『ワシの命を半分やる。だからお主の体を使わせろ。』
声とともに目が覚めると目の前に美しい白龍がこちらを見おろしていた。金色の瞳に吸い込まれそうになりながら、俺は首を横に振る。
「なぜだ…このままではお主死ぬぞ?」
「俺の身体は俺だけのモノだ。使うんじゃなくて共有にしろ。」
「それは無理じゃ。共有ではあの妖紛いのバケモノには勝てない。」
神がはっきりと言った。勝てないと…
バカか?
お前が諦めたらダメだろう?
俺は床を叩き神を黙らせる。
「お前一人じゃ勝てねぇよ。だから、俺と強力しろって言ってんだ!」
白龍神は黙り込み考える。そして、何か覚悟が決まった様にうなずき俺と目を合わせた。
「先ほども言ったが、共有は無理じゃ。だから、お主が戦え。ワシの力を分けてお主に預ける。お主はワシから、力と魂をもらう。これでどうだ。」
「俺はあんたに何をすればいい?」
白龍神は驚いたように口詰まる。そりゃそうだろ。なんで俺だけが一方的に施されなきゃならん。
「もう一度聞く。俺は、あんたに貸せばいい?」
白龍神はニコリと笑いながら光り始めた。
「かっかっかっ!面白のう~お主は体何もワシに返さんでいいし、何もしなくていい。ただ、ワシの力で人々を救ってくれ。」
俺は首を縦に振る。白龍神は俺の様子に感心した様にうなずき俺の体に入ってきた。体が光に包まれて暖かくなってくる。再び光に包まれて俺は現実へと戻ってきた。目の前には疲れ切った彼岸花男が肩で息をしており、俺を睨んでいた。
「まだ生きていたのか……さっきの神とやらは死んだようだね。」
「いや、生きてる。俺の中にあいつはいる。」
「ふん、人間如きが粋がるな。さっさと死ね。」
またあの黒い塊を作り出し、俺に向かって投げてきた。そういえば、白龍神に力の使い方を聞いていなかった。
『成りたいものや武器になるものを想像しろ。』
白龍神の声が頭の中に響いてくる。でも、想像しろって言っても何を想像していいか……
『お主の頭の中には何がある?』
白龍神の声にふと、昔よく見ていたヒーロー番組を思い出した。ベルトを腰に巻いて変身ポーズを取って姿を変えて怪人をキックで倒す仮面のヒーローだ。曖昧な形を思い出し想像する。すると、俺の腰辺りに熱が帯び始める。目を開けてみるとそこには番組に出てきたようなベルトが腰に巻かれていた。
「確か…変身ポーズは……こう!」
曖昧に体を動かしていると、彼岸花男は鼻で嗤い黒い塊を投げてきた。
「
黒い塊は光のカーテンに包まれて打ち消される。そしてカーテンの内側で俺の体には変化が訪れていた。身体が大きく太くなりまるでさっきの白龍のような姿になった。カーテンを振り払うと視界が開けて彼岸花男と目が合った。
「人間が理性を保ったまま
「
黒い塊を投げつけてくるが俺はそれを拳で弾き飛ばしながら、彼岸花男と距離を詰める。そして、拳が届く間合いに着き俺は固めた拳を彼岸花男の顔面に叩きつけた。
「くらえ!」
彼岸花男の顔面が歪み下半身のツタが引っ込み元の状態へ戻り地面へと投げ出された。
「こんな、神と契約しただけの人間にぃぃ!」
彼岸花男はそういうと顔を抑えながら、無数の小さな黒い塊を発生させる。
「許さん。この借りは必ず返す!」
彼岸花男は塊を操作して俺を狙う。俺はそれを全部叩き落とし次の攻撃に備えて構えたが、彼岸花男はすでに消えてた。
『どうやら、逃げたようじゃ。』
「そうか……」
俺は変身を解き、その場でへたり込む。身体重い。初めて戦闘した時みたいに身体が重い。俺はそのままフラフラと立ち上がりトラックまで行こうと山道を歩き、神社の前まで来た。
「そうだ。あの人は……」
神社の前にはいなかったが心配だ。確認しに行こう。階段を上がりそのまま俺の視界はだんだんと暗くなっていった。階段の角が痛い。だが、もう歩けない……
「て…さい……起きて……さい……起きてください!」
女性の声で目が覚めた。勢いよく起き上がると昨日の女性がこちらを心配そうに見つめていた。
「良かった……起きた……」
「いやこっちのセリフだな……あの後、体に何か異変はありませんでしたか?」
「いえ、私は何も…それよりももう一人の方は……」
俺は、森でのことを話そうと思ったが、どうしたものか…
「あの……」
「いや、実は、森に入っていたのはいいが見失ったみたいで……」
「そうですか……白龍神様。あって話をしてみたかったのですが……」
「あの人が神と言うことは信じるんだ……」
「はい。我が神社が祀っている白龍神様は嘘を嫌い清廉潔白の人間を好むので……」
「へぇ~そうなんだ…」
『うるさい。こちらを見るな。』
「まぁ、とりあえず何事も無くて良かった……それじゃ俺はこれで…」
「あ、まだ疲れいるのでは……」
「大丈夫です。眠りしたら元気出たので……では……」
俺は神社を出て、朝日が昇り始めている山を降りトラックで自宅へ帰った。
自宅へ着き昼ご飯を食べようと冷蔵庫の残り物で野菜炒めを作り食べる。今日はもう動けないなと思いながら布団を敷き眠りに着こうとしたが、なんだか身体がだるい。熱もないし、病気ではなさそうだ。
『ワシの力のせいじゃな。』
「どういうことだよ。」
『ワシはあの神社の祈祷の力で腹を満たしておる。だが、昨日のあの彼岸花の妖紛いのせいでその力が薄れた。だから貴様は疲れも取れんし腹も満たされん。』
確かに、さっき食べたばかりなのに何か腹が満たされない。
「マジか……」
『手頃な方法としてはあの神社に住むか、後は、ワシのことを様づけで呼んでも敬ったことにして力も回復するだろう。』
「神社に住むのは無理だが、働くことはできる。それでもいいか?白龍様」
『……若干バカにした様に聞こえたがまぁいいだろう……そうじゃな。向こうで働いても良いだろう。一定時間おれば回復も進むだろうし……』
「よし来た。俺は、MDCA時代にいろんな資格も取ったんだ。なにか役に立つ資格の一つや二つあるだろ。」
俺はすぐに体を起こしてトラックに乗り込んだ。
『貴様、職につくのは良いが、あのアヤカシマガイはどうする』
「そら、倒すに決まってますよ。何か、予知能力とか、相手の気を探れるとかないんです?」
『それくらいならまぁ、できなくもない。』
「じゃ、大丈夫っすね。あの境内に入れる職は庭師とかか?」
俺ははそのまま近くの職業案内所まで走らせた。
そこから俺は現在の伯朧神社の庭師になった。
EMG4:アヤカシマガイ
次回 EMG5:氷のように冷たい君