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№4
№4
河鹿虫圭
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年05月02日
公開日
6万字
連載中
体長18m以上、特殊な能力を持ち人間に甚大な被害を出す生物を専門家は特撮番組から引用して「怪人」「怪獣」と呼んだ。 これは、絶望した中年が再び立ち上がるための物語である。 カタラレヌ・クロニクルシリーズ第5弾(仮)(予定)

EMG1:怪獣の国

体長18m以上、特殊な能力を持ち人間に甚大な被害を出す生物を専門家は特撮番組から引用して「怪獣」と呼んだ。


怪獣大国、日本。毎年大なり小なり怪獣、怪人の被害がどこかしらで出ている国だ。地震に次ぐ災害が怪獣災害であるほど怪獣や怪人が出没している。歴史からも日本は怪獣が成長するのに適している環境のようで昔から「怪獣狩り」と言われて怪獣を狩る文化もある。

しかし昨今、余りにも怪獣の被害が多い。戦時世代の100歳の人に聞いても怪獣や怪人の被害が増えたと語っている。増える怪獣被害に政府はついに、消防、警察、自衛隊を一つにした。組織名は怪獣災害対策機関を英語にしてMDCAと命名した。


────────────


燃える街の中。見渡すとかわいい部下達が屍と化していた。俺はそんな部下へ手を伸ばすも指で触れた瞬間、体はあっけなく崩れ灰となって黒い空へと舞い上がっていった。悲しもうと瞳に涙を溜めた瞬間、背中に悪寒が走る。恐る恐る振り向くとそこにはこちらを見つめたまま微笑んでいる同僚がいた。


「飯塚……なんで…お前が…」


「驚いただろう?これ、すっごくいい感じなんだ……」


同僚は肩甲骨あたりから突起を生やして腕に巻き付けていき武器にした。それを俺に向けて突き出し、同僚は微笑んだまま近づいてきた。


「さぁ、君も死んでくれ……六代むつしろ……」


同僚が振りかぶったところで俺の視界は真っ暗になった。そのまま勢いよく体を起こすと額に滝のような汗をかいており背中までぐっしょりと濡れていた。


「まただ……」


顔を抑え俺は敷布団をたたんでほっぽりだす。月に一度はこんな夢を見る。いや、「夢で事実を繰り返し認識させられている。」が正しいかもしれない。そう、夢なのだが確実にあった出来事なのだ。紛れもなく、記憶違いもない。間違いない事実だ。そんな事実をあたかも悪夢の様に夢に見るのは俺がその事実から目を背けたいからだ。


「来年で三十路だってのに…情けねぇ……」


時計に目をやり、作業着に着替える。昔はこの作業着がMDCAの制服だったなんて信じられないな…朝食を簡単に済ませて玄関のドアノブを捻り外へ一歩を踏み出した。六月も後半と言うこともあってか長袖ではやはり蒸し暑く不快になる。ガレージを開けて刈込ハサミなどの選定道具を停めてある軽トラックの荷台に詰め込みカバーをして運転席へ乗り込みエンジンを始動する。



「さて、今日も頑張るか…」


などと言って気持ちを奮起させる。アクセルを踏み、いつもの道をいつも通りに走り、現場へと向かう。それが元MDCAの俺、六代むつしろ伊吹いぶきの今の日常だ。


────────────


日本のTOKIYOの地下。MDCA本部にて、今日も各地で怪獣、怪人が発生していないか隊員たちは瞬きを若干我慢しながら画面を監視している。EZO、TOUHOKU、KANTOU、TYUBU、KINKI、TYUGOKU、SIKOKU、TYUSYU、OKINAWAのブロックを細かく見ていた。数分が経過するとKANTOUブロックのTIBA、SAITAMA辺りが赤く染まった。


「緊急!関東ブロック千葉、埼玉付近で怪獣が発生!」


その声と同時に部屋内が慌ただしく動き出し、本部内に警報が鳴り響いた。発生を確認した隊員は上司へ状況を報告しながら手を動かす。


「レベルTです!警報要請を政府に送信完了!」


隊員の声を聞いた上司は、静かにうなずき実働隊へ連絡をする。


「了解。こちらからは第十・三じゅうさん隊へ要請する。常時報告しながら指示をくれ。」


「了解。」


実働部隊の大隊長は各体長へ報告後、第十・三じゅうさん隊 隊長へ連絡する。


「第十・三じゅうさん隊 。行けるか?」


「もう準備している。いつでも行ける。」


「よし、位置情報を送信した。確認しながら対処してくれ。」


「了解。」


白髪をたなびかせて第十・三じゅうさん隊 隊長氷室ひむろ アンナは腰に刀を携えて、隊員を引き連れて出撃した。


────────────


関東千葉、埼玉付近にて体長30mの怪獣がビルを破壊していた。深緑色の体色にゴツゴツとした質感の肌。破壊するビルを見つめる瞳は赤く光っている。怪獣は辺りの建物の窓が割れるくらいの咆哮をして逃げ惑う人々の動きを止める。倒れる人もいる中、怪獣は再び街を壊し始める。その足元に全力で走っている親子が見える。母親は足をくじいたのかびっこを引きながら娘に全力で手を引かれている。



「はぁ…はぁ…」


怪獣が一歩を踏むと地震のように地面が揺れて親子は倒れてしまう。娘は頑張って母親の手を引き逃げようとするが、母親はその手を離す。


「お母さん!」


「行って!振り返らないで!行って!」


大声で叫ぶと娘は体をびくりと震わせて涙目になる。母親はそんな娘を安心させるように笑顔を作る。


「お母さんは大丈夫だから…行って…後で絶対に会えるから……」


娘はあふれる涙を拭いうなずいて踵を返した。母親はその背中を見て安心しながら必死で立ち上がろうとする。だが右足が重く動かない。力も入らず動かすこともできない。母親は涙を流して死を覚悟する。


「ごめんね……」


つぶやいた瞬間、母親の体は軽くなる。目を開けてみると、飛び込んできたのはMDCAの文字。


「大丈夫でしたか?」


声の方へ目を向けると白くたなびく髪が目に入る。陽光に照らされ煌めく美しい髪。その髪の持ち主は母親と目を合わせるとニコリと微笑む。


「MDCAです。もう安心してください。我々がここに来たからには、これ以上、街は破壊させない。」


MDCA第十・三じゅうさん隊 隊長 氷室ひむろ アンナは母親を抱えながら安全な場所までビルの谷を翔けるように跳躍する。安全地帯まで来ると母親を降ろして救急隊へ引き渡す。


「よろしくたのむ。」


「はい!お気をつけて!」


救急隊員が敬礼するのを見ずに氷室は先ほどの場所まで再びビルの谷を翔けた。怪獣の方まで戻ってくると、被害は拡大していた。氷室は腰に携えた刀を強く握り、藍色の瞳を輝かせて抜刀する。


「対怪獣殲滅兵器:氷柱つらら……抜刀!」


従来の兵器はコストも準備時間もかかるため、政府はMDCAの隊員に特例で兵器の所持を許可している。それが「対怪獣殲滅兵器」である。その中でも人知の力を超えている隊長各にはより強度が高い兵器を特注して渡している。対怪獣殲滅兵器:氷柱つららは氷室専用の殲滅兵器で刀の形をしている。刃が振動し触れたものを細胞単位で切ることが可能な兵器だ。氷室は刃を怪獣の足へ押し付ける。振動した刃は怪獣の皮膚を切りつけるが内部までは届かない。


「くっ!」


他の隊員も氷室を援護するように大砲型の兵器で援護するが、怪獣の皮膚には傷一つつかない。幾度目かの砲撃に怪獣は再び咆哮を上げて周囲が振動する。氷室以外の隊員はその咆哮に眩暈を覚えうずくまる。氷室はその咆哮にもひるまず再び抜刀をしようと構える。そのまま跳躍し怪獣の腹部まで来たその時…


「パパぁぁぁ!!」


怪獣の足元に子供が見えた。氷室はすぐに抜刀の構えを解き、子供を助けようと怪獣の足元へと飛び込む。子供は氷室に抱えられると氷室の袖をぎゅっと握り氷室はそれに答えるように子供を強く抱き足元から出ようとしたが、その直後氷室の足に瓦礫が振ってくる。氷室は子供を抱いたまま走れるかどうかを問う。だが、子供は足の怪我を見せてすぐに走れないことを理解し、どうするか悩んだが怪獣の足が頭上を通るのを見て思考を巡らせて刀を足に当てようと息を飲んだ。


「片足くらい私なら……」


怪獣の足が氷室を踏み詰めようと迫る中、氷室は自らの足を切断…できなかった。


「あぁ…こんな時に……」


氷室は絶望のまま子供をかばおうと丸まる。思い切り目を閉じ痛みを待つ。だが、一向に痛みが来ない。ゆっくりと目を開けて頭上を見てみるとそこには怪獣の足を受け止める大きく白い背中が見えた。


「白い怪人?」


白い怪人は氷室を無言で見つめると、瓦礫を蹴り飛ばし顎で逃げるように仕向けた。氷室は無言でうなずきその場から離脱した。


『全隊員へ通告。十・三隊が向かった怪獣現場に白い悪魔が現れた。繰り返す……』


白い悪魔と聞いて氷室は先ほどの怪人の方を見つめた。


「あれが、白い悪魔……」


怪獣の足を受け止めていた白い悪魔と呼ばれた怪人はそのまま力任せに怪獣の足を押し上げて怪獣をひっくり返した。


EMG1:怪獣の国


次回 EMG2:白い悪魔

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