天が紅たなびく時間になる手前、夕日にかぶさり土煙が緑の真ん中から上がる。爆発の方向を見る八雲は急ぎその方向へと走る。滞留する土煙が晴れると拳を重ねた状態の一狼と月下が肩で息をしながら立っている。八雲はそんな二人に近づこうとしたが、ぶつかり合う殺気がその足を止める。二人は重ねた拳を離すと距離を取りながら拳を構える。今にも倒れそうな二人は、震える足を動かしながら互いに距離を詰める。お互いのリーチ内で二人はただ見つめ合う。まるで先に動いた方が死ぬぞと言わんばかりに。
先ほどよりもぶつかり合う殺気が強くなる。
八雲は、そんな二人の様子を見て瞳孔が大きく開き、夕日に重なる二人の影から小説のインスピレーションが湧いてくる。自分がいつ巻き込まれてもおかしくない状況。そんな状況なのに八雲の頭の中ではプロットがだんだんと組み上がっていった。
時間が止まったように、この場の誰も一言もワンムーブも起こさない。静かな時間が流れ、夕日がだんだんと傾いて空が透明になる。
青でも、赤でも、灰色でもない。白ですらない色。それがだんだんと藍色を帯びて来ると冷えた風が一閃。木々を揺らし、木の葉を巻き上げた。木の葉が落ちるその時、一狼が構えを解き、ゆるりと拳を月下の前に突き出した。月下はそれに合わせるように一狼と同じ拳を掲げてぶつけようとした。
一狼のゆったりとした拳と動きに合わせた月下の拳は再び合わさる。
双方の拳が合わさった瞬間、戦闘は一気にヒートアップする。
一狼はゆっくり上げている拳をすぐに引き、左フックを月下の顔面へ浴びせようとする。月下はその左フックを避ける体制を取り、上げていた手を引き同じ手でアッパーカットの体勢に入る。その際、ベルトの突起を限界を超えて押し込む。微々たるエネルギーがその手に溜る。一狼はその攻撃を全く防ごうとしない。月下は限界を振り切り頭をフル回転させる。
これは、ブラフか?
もしくは、カウンターをすでに終了させている?
まさか、私はもう倒れているのか?
あらゆることが頭の中に浮かび、眼前が一気にスローモーションになっていく。横目で一狼の拳がどこからも来ていないことを確認するとそのままアッパーカットを継続する。
一方、一狼は左フックをしながら、月下のアッパーカットをどう防ぐか考えていた。月下がごちゃごちゃと考え事をしていることを祈りながら一狼は月下に悟られないように一歩を引く準備をする。だが、月下のエネルギーが溜った拳が鼻下まで来ているのが見えこのまま避けることは不可能と判断し、引こうとしていた足を踏ん張り、左フックをやめるため、そして月下のアッパーカットをなるべく軽傷で抑えるため、上半身の力を抜き、月下にも分かるように足を大げさに後ろへ持っていく。
月下はその動きを認識し、すぐにでも拳の軌道を前に、一狼の顎の下まで持っていこうとするが、月下の拳は拳はすでに一狼の目と鼻の先まで来ていた。一狼は赤い閃光を瞳に映しながらそして、鼻先にしびれる痛みを感じながらも次の攻撃を準備しようと拳を固めるが、力が入らない。
──────まずい……これは、
視界もぼやけてきた……
うまく拳も作れない……
このままだと……僕、死ぬかもしれない……──────
──────避けられた……次の攻撃は、
まずいな…意識が遠のいてきた…
うまく動けない……
このままだと、私は反撃を喰らって死ぬ……──────
そんな、こと……
そんな、戯言……
「「そんなの……関係あるか!!」」
互いに最後の力を振り絞る。
拳を握り
足を踏ん張り
そして、互いに体制を立て直した。
月下はベルトに手をまわす。
一狼も同じくベルトに手を回す。
互いに突起を押し込み、限界を超えたエネルギーをお互いの手に、足に、充填する。
月下の拳が赤く光る。
一狼の足が赤く光る。
一狼は月下の拳と真向に向き合う。
逆も然り。
月下は一狼の足へ真向に拳を伸ばす。
三度、二人の閃光はぶつかり合った。
続く。