「明星……一狼……」
「詩々原さんでしたよね……?」
名前を呼ばれたセンザンコウディウスこと詩々原ヒトミは驚きの表情を見せるが、すぐに表情を作り直す。
「情報なんて、どこでも仕入れることできますもんね……あなたを殺して慣れるとします。」
センザンコウディウスはぎこちなく一歩を踏み出し一狼へ距離を詰める。そんな動きに一狼は警戒せずにセンザンコウディウスの腹部へ蹴りを入れようとしたが、センザンコウディウスはすぐに丸くなりその蹴りを防ぐ。蹴りが弾かれた一狼はすぐに次に手を出そうと構えたがセンザンコウディウスはすでに攻撃を仕掛けてきていた。動画で見た尻尾の攻撃を一狼へ浴びせると、一狼の右脇腹へウロコが突き刺さる。そのまま民家の壁を突き破り民家の中へと入った。センザンコウディウスは一狼のあとを追うように民家の中へ入り一狼の安否を確認する。土煙をかき分けて一狼を探していると背中に衝撃が来る。後ろを振り向くもそこには誰もいない。再び背中に衝撃が来る。センザンコウディウスは振り向くが誰もいない。そのうち、何者かが走る音が耳に届くようになった。センザンコウディウスは辺りを警戒しながら一狼を探す。そして三度目の衝撃の時、センザンコウディウスは尻尾を振りながら後ろを振り向くが誰もいない。
「ここだ。」
下からの声に反応してしまい目線を下げるとそこには、拳にエネルギーを溜めている一狼がいた。
『
腹部ががら空きになったセンザンコウディウスは急いで防御の姿勢に入る。だが、一狼はそれよりも早くセンザンコウディウスの腹部へエネルギーを充填した拳を叩き入れた。突き抜ける民家の屋根に二人のいる位置が照らされる。土煙が晴れると一狼の拳は天を突いており、拳の先には誰もいない。一方センザンコウディウスはとっさに拳を防ぐのではなく避けることを選択した為、体にはかすり傷一つもついていなかった。
「あ、危なかった……」
「外したか……」
一狼は拳を握り直すと、体勢を直していたセンザンコウディウスへ近づく。センザンコウディウスはすぐに一狼の懐へ飛び込み爪で攻撃をする。一狼は尻尾攻撃でのダメージの影響での出血で少し反応が遅れる。センザンコウディウスの爪は一狼の右腹部へ突き刺さる。
「くっ…」
そのまま腹部へ突き刺さっていく爪に一狼は、必死に突き放そうとするが出血による貧血で倒れ込む。センザンコウディウスは勝利を確信し叫びながらさらに腹部へ爪を押し込む。
「死ねぇぇぇ!」
「がぁぁ……」
足をばたつかせるがセンザンコウディウスはかなりの重さで一狼は身動きが取れない。
「死」とは、自由から最も遠い言葉である。
恐怖に縛られ、死んだあとは無機物のように皆から忘れ去られ、自分の意志すらも忘れる。
死とは一狼が最もストレスのかかる言葉である。
「死んでたまるか……僕の自由を勝手に奪っておいて、僕を殺すなんて……僕からさらに自由を奪う気か?お前ごときが……自由の偉大さを知らないお前ごときに……ッ!」
妙な殺気にセンザンコウディウスはその手を止め爪を引き抜きながら一狼から離れた。
「い、生きてるというの?」
「死んでたまるか……死ぬなんて溜ったもんじゃない…ッ!僕の自由を奪う者たちの為に死ぬなんて、僕が死んで君らが笑っているなんて……許せない。」
刺された右腹部は徐々に治癒していき、しまいには傷は完全にふさがった。ディウスの説明書に書かれていたことと違う現象にセンザンコウディウスは焦り後ずさる。
「ディウス同士では傷は治りにくいでしょ?なんで……すぐに回復してるの。」
「何をしゃべっているか知らないけど、危機感は持った方がいい。ここは戦場だから。」
一狼は一直線にセンザンコウディウスの目の前まで距離を詰める。センザンコウディウスは頭の処理が追いつかずに固まる。一狼はそのままベルトの突起を押し込む。
『
一狼の拳にエネルギーが溜り始めるが、拳を振るうことなくまたベルトの突起を押し込む。
『
センザンコウディウスは意識をはっきりとさせて逃げの姿勢を取ったが、一狼はすでに拳にエネルギーを二度充填しておりすでに死の一歩手前まで来ていた。
「い、いやぁ……」
赤い閃光に照らされるセンザンコウディウスの顔は絶望に染まっている。
「目には目を、恐怖には恐怖を。」
力強く拳を構えた一狼は充填されたエネルギーをセンザンコウディウスの腹部へぶつける。
詩々原ヒトミは一狼の拳を腹で受け止め拳のエネルギーを抱え込みそのまま内部から破裂した。真っ赤な雨が降り終わり一狼はそのまま民家を抜け出し八雲の方へ向かう。
「八雲さ~ん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。さて、もうそろそろマリィの使いの人達が来る。私たちはここを離れよう。」
八雲と一狼は社用車に乗り込み民家を後にした。
続く。