中学に上がって私は変わった。突然襲ってくる眠気に朝から頭痛が襲ってくる毎日。授業もまともに聞くことができず親にも先生にも同級生にも奇異の目を向けられる。そんな私のこの眠気はつい最近になって「ナルコレプシー」という病気と診断された。現在は治療してもらっているが、私は人生の半分をすでに諦めてる。もし完治したとしても親からも見放されてるし学校でも交友関係もない私はこの世に生きている資格なんて無い。
目が覚める。確か作戦の真っ只中だったような…と体を起こすと自室のベッドの上だった。
あぁ、また寝ちゃってたんだ。恐らく狙撃の合図が通信できていたが私は目覚めず、補助のイオリちゃんがやってくれたんだと自室を出る。外はまだ夕方で廊下には夕焼けが差し込んで赤くなっている。そのまま歩き自隊の待機室へ向かい、皆いるか顔を出してみる。スライドドアが自動で開くと隊の皆が私に視線を集めた。
「やぁ、起きたかい。骸くん。」
氷室隊長は優しく私に呼びかける。他のメンバーも何も言わずに私の席を空ける。
「あ、あの、す、すみませんでした。」
頭を下げると氷室隊長は立ち上がって私に近づいて肩に手を置く。
「気にすることはない。怪人は倒せたんだ。それに謝るのではなくて貝塚くんにお礼を言うと言い、その方が貝塚くんも嬉しいだろう。」
イオリちゃんは相変わらず無口だが無言で首を縦に何度も振っている。
「あ、ありがとう。イオリちゃん」
その言葉にイオリちゃんは嬉しそうな表情を浮かべて椅子の下で足をプラプラとさせている。私はそのまま空いた席に座って会議の続きを聞く。
「骸どの。今度僕と筋トレしましょう。筋トレしていっぱい疲れたらよく眠れますよ。」
「それはいい考えだ。今度やってみるといい。」
そんな和気あいあいとした空気の中に納得いかないと言わんばかりの人物が一人いた。私にいたずらしようとしていた杉山さんだ。空気を察したのか氷室隊長は杉山に話しかけた。
「何か不満気な様子だな杉山くん。」
「いいえ~?べっつに~?ただ、今回の作戦、骸ちゃんが狙撃できる状態だったらもう少しスマートにできてたと思っただけですけど~?」
確かにそうだ。私が起きれいればもっと作戦はうまくいったかもしれない。もちろんこれは病気のせいだなんてこの人も分かっているだろう。でもこの人の中ではやはりどこか納得しがたいところがあるみたいだ。だが、氷室隊長はそんな杉山さんに優しく諭すように言う。
「確かにそうだね。今回彼女が眠っていた影響でもしかしたら被害が拡大していたかも知れない。でも、杉山くんも彼女が重度の睡眠障害を患っていることは知っているだろう?それを納得もしている。」
不満そうな表情のまま杉山さんは首を縦に振る。
「だから、彼女の病状が今よりも良くなるまでは待ってくれないか?私も何とかできるようにするから。」
杉山さんは無言で立ち上がり会議を後にしようとする。
「どこに?」
「いえ、ちょっとお手洗いに。」
そのままドアが閉まると氷室隊長はため息を吐きながら会議を再開させた。もちろん杉山さんは会議が終わるまで戻ってはこなかった。
「気にすることはない。なぜなら、彼は誰よりも他人を理解したいと考えている男だからね。」
そうなのかな。私には今まで私を遠ざけてきた人達と何ら変わらない様に見えるけど。部屋を出ようとした時、隊長は忘れていたことを思い出したように言い放った。
「そうだ明日我々は一応、全員非番だ。だが、各自外出する際には服の下に隊服を着て武器は携帯しておくように。以上。これで本当に会議終了だ。解散。」
私が部屋から出ようとしたときにイオリちゃんが近づいてくる。手にはスマホが握られいて、画面にはプラネタリウムの部屋の写真が載っていた。
「ここに行きたいの?」
イオリちゃんはうなずく。
「私と?」
イオリちゃんはさらにうなずく。
「二人で?」
イオリちゃんはさらに早く力強くうなずく。
「大丈夫かな。私途中で寝ちゃうかもしれないけど。」
イオリちゃんは、それがどうしたの?と言わんばかりに首を傾げて、私を見つめる。
「それじゃ、何時に集合にする?」
イオリちゃんは首を横に振って自分の胸に拳をポンと当てる。
「もしかして、イオリちゃんが起こしに来てくれるの?」
イオリちゃんは元気よく笑顔で首を縦に振った。
「分かった。明日一緒に行こう。」
イオリちゃんが部屋を出ると吉田さんと氷室隊長は私に近寄ってきてイオリちゃんのことを話し始めた。
「貝塚くんの思っていることが分かるのかい?」
「はい。何となくですけど…」
「骸ちゃんの凄いところだね。僕や隊長はあまり人の気持ちをくみ取れないから凄いと思うよ。」
そうなのかな…イオリちゃんほど分かりやすい無口な子はあんまりいないと思うけど。
「そ、それじゃ、私もう行きますね。」
「明日、楽しんで来てね~」
「しっかり休むといい。」
私は部屋を出て自室へ戻った。
EMG7:こんな私なんて
次回 EMG8:こんな私だからこそ