「六代さん遅いです。」
雑多の中、六代 伊吹は雇い主の巫女
「いや~すみません…休みの日はもっぱら家でダラダラと過ごしているもんで……」
「それにしても遅いです。時間も時間なのでお昼はプラネタリウムが終わってからでいいですか?」
「あ~……そうですね……お昼はプラネタリウムが終わってからにしましょうか……」
六代の残念そうな顔を見た桜子は呆れながら、六代の手を引いて急かすように歩く。
発端は前日に遡る。いつも通り商店街で買い出しをしていた桜子はくじ引きをして見事二等のプラネタリウムのペアチケットを当てた。行く相手もいない桜子は誰かに渡そうと商店街のお得意さん達に聞いて回ったがプラネタリウム事態に興味がないのか皆予定があるとのこと。悩んだ末に雇っている庭師の六代へ話が回ってきて今に至る。
「ほらほら、早く来てください。」
「ちょ、焦らない焦らない。時間はまだあるんだから。」
聞く耳を持たない桜子はいそいそとプラネタリウムへ引っ張っていく。桜子は内心誰かと出かけることに楽しさが湧いてきてはしゃいでいたのだ。六代はこんなおじさんと一緒で何が楽しいのかと疑問に思いながらもこちらも意外とはしゃいでいたりする。
──────
「つ、着いたね。イオリちゃん。」
骸の呼びかけに貝塚イオリはコクリとうなずく。骸が握っているチケットを係の人に見せて二人はプラネタリウムの会場へ入っていった。
「イオリちゃん。プラネタリウムの後はご飯にする?」
貝塚は元気よくうなずき骸の腕に抱き着く。そんな貝塚を見て骸は微笑みながら少し眠たい目をこすりながら会場の席に着く。隣にはカップル座り女性の方が何やら男性に怒っている様に見えた。
『カップルか…素敵だな…』
骸の視界は暗くなりそこで記憶はプツリと切れた。約一時間後骸は貝塚に肩を叩かれて優しく起こされた。骸ははっとして起き上がり辺りを見渡す。お客がだんだんと散らばっていくのを見て骸はやってしまったと顔を覆った。貝塚に袖を引っ張られて外へ出る。
「ごめんね。イオリちゃん…私また……」
貝塚は首を横に振って大丈夫だよと目で呼びかける。骸もそれを察して安心する。
「それじゃ、お昼行こっか……」
貝塚が元気よくうなずくと同時に、店内の電気が一斉に消えて暗くなった。そして、数分して店内アナウンスが流れる。非常用電源か定かではないが途切れ途切れに係の声が響いた。
『本日も……誠にありがとうございます。店内はただいま……近くに発生した怪獣の影響により一時停電状態になっておりお客様には多大なるご迷惑をおかけしております……つきましては……』
店内のアナウンスを聞いた二人はすぐさま走り出して店の最上階へ出る。骸はカバンに閉まっているライフルのスコープを取り出して辺りを見まわす。そして骸は近くの鉄塔に怪獣を発見する。
「見つけた。一時の方向。」
貝塚は骸の指先を追って怪獣を確認する。セミのような見た目だが、その大きさは全長18m前後と大きくグロテスクな感じになっている。顔を引きつらせる骸に貝塚は手を握って目を合わせた。
「そ、そうだね…行こう。」
貝塚は首を横に振ってジッと骸を見つめる。
「もしかして、イオリちゃんが近接攻撃をして私がライフルで援護するってこと?」
貝塚は力強くうなずき服を脱ぎ下に着ている戦闘服になる。骸も怯えながらも戦闘服に着替えてライフルの準備をする。
「ほ、本当にやるの?一応、隊の皆にも連絡した方が……」
言い切る前に貝塚は武器を構えて怪獣の方へ向かっていってしまった。
「そんな…私、イオリちゃんがいないと……」
弱気な骸の脳裏に先ほどの力強くうなずく貝塚が浮かぶ。
「私だって……」
よしと気合を入れて骸はライフルを準備しスコープを覗いた。貝塚は怪獣のところへ着くと一発怪獣の背中に斬撃を入れる。すると、怪獣は大きなセミのような声で騒ぎ出す。貝塚は至近距離でその音を聞いたため一瞬失神して怪獣の位置から地面に向かって落ちていった。
「イオリちゃん……!」
骸は慌てて引き金に指を回す。正確に怪獣の音を発している器官を探し目星を付けて狙う。だが、セミの声が響いているというのに、骸の瞼は重くなっていった。
「う、そこんな、時、に…」
ずっと続くセミのような声に骸はだんだん眠たくなっていきやがて瞼を閉じきってしまった。
『あぁ……やっぱり私ってダメなんだ……』
眠りの最中、骸はそんなことを思いながら眠りへ着いた。
骸は夢を見る。まだ一・三隊に入りたての頃、貝塚と訓練終わりに他愛のない話をしていてふと気になったことを聞いた時のこと。
「ねぇ、イオリちゃん。なんで私なんかと友達になってくれたの?」
貝塚は首を横に振って悲しそうに見つめる。まるで、「そんないい方はしないで」と言わんばかりに。骸は少し訂正をして再度聞いた。
「なんで、友達になってくれたの?」
貝塚は、耳を貸してとジェスチャーをして骸の耳に問の答えを発する。
───私のことを他の人と同じように扱ってくれたから
そんなか細いながらも強い声が
今、骸の耳に響く。
──────
私は私の声が嫌いだ。
アニメのぶりっ子が出す声みたいだと言われて、私はその日から声を出さなくなった。家でも極力話さずに過ごしていた。そんな私を見かねた両親は強い子に育ってほしいとMDCA無理ヤシ入隊させた。
そこでも皆私の声を変だと言って笑いものにする。
私の世界には誰もいない。
そう思った時から私は自分の世界に引きこもるようになった。そして、一・三隊へ配属されると不思議と世界が変わった。
私の声を聞いても何も言わない氷室隊長。
「ん?声?別に私が聞き取れれば何の問題もない。変か?別に何とも。まぁ、強いて言うなら聞きやすくていい声だと思う。」
からかってくるけど声のことは何も言わない杉山さん
「変な声だとは思うけど、世の中億単位で人がいるんだからそんな声の人がいてもいいじゃない?気にしてるなら何も言わない。」
初めて声をほめてくれた吉田さん。
「良い声だと思います。愛らしくて小鳥みたいな声ですね。」
そして、友達のカバネちゃん。
「かわいい声だね。声優さんみたい。」
だから、私は、信じる。
「カバネちゃんが起きて必ず逆転の一発を撃つって……」
──────
怪獣は一通り鳴き終わると鉄塔から降りて自分を攻撃した者を探し始める。貝塚は意識を取り戻し怪獣へまた斬撃を当てる。怪獣は貝塚の姿を把握して貝塚を踏みつけようと足を動かす。貝塚はその踏みつけ攻撃を避けて斬撃を当て続ける。しびれを切らした怪獣はまた先ほどのように大きな声で鳴き始める。貝塚は耳を塞ぎながらも斬撃を当てるがその声は脳に響き、だんだんと頭痛で身動きが取れなくなっていった。貝塚の動きが止まったのを確認した怪獣は鳴きながら貝塚の頭に足を踏み下ろす。
「わ、たし、は、カバネちゃん、を、信じる!」
『届いたよ。イオリちゃん。』
通信機から骸の声がするのと同時に怪獣の発声器官付近へ骸が撃った弾丸が命中し大爆発を起こした。怪獣はなおも鳴き続けるがその大爆発と共にうまく発生できなくなった。
「カバネちゃん!」
「イオリちゃん。ありがとう。久しぶり。」
「うん、久しぶり。」
貝塚は怪獣の方を見上げると、武器を大剣かた刀に変えて抜刀の準備をする。怪獣の目の前まで跳躍し、そのまま刀を引き抜き怪獣の顔面に一閃を決めた。だが、怪獣の顔にはそう簡単に傷は入らずすぐに腕を振り貝塚を吹き飛ばす。
「イオリちゃん!」
飛ばされる貝塚の背には電線が並んでおり、骸は電線を狙撃して破壊するか迷う。だが、そんなことをしたら周りの住民へ迷惑が掛かってしまう。
「どうしよう……」
引き金に指をかけるも時間は止まらない。貝塚が電線にぶつかる間際。白い影が貝塚を受け止めた。骸は慌ててスコープを覗きなおしその姿を確認する。
「あれは……白い悪魔……」
貝塚を抱きかかえる白い悪魔の姿がそこにあった。白い悪魔は骸が息をする間もなく怪獣を拳一つで倒した。抱きかかえた貝塚をこちらまで運んできた。貝塚を置いて去ろうとする白い悪魔。そんな背中に骸は声をかけた。
「あ、あの!」
白い悪魔はこちらを振り返って目を合わせる。
「あ、ありがとうございました!」
白い悪魔は言葉を聞き終えると無言で手を振りながら踵を返して飛んでいった。白い悪魔が飛んでいったあと貝塚は意識を取り戻した。
「カバネちゃん。倒したんだ。」
「ううん白い悪魔が貝塚も助けたし、怪獣も倒した……私って本当ダメだね……」
そんな言葉に貝塚は骸の頬を撫でて涙をぬぐった。
「ダメじゃないよ?カバネちゃんのおかげで勝てたんだから。」
骸はそんな言葉に涙を流して感謝した。
EMG8:こんな私だからこそ
次回 EMG9:怖いんだ