なんでこんなことに……僕はバケモノに襲われて死にかけたのに…人にまで殺されかけるなんて…目頭が熱くなり涙がこぼれそうになる。走っている僕を町の人達は白い目で見ているような気がする。靴裏の血は乾き始めておりそこまで目立たなくなってきているが、撃たれたほうの傷から出血してその点が僕の来たところから続いている。
「なんで、僕が……」
とりあえずここだと目立ってしまう。どこか身を隠せる場所は……辺りを見渡すが路地裏にしか目がいかない。しかない、とりあえず今は隠れることだけを考えよう。路地裏に入りゴミ箱をかき分けて奥へ奥へと入っていく。奥へ奥へと足を進めていく。生ごみの匂いが鼻に着く。とても臭くて余計に悲しくなってくる。背後を気にしながら歩いていると何かが音を立てている。近づいてみると人影がゴミ箱を漁っている。ホームレスか?人影は僕に気づくと手を止めて出てくる。
「な、なんで……」
目の前に現れたのは、人ではなく学校に現れたようなバケモノだった。ただ学校に出たバケモノと違うのはどこかネズミとゴキブリを混ぜたような生物だと言うことだ。ネズミのバケモノは僕と目を合わせると人間のように口角を上げる。その不気味な笑みに僕は背筋が凍りつく。この人もいや、これは人間だったのか。それとも……考え事の最中に笑みを浮かべたバケモノは一瞬にして消えた。
「え?どこに……」
探す間もなく僕の背後を衝撃が襲う。息を吸うことを忘れるほどのその衝撃は僕を路地裏から一瞬でビルの屋上へと移動させた…いや、上がっていたの方が適切だろう。僕を見下ろす触覚が見えるとその次にネズミの頭が見える。口角を上げるとバケモノは僕の胸ぐらを掴んで大きく僕を持ち上げてそのまま頭から叩きつけようと振りかぶる。
ゴン
鈍い音が頭蓋から自分の耳に伝わる。そのまま視界がブラックアウトする。
なんで、こんな目に……僕が何をしたっていうんだ……
ただ、自由がほしいだけなのに……
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とうとう煩わしくなった防護服を脱ぎ捨てた男は、下に着ていた和装を整えながら走る。斜め後ろを走っていた月下は防護服を超えて男の横を並走する。
「お前その顔、見たことあるぞ……確か、小説家の
男性は月下の言葉に反応し思わず月下の方を見る。
「僕を知っているのか。感激だな。」
「で、小説家がなんでこんなアクティブな仕事をしているんだ?」
「バイトさ。害虫駆除のバイト。」
「なら、あの少年は関係ないだろう?それと、私の名前も知っているみたいだし…どこかで面識があったか?」
「ん~細かいなぁ……とりあえず、今は彼を捕獲するのが先だね。…………このビルの上だね……」
八雲はそのまま路地裏へ入ると、ビルの非常階段を使い上へ上へと登っていく。月下もその後を追う。見えなくなった少年の居場所がなぜビルの上だと分かったのかはまた後で聞こうと月下は質問が出かかっていた口を閉じた。少年がいるであろうビルの上に到着すると、影が二つ見えた。一方は気を失っているが少年だと分かる。もう一方は明らかにディウスだと理解した月下と八雲はすぐに少年の方に駆け寄る。
「八雲。まさか害虫駆除と言うのは…」
「まぁ、正解に近いね…でも、今回は少年の保護が優先だからね。」
八雲は一狼を抱えると逃げる体制に入った。しかし、月下は八雲を制止する。
「何かな?」
「動くな。あいつがお前の方へ行く……私の後ろに下がっていろ。」
月下はベルトと注射器を取り出し腰へ巻く。ベルトの突起を押し注射器の内容を注入する。
『
「
熱を帯びた水蒸気を纏い、月下は変態した。その光景を目の当たりにした八雲はスマホのカメラで月下の姿を写真に納めてカラスマへ送信した。
「僕も手伝おうか?」
「お前には無理だ。あれは人知を超えたバケモノ……ディウスだ。」
八雲は一狼を安全で近い場所に寝かせて月下の横に並ぶ。
「知ってるさ。僕もね、君と同じの持ってるんだ。」
八雲はベルトを腰に巻いて注射器をバックルに装填しバックルを締めて突起を押し込み、月下のように変態する。
『
「
熱水蒸気の中から現れたのは全身が毛で覆われた蜘蛛だった。八雲は自分の全身を見てため息をつく。
「やはりこの姿は気に入らない……さて、と…行こうか」
「……話はあとだ。今はあいつを乂りとる。」
不服そうな月下は八雲と共に拳を構えて目の前のディウスと距離を詰めようとするが、ディウスはその一歩を踏み出したかと思うとすでに月下の顔面の前まで足を持ってきていた。
『早いッ…!』
月下は紙一重でその蹴りを防御したが、右腕には打撃跡が残っている。その様子を見ていた八雲は距離を取りながら分析をする。
「見た目は、ネズミだが、速さはゴキブリ並みだね…ネズミの方が素体でセルの方がゴキブリかな?ネズミがゴキブリのセルを誤って食べてしまった……が筋書きかな……?」
「探偵ごっこもいいが、お前、後ろにいるぞ。」
八雲が振り向くとディウスはすでに拳を打ち出したあとのポーズになっている。
「あ、やっちゃった。」
八雲はそのまま腹部に打撃を受けると隣のビルの屋上まで吹き飛んだ。隣ビルのフェンスに絡まると八雲は逆さまになった視界でため息をつく。
「困ったね……」
八雲はからまったままフェンスに体重をかけてフェンスを押し倒し抜け出す。その様子を見ていた月下は目の前のディウスからの攻撃を防御しながら呆れた。
「あいつは何をしているんだ?」
ディウスの幾度目かの打撃を止めると月下はそのまま腕に足を絡めて腕をねじ切ろうと回転するがディウスも一緒に回転し阻止する。
「そこまで阿呆ではないか……」
月下は体勢を整えて拳を再度構えた。ディウスも月下と同じように拳を構えてみる。
「バカにしやがって……」
月下はベルトの突起を押し込み拳にエネルギーを集中させる。
『
月下は赤く光る拳を握りしめたまま走りディウスへ振りかぶる。ディウスはその拳を見切ったと言わんばかりに避ける姿勢に入る。ディウスが月下の拳を完全に避けきった瞬間、月下はもう一度突起を押し込む。
『
「追い打ちだ。」
足にエネルギーが集中するとその足を避けて体勢を崩したディウスの顔面に叩き込んだ。頭が吹き飛ぶとディウスは避けたまま力なくばたりと倒れた。血は線を描き眠っている一狼の顔に届いていた。月下はベルトを外しながら一狼へ駆け寄り血を拭こうと顔に手を伸ばした。
続く。