれているかな?」


任務の戦績を見ながら、上がる口角。飛行機の窓の外を見つめる瞳は日本の夜の光を反射する。


「あの三人は俺がいないと最適解を出すことができないからな……」


機体の高度がだんだんと低くなると着陸態勢へ入る。


「さてまず、どこを指摘しようか。ここも、ここも、この任務も…全然だめだな。」


口角が上がったまま皇 王手は飛行機をおり、日本の大地を踏みしめた。


「さて、戦況を変えてやろう。この”絶対的な王の一手”で。」


夜を見上げる瞳を輝かせながら、手をかざす。


EP33:第一部 【完】

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