幸せって何だっけ?
紙切れや、他人をうらやむことが幸せだっけ?
穴の空いた民家の天井から差し込む光がまぶしい……
でも、私って今、誰かと戦ってなかったっけ?
誰と戦っていたっけ?
薄れる意識の中で何もなかった人生のアレコレが頭を駆け巡る。
小学校の時に絵の賞を取ったこと。
中学校でいじめられたこと。
高校で引きこもりがちになったこと。
大学で人生を変えようとしたが、結局私の人生は陰に隠れたままの人生だった。
あぁ…死にたくないなぁ…
でも、生きていても何もいいことないからなぁ…
「こいつ、まだ生きてるぞ…」
「そんなはずないだろ。オウィディウスシステムのEXをくらって生きている奴はいないだろ。」
「一応確認しよう。桃井、井坂運んでくれ。」
何やら声が聞こえてくる。意識は薄れていくが、不思議とこのまま死ぬという感覚がない。黒いスーツの大男二人に担がれた私はそのままワンボックスカーへと運ばれる。そのまま寝かされると私の瞼を開けてライトで瞳孔の反応を見る。
「やはり生きている……よし、このまま治療施設に運ぶぞ。」
「左半身がほぼ無い状態なのにさすがディウスだな。」
「おしゃべりはいいから早く手順を踏め。」
私の体に複数の手が伸びてきて色々と機械をつけられたり包帯が巻かれていく。このまま寝ていても大丈夫だと確信した私はそのまま車が段差で跳ねる感覚に身を委ねながら眠りについた。
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ターゲット;明星一狼 高校生 賞金¥200000000 キャリーオーバー実施中。
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賞金¥300000000
センザンコウディウスこと詩々原ヒトミが爆散する様子が映し出された。
555:>>270.結局凡人は凡人のまま人生を終えるのだな。
111:>>270.分かり切ったこと。何も言うまい。
282:>>555.一般人にしては良かったと思うけどね。
290:>>270.いや~彼女は最初に掃除屋に出会ったのが悪かったね~あの戦闘が無ければもっといい戦いをしてたと僕は思うナ~
133:>>270.最初の一般人は死んだか…安らかに眠れ……(ノД`)・゜・。
777:>>270.良かったな……ヒリヒリまではしなかったが心は踊った。
282:>>270.そいや、今回は妨害どころか助けてたね。やっぱ外部からの妨害は許されない感じ?
270:>>282.そうですね…何せ一般人でしたからね。外部からの妨害で死なれては困ります。それと、外部からの妨害ですが、今回は一般人と言うことで特別に護衛をしましたが、プロの方々でしたら我々も妨害しますのでお気をつけてください。
777:>>270.いいね。ヒリヒリする。
555:>>270.こちらとしても問題はない。
111:>>270.そうでないと困る。
270:さて、お次はどなたが行きますか?こちらも準備は万端でございます。
111:>>270.俺が行く。情報を送った。好きにしろ。
270:>>111.ご参加ありがとうございます。では、こちらから最初で最後の支給品を送りましたので、説明書をよく読んでからご使用ください。
111:見ていろ。ここにいる何者でもない者たち。俺が必ずターゲットを殺し、賞金をもぎ取ってやる。
290:>>111.いいねいいね。真打登場って感じで上がってきた!!
282:111って前もゲームに参加して優勝手前までいってなかったっけ?前の365暗殺のこともあるし腕前は本物なんだろうね。期待。
270:>>111.情報 グララス・ロマネスク 殺し屋 年齢非公開
では、例によってライブ配信をします。グララス様ご武運を。
スマートフォンをポケットに入れたグララスはそのまま雑多の中で例の黒服を待った。
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帰路の車の中。一狼は運転する八雲へ質問する。
「八雲さんっていつベルトを使ったんですか?」
突拍子もない質問に八雲は運転に集中はしているものの質問の回答を考えることに脳のリソースを使った。
「……そうだね……ベルトはLWOを作ってすぐかな……いや、作る前か…な?…あの頃は、マリィのアレコレで時間の感覚は無かったな……」
「ローズマリーさんのアレコレ?」
「そう、彼女とであってLWOを創立するまでの期間でね。いや~大変だったよ。」
少し濁したような回答に一狼はこれ以上は聞かない方が良いかと次の質問をした。
「そうですか……ベルトを使っての戦闘でその殺したこともあるんですか?」
質問に対して八雲は少し考えた。そして一狼が気にしないように爽やかに答えた。
「あるとも。何度も何度も私が実行員だからね。」
「その時、どんな気持ちでしたか?」
そんな質問に八雲は先ほどよりも長く考え込み、しばらく二人の間に静寂が流れて、車のエンジンが車内に響く。そして、交差点を曲がったところで八雲は口を開いた。
「……何とも言えないな。いや、これは正確じゃないな……強いて言えば、これで私も人殺しになってしまったという感覚だな。」
「そう、ですか……」
確かに八雲とローズマリーはお互いを信頼し合っている視線をしている。いつも目で合図し、それをお互いに汲み取りあい、言葉を躱さずとも信頼しているのが分かる。八雲は、一狼がなぜ質問攻めをしているのだろうと考え、逆に一狼に質問をした。
「一狼くんはさっきの戦いどうだった?」
一狼は八雲の方をみてすぐにサイドミラーに映る自分と目を合わせて回答を考えた。考えた末に一狼は口を開いた。
「僕は……何も感じませんでした。」
「そっか……」
八雲は背筋に何か冷たいものを感じながらハンドルを握った。
続く。