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EMG9:怖いんだ

恐怖を覚えたのは中学生の頃だった。元々病弱で小さい頃は入退院を繰り返していたが、小学校高学年でやっとまともに学校に通学できるようになった。体は痩せてあだ名はゾンビかミイラだった。息を拭きかけられたら飛んでいくかもしれないと自分でも思うほどガリガリだった。そして、中学生に上がって肉付きも良くなってきたころ突然その恐怖がやってきた。


「先生!吉田君が血を吐きました!」


手のひらには帯びた場しい寮の血がついており口元まで赤く染まっていた。あぁ、このまま死んでいくんだ。僕はこのまま死んでしまうんだ。そう思って目が覚めて僕は決意した。「体を鍛えて病気に負けない体を作るんだ。」と……だから今日も筋トレに励む。筋トレを始めて十数年。始めた頃より病気にもかからなくなってきている。このまま健康を保っていれば…そう思っていた。


今朝、目が覚めると悪夢が目の前に広がっていた。赤茶色のシミが枕にびっしりとついていたのだ。


「な…」


急いで洗面台へ向かい鏡を覗く。そこにはあの頃のように口元を赤く染めている自分がいた。


「嫌だ嫌だ嫌だ……」


すぐに血を拭い枕を手で洗って洗濯機に入れて洗濯機を回す。


なぜ血が?健康体のはずだ。食生活も睡眠時間もきっちりとしているはずだ。


頭の中が真っ白になる。


「一旦落ち着こう。」


コップを取り出して水道水を喉に流し込む。頬に若干の違和感を感じながら飲み干して口の中に広がる血の匂いを振りほどき、時計を見る。今日は水曜日で朝のあいさつの前にジムの予約をしていたんだったのを思い出す。


「……そうだ。今日はジムの予約をしていたんだった。」


ウェアを着て着替えをカバンに詰め込み、朝の街を歩きジムへ向かった。数時間してジムの前に着くとジムの前で誰かが座り込んでいた。


「あ、あの大丈夫ですか?」


声を聞いた男性は僕の方へ目を向ける。優しそうな表情だが、顔を合わせた瞬間分かった。この人は強い人だと。男性は肩で息をしながら笑顔で答えた。


「あ、あぁ大丈夫……」


大丈夫じゃない様に見えるが、とりあえず水も持っていないように見えたのでカバンからペットボトルを取り出して渡す。男性は最初こそ拒否していたが僕の押しに負けて水を受け取って飲む。


「……ぷはぁ…ありがとう。いや~久々に走ったらこのざまだ。本当歳は取りたくないもんだね。」


「何か、やってたんですか?」


「ん~?あぁ、ちょっと昔軍隊に入ってたことがあってね。」


ここらで軍隊と言ったらMDCAぐらいしかないが……でもこの人の筋肉のつきかたは確かに普通の筋トレでは付かない筋肉をしている。


「そ、そうなんですね~「入ってた」ってことは今はもうやめたんですね。」


「そうだね…ちょっと色々あってね。別の仕事を始めたのはいいけどあんまり動かない仕事だからさ。久々に走ったらこのざまってわけさ。」


男性は体力が回復したのか、空のペットボトルを持ちながら立ち上がる。


「ありがとう。無事に帰れそうだ。」


「それは何よりです。」


男性は空のペットボトルをゴミ箱へ捨てて僕へ手を振りながら走り去っていった。


「あの人も怪獣と戦っていたのか……」


僕はトレーニングの為にジムへ入り、挨拶の時間ギリギリまで筋トレをしてジムを出た。


「まずい、朝の挨拶の時間に遅れてしまう。」


僕は急いで隊舎まで走っていった。数時間後、一・三隊の隊舎へ着いたが僕が最後で皆が待っていた。


「吉田くん遅いぞ。」


氷室隊長の冷たい視線が突き刺さる。


「すみません。」


シャキッとして僕は杉山くんの隣に並ぶ。並んだのを確認すると氷室隊長は挨拶を始める。


「では、まず挨拶から……」


隊長の挨拶から始まり今日の連絡事項をしていく。


「では、今日吉田くんが遅刻をしたので腕立てをする!準備!」


 皆が無言で腕立ての準備をして隊長がカウントを始める。腕立てを終わると解散して訓練準備をする。


「では、私は資料室にいる。皆……頼むぞ?」


隊長の背中が遠くなっていくと皆は演習の準備をする。最初こそ真面目に取り組んでいたが杉山くんが放り出して骸ちゃんが途中で充電が切れたように倒れてそれを貝塚ちゃんが引きずり木の上に避難させる。いつも通りの光景に僕も筋トレしようかと動きを止めようとしたが今朝の人の顔を思い出し今日は筋トレではなく真面目に訓練しようと銃を構える。貝塚ちゃんはいつも通り妄想を混同しながら動いていた。数時間動いていると眠っていたはずの骸ちゃんが隣に並んでいた。そんな空気に負けて杉山も隣に並ぶ。


「珍しいね。杉山くん」


「いや~?俺だけサボってるとまた腕立てさせられそうだし。お前は?珍しいな。いつもは俺がサボってから筋トレしだすだろ?」


「……まぁ、そうだね…筋トレだけでは鍛えられないところも鍛えたいなって……」


「あっそ。」


その日は皆真面目に訓練をしていて戻ってきた隊長に感動された。僕は頬の違和感を舌でさわり訓練を終えた。


EMG9:怖いんだ


次回 EMG10:怖いけど、怖いままは嫌だ

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