あの日を思い出す。氷のように冷たいはずなのに、周りは赤く染まっていたあの日。私は両親を怪人に殺されてその恨みから復讐をするためにMDCAに入隊した。最初は訓練にもついて行けず、周りからバカにされるばかりだった。入隊して二年半が過ぎるころ、同じ時期に入隊した皆は訓練に耐えられず次々に辞めていき、私だけが残った。
「氷室アンナ。君は…そうだな、伸びしろも含めて一・三隊に配属する。そこでじっくりとしごかれるといい。」
MDCAにある1から13の隊。その中でも奇人変人が集まるのが一・三隊だ。奇人変人が集まってはいるものの実力はMDCAで五本の指に入る隊だ。隊長 六代伊吹さんは正義感あふれる人でMDCAで一番、怪獣や怪人を倒している人だった。
「ん?強さの秘訣?心当たりは無いなぁ……あ、ただ一つ言えることは常に人の笑顔を考えることかな?」
最初は何を言っているんだと呆れたが、私は今も隊長のこの考えを受け継いでいる。
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巷で噂の白い悪魔。彼?彼女?まぁ、怪人に性別はないか。あの怪人が気になっている。なぜ、人を助けて自分の同族を殺すのか…実際に出会ってみると確かにおかしな怪人だと思った。
「一体、何が目的なんだ。」
これまでに白い悪魔が観測された事案を調べるために私は資料室に入り浸っていた。
「氷室隊長、まぁた白い悪魔について調べてんすか~?」
「あぁ、杉山くんか…そうだ。白い悪魔の事案を調べてまとめている。実際に見てもやはり理解できない。」
「怪人が人を助ける……ね~確かにおかしなことっスね~…もしかしてこの世から怪人や怪獣がいなくなったら人間を独り占めする気なんすかね~」
「それならば、早急にあの怪人のことを調べ上げて倒さないとな。」
「俺も手伝いますよ。」
「いや、大丈夫だ。君は訓練をサボりたいだけだろう?早く戻り給え。」
杉山くんは「ちぇ、バレてぇら」とつぶやき、資料室から出ていった。杉山 アカリ。彼もなかなかの変人で対怪獣殲滅兵器をまじかで見るためだけにここに入隊したそうだ。確かに兵器の扱いは隊の名でもMDCA内でも随一だ。ただサボり癖があり自分の興味のないことには基本無気力だ。
「真面目に訓練しれくれればよい人材なんだがな…」
ページをめくると丁度一・三隊元隊長の伊吹さんの新聞記事が出てきた。写真には大きく伊吹さんはボロボロの姿のまま倒れた怪獣の亡骸の前で笑顔で敬礼をしていた。
「伊吹さん…」
なぜ、MDCAを辞めてしまったのだろうか…あんなの誰も伊吹さんを責めないのに。記事は丁度「あの事件」が起こる前の時期のものだった。ページをめくっていくと「あの事件」の記事が出てきた。
『TOKIYO火の海に』
私は記事を見なかったことにして次のページをめくる。そこからは白い悪魔の記事が多くなっていった。伊吹さんが脱退して数ヶ月後の記事はほぼ白い悪魔の記事だ。
「まさか…な。」
伊吹さん=白い悪魔の考えが頭をよぎったが、すぐに振りほどく。だが、あの人なら何らかのトラブルに首を突っ込んでしまって怪人になったとしても人を助けるんだろうな…私は時計を見て訓練終了時間が迫っているのを見て慌てて部屋を出た。隊員の訓練の様子を確認するため演習場へ向かう。一・三隊は今も変わらず奇人変人が回されてくる。杉山くん以外にもやはり変人揃いで私は頭を悩ませている。
今もほら、演習そっちのけで武器を分解して遊んでいる杉山くんと訓練に関係ない筋トレをしている吉田くん。木の上で寝ている
「まてまて、目が合ったのにやってる風をするのは遅いだろう。」
「い、いや、何言ってんですか?俺らちゃんと演習してましたよ?」
「嘘が下手なのに嘘をつこうとするな。」
「へい。」
杉山くんは謝り私の後ろをついてくる。次は吉田くんだ。
「吉田くん。そんな風に私は教えた覚えはないぞ?」
「い、いえ、これは……」
「言葉に詰まるなら嘘はつこうとするもんじゃあない。」
「レンジャー……」
そして、私がため息を吐いても見向きもしなかった骸くん。私は前蹴りで思い切り木の幹を揺らし骸くんを落とした。落下して目が覚めた骸くんは私と目が合うなり慌てて準備を始めようとしたが、遅い遅い。
「今日の演習は終わりだ。今から準備を始めようにも君は演習用の道具を持ってきてないだろう。」
「……すみません。」
「いや、別に怒っているわけじゃないんだ。君が重度の睡眠障害を患っているのは知ってるし演習でやる気があるのも知っている。だが、演習は真面目に参加してくれないと私は家内しくなってしまう。」
そして、最後に貝塚君。武器を持ちずっと低い姿勢で何かを怪人にして銃を撃っている。背中を軽く叩くと私と目を合わせて驚いた。
「驚かすつもりはなかったんだ。すまないね。ただ、今日の演習は終わりだから連れ戻しに来たんだ。」
貝塚くんは無言で首を縦に振ると片づけを始めた。
「さて、皆、自分の部屋に戻ってくれ。」
各々がとぼとぼと歩き部屋へ戻っていくのを確認した私も自室へと戻った。
「みんな、強いんだがね…困ったな……」
寮へつながる廊下を歩いていると四隊 隊長で元一・三隊の副隊長 佐伯さんが反対から歩いてきた。
「佐伯さん。お久しぶりです。」
「やぁ、頑張ってるかい?氷室隊長。」
「やめてください。実力はそこそこなんですから…」
「ここでそこそこの実力があればバケモノ級も同然だ。それよりも随分と悩んでいるようだが?」
私は隊員のことを佐伯さんに話す。
「みんな実力はあるんですけど、演習や訓練に真面目に取り組んでくれなくて……」
「ふふっ…昔の伊吹を見ているみたいだ。」
「伊吹さんもこんな感じで私たちのために頭を悩ませていたんですね……」
「そうだな。ま、俺は伊吹に協力してたからそこまで頭は悩ませていなかったがな……」
「やはり上官に言って誰か普通の人を副隊長にして私の負担を……」
「そうだな。伝えてみるといい。俺からもお願いしてみるよ。」
「ありがとうございます。では」
「あぁ、お疲れ。」
会話を済ませて私は自室へ入った。
「はぁ、お風呂に入ろう……」
EMG5:氷のように冷たい君
次回 EMG6:一・三隊
隊長
若くして奇人変人が集まる一・三隊の隊長を任された苦労人。元から一・三隊の隊員であったこともあり上官のノリと勢いで決められた。
隊員
対怪獣対怪獣殲滅兵器マニアの変人。基本対怪獣殲滅兵器以外のことはめんどくさくてやりたくない性分。しかしやはりマニア。対怪獣殲滅兵器の扱いはMDCAの中でもトップクラスである。
三度の飯より筋トレが好き(もちろん朝昼晩とちゃんとご飯は食べてるぞ!)氷室が目を放しているとすぐに筋トレを始める。本人曰く、訓練の最中にも筋肉が落ちているようで怖いとのこと。戦闘面では肉体を使うことが多く。3人対怪獣殲滅兵器を一人で扱える筋力がある。
ナルコレプシーのせいで日中によくうつらうつらとしている少女。そのせいで無気力気味で目の下には常にクマがある。MDCA内の病院に通院して状態はかなり回復してきているが日中は時々眠くなるようだ。射撃を得意としており氷室曰く、杉山を抜いたMDCA内でトップの腕とのこと。
妄想癖のある無口な少女。頭の中で常にいろんな妄想をしており、訓練や演習に真面目に取り組んでいるかと思いきや突然関係のない動きを始めてそこで初めて妄想の敵と戦っていることがわかる。日頃から妄想をしているおかげか戦闘では慌てた様子を見たことがない。無口なのは恥ずかしがり屋で自分の声があまり好きではないから。ちなみに、声は見た目とは裏腹に可愛らしい(氷室談)