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EMG11:常識ゼロ

非常識。


奇人。


変人。


散々言われてきた言葉だ。


子供のころからそうだった。飼っていた金魚が死んでかわいそうだからせめて死体は残らないように食べようと母に調理を頼みドン引きされ、学校でも集団活動が苦手でいつも一人でいたら皆に白い眼で見られる。


俺の中でこの世の常識は非常識だ。


動物が死ねばそれは死体であるが、同時に体を作る血肉でもある。


人とかかわることで自分が変わるのは変わったと思い込んでいるだけである。


殺したい人がいれば殺せばいいし、復讐からは人生の再起が生まれる。


そんな俺が出会ったのがMDCAが使っている対怪獣殲滅兵器だった。


何が好きかって?


全部だ。


人じゃないから何も言わないし、いちいち説明もしなくていい。


俺が使うではなく、俺が使われる。と言うのが肝心なところだ。


武器はプロセス通りに動き、全てが理にかなった完璧な存在だ。


こんな完璧な存在がすぐ近くにいるのに……


「なぁんでこんな……身体だけ鍛える部隊に入っちゃったんですかね~俺は!?」


「文句を言わずにさっさと体を動かせ。全く、最近良くなっていると思ったら……君らはなぜ継続ができないんだ?全く……」


氷室隊長が大きな声を張り上げて走る俺たち一・三隊全員に視線を向ける。俺は、重くなる足を懸命に動かしながらも氷室隊長の前でへたり込んでしまった。


「ほら、立って走らんか。いつも訓練をサボって怠けているからこうなってるんだぞ?」




「いや、それは、分かってますけど……ちょ、むり……」


俺はその場で胃酸をぶちまける。呆れた隊長は水入りやかんを手に持ち俺の頭に水をかける。


「ほぉら頑張れがんばれ~杉山く~ん。あと数周で完走だぞ~」


「ちっ、俺より年下のくせに……」


「なぁんだって?」


「……何でもないです……あ~なんか水浴びたら元気出てきたな~走ってこよ~」


俺より年下のくせにぃ……!このアマ、絶対泣きっ面かかせてやらぁ……


この考えが後で自分の首を締めるとは思ってない俺は心に復讐を誓うのだった。


午後になり訓練の続きが再開する。俺はまず、隊長が這い上がってこれないように隊長の身長分の落とし穴を掘った。身長166.9㎝の若干チビの隊長がギリギリ這い上がれないくらいの落とし穴。ワクワクして待っていると隊長が説明をしに定位置まで足を運ぶ。だが、隊長は何か察知したのか定位置の一歩手前で止まる。


「では、午後の訓練を始める……前に、杉山くん。ちょっと腕立て伏せをしてくれ。」


「え?あ、はい。」


その場で腕立てをしようとしたが氷室隊長は首を横に振り場所をしていた。


「私が指さす場所に来てそこで腕立てしなさい。」


隊長は俺が落とし穴を掘った場所を指さす。


は?


嘘だろ?


バレたのか?


「い、いやぁ、俺はここがいいな~なんて……」


「ふむ、隊長の指令、命令が聞けないと……では、上に相談して……」


「わー!分かりました。腕立てしますよ!」


「素直でよろしい。」


結果は目に見えていた。


俺が落とし穴にハマり、見おろされる氷室隊長と目が合う。


「どうした?腕立て伏せは?」


「いや、これ、無理ですよね……?」


「では、落とし穴を掘った理由を説明せよ。」


「い、いやぁ…隊長が動いてるの任務中しか見ないし体なまってないかな~と心配しまして……」


「嘘だな。」


「嘘です。本当は隊長を落とし穴にハメて泣き顔の隊長を見たかったからです。」


「正直でよろしい。だが、世の中嘘をついたままの方が良い時もある。今の状況みたいにな。」


「はぁ……」


「杉山アカリ。この訓練中はグラウンド走のみとする。以上走ってこい。」


「マジかよ……」


「マジだ。」


マジだった。


吐いても今度は声もかけてくれなかった。水もかけてくれなかった。


「訓練終了!グラウンド走している杉山アカリは直ちに集合せよ。」


ヘロヘロに、ゲロゲロになりながら俺は生れるしている皆のところまで走る。そして、その日の訓練は終了した。


こんのアマぁ……ぜってー明日こそは吠え面かかせてやる!


この考えが後で自分の首を締めるとは思ってない俺は心に復讐を誓うのだった。(二回目)


翌日の訓練の日。


今日は思い切ってサボってやろう。とも思ったが、あの女に吠え面かかせると決意した以上絶対に吠え面かかせる。


「確か、今日は武器を使った訓練だったな……よし!」


俺は、隊長の使う模擬の対怪獣殲滅兵器に弾が出ないように細工した。


が、隊長が俺たちの前に立つや否や、また俺が指名される。


「杉山アカリ。今日はきみの好きな対怪獣兵器の訓練だ。試しに撃ってみてくれ。」


隊長が持っている武器を俺に渡す。俺はもちろんそれが弾が出ないように細工しているモノだと分かっているので手が止まる。


「どうした?早くしないか。」


「いぁ……えっとぉ……自分のやつじゃだめですか?」


隊長は冷気を纏った視線を俺の方に浴びせてくる。


「私のモノだとできないのか?」


「い、いやぁ……他人のモノを使うとちょっと……」


「ふむ、なにか問題が?君のような対怪獣殲滅兵器マニアの君に?」


あ、ダメだこれ、バレてぇら。


「す、すみませんでしたぁ!これ、実は弾が出ないように細工してまして……」


「ほ~う?なぜ?」


「いや、その隊長に吠え面かかせようと……」


「杉山アカリ!」


「はい!」


「訓練中は腕立て伏せ。分かったか?」


「は、はい……」


と言うことでゲロ吐いても涙流しても筋肉のおかしな音が聞こえても俺は腕立て伏せをやめさせてもらえなかった……


「今日の訓練終了~ほら、杉山くん。何を寝そべっているんだ。解散。片づけだぞ?」


こんんのぉアマぁぁ……ぜってーぜってー赤っ恥かかせて吠え面かかせて泣きべそかかせて……ってもういいや……疲れた……


同じ轍は何度も踏まねぇ。明日からは真面目に訓練しよ……


沈む夕日に俺はそう誓った。


EMG11:常識ゼロ


次回 EMG12:非常識ハンドレッド

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