人混みをかき分けるボロボロの月下はただ一点を見つめて歩き続ける。
「明星…いや、養殖型……」
その姿を見ていた周りの人たちは心配そうに彼女へ声をかけようともしたが、殺気と覇気に押されて全員が全員彼女の横を通り過ぎていった。
場所が変わり芽吹市の隣町の雑多の中ではゲーム参加者殺し屋グララス・ロマネスクがターゲットである一狼の位置を予測していた。
「ふむ…山、か……」
グララスはスマホを閉じると、タクシーを捕まえ芽吹市の方向へと向かった。
そして、八雲と一狼はグララスから逃げるため社用車で芽吹市を離れていた。運転をしながら緊張している一狼に八雲が話しかける。
「一狼くんは山と海どっちが好き?」
一狼は突然の質問に戸惑い考える。そして数分悩んだ結果一狼は口を開く。
「山ですかね……」
「じゃ、海かな……」
八雲はアクセルを踏みハンドルを切って芽吹で一番近い海へと向かった。一狼は困惑しながらも外の景色を見ながら不安を胸に海へと向かった。
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二時間後、八雲と一狼は海へと着く。曇りのためか海は濁ったような色をしておりあまり見栄えが良くなかった。八雲は広場に駐車すると一狼も降りるようにと助手席のドアを開けた。
「えっ…と……」
「ま、刺客が来るまではただの有給だと思って遊ぼうか。遊ぶって言っても散歩程度だがね……」
「刺客と遭遇するまでは有給ですか……いいですね。」
一狼の表情は明るくなり八雲と一緒に海辺を歩き回った。沈む夕焼けを見ながら一狼は八雲と再び車へと戻ってきた。
「どうだったかな?リフレッシュできたかい?」
「スッキリしました。次はLWOの皆で来たいです。」
「そうかい。それは良かった……さて、刺客が近くにいる……そして、車もやられた。」
一狼は首を傾げて八雲の方に近寄ると、車のタイヤの空気が全て抜かれており、車体が下がっていた。
「これ、いつ。」
「ん~……分からないね。ただ、先ほどからこちらを狙っている者が山にいるようだ。」
「なんで、そんな……」
「殺気かな?知らないが、山に違和感があるんだ。」
八雲は山の方を睨むとため息をついてスマホでローズマリーの使いに連絡を取った。
「……そうなんだ。うん、位置情報はわかるよね?スマホは置いて行くからよろしく頼むよ。」
八雲は通話を切り車内に頬り投げるとドアを閉めて車から離れた。
「さて、一狼くん。旅館に行こうか。」
「この辺って旅館あるんですか?」
「そうだね。ここから2㎞離れたところにあるよ。行こうか……それとも戦うかい?」
一狼は考えた後に山を指さした。
「戦います……これ以上仕事に支障をきたすわけにはいかないですから。」
八雲は一郎の顔を見て微笑むと足並みを揃えて山の方へ向かった。その様子を見たグララスはスコープを携えたライフルを下げて片づけながら所定の位置まで移動を始めた。
「海へ行ったのは予想外だったが、どうやら自ら死地へ来るみたいだな。」
余裕の笑みで移動をしているが、背後に殺気を感じた。八雲でも一狼のものでもない殺気。スコープだけを取り出しその殺気の根源を調べようと見ると数キロ先、スコープでギリギリ影をとらえられる範囲でその姿をとらえた。
「掃除屋……影虎だったか……なぜ、こちらに?いや、目的は俺じゃなくてターゲットか八雲のどちらか?どちらにせよ、あいつが来る前に決客をつける。」
スコープをしまいグララスは移動を急いだ。グララスが準備した罠は二人分。ターゲットである一狼と付き添いの八雲の二人分の罠である。そんな二人分の罠に3人目の月下がこの山に来るのなら月下にはその罠が作動しない。つまり月下をこの山に招くとグララスの命にも危険が及ぶのだ。前回の月下の戦闘動画を見ていたグララスは勝てないと判断し警戒していた。
「誤算ではないが、あの距離なら10分いや、5分で決着をつけないといけないな。」
林をかき分けてグララスは所定を目指した。
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山へ入った一狼と八雲は早速足を止める。
「どうしたんだい?」
「この匂い……火薬だと思います。この辺一帯に火薬の匂いがします。」
指先を見つめるが、何ら変哲のない緑に八雲は足元に手ごろな石を見つけそのまま石を蹴ってみる。すると石は何かに触れて転がっていった方向が小さな爆発を起こした。
「地雷か……ということはこの道は地雷だらけだと考えるのが必然だね。」
八雲が道を逸れて林へ入ろうとすると一狼が腕をつかみ制止した。
「八雲さん。この先から一番匂いがします。」
「どうしようか。」
一狼は何かを閃くとそっと一歩を先に踏み出していく。そして、八雲へ手を振り大丈夫なことを知らせる。
「僕の後についてきてください。」
八雲は一狼の後に続く。
「一狼くん、もしかしてこの先にも……」
「えぇ……たくさんあります。だから僕の踏んだところ以外絶対に踏まないでください。」
「承知した。」
だんだんと木々が生い茂ってくると太陽の光が遮られてくる。薄暗い道の中一狼は大きくいきを吐いた。
「この先からは匂いを感じません。大丈夫です。」
「そうか、よかった。」
八雲が安堵している一狼へ駆け寄り隣へ並ぼうとした時、八雲は何かを踏んだ。
「一狼くん。待ってくれ。何か踏んだ。」
一狼は止まった八雲へ近づくと薄っすらと火薬の匂いを鼻孔に感じた。
「八雲さん。すみません。まだ、あったみたいです。というよりこの先からは別の地雷が広がっているみたいです。」
一狼が申し訳なさそうにしていると八雲の肩に何かが当たりその体が後ろへ流れていった。
「八雲さん!!」
「一狼くん。私は大丈夫だ。刺客の弾道だけを伝える。南南西に約100メートルだ。行きたまえ。」
『
八雲は素早い動きで地雷が爆発する前に変態しそのまま転がった。一狼は八雲が無事だと確認すると八雲の指を指した方向へ視線を向けてベルトを装着したまま地雷の匂いをかぎ分けながら走り出す。たまに地雷を踏みながら駆け抜けていった。その様子を見ていた八雲は後ろから地雷の爆発音を聞き起き上がりながら戦闘態勢に入った。視線の先では月下が変態もせずに体を引きずりながら歩いてきていた。
「君は……」
「八雲藤四郎か……お前は後で乂る。今は養殖型が先だ。」
「そうか……彼はこの先にいる刺客と戦っているかもしれないな。」
「刺客か……地雷の多様性から見るにプロだな。そして、ディウスの匂いが増えている……その刺客とやらもディウスだな……養殖型を乂ったあとに乂る。」
月下は八雲とすれ違うとそのまま地雷を踏みながらも進んでいった。
「彼女は一体何者になったんだ?」
異様な殺気、狂気ともとれる執着。前回とは違う異常な体のタフさ。嗅覚まで鋭くなっていた。そんな異常に八雲は恐怖しながらも変態を解除して月下の踏んだところを歩いて一狼のところへむかった。
「これはまずいかもしれないが、彼をここで止めるには月下くんも必要だな。」