昨日の訓練から今日へ移り変わった。体中筋肉痛で死ぬほど痛い。昨日いたずらしようとしている俺を助走をつけてぶん殴りたい。マジで。体を引きずりながら朝礼に参加する。隊長が声を出そうと息を飲んだ瞬間、警鐘が鳴り響く。
『緊急!TOKIYO Rブロックにて怪獣が発生!等級レベルT~T”です。全隊員は直ちに現場へ向かってください。繰り返します……』
「全体。朝礼は後だ。現場へ向かうぞ!」
「「「「「了解。」」」」
俺たちは一斉に本部を出てRブロックへ向かう。昨日の分、今日取り返すか……
「よし、気合入れて行こうか。」
「杉山どのいつになく気合が入ってますな。」
「おうよ。昨日とは一味も二味も違うってところ見せやるよ。」
「杉山。黙って移動しろ。」
「へ~い。」
そうこうしているうちに現場へ来たが、街は大損害。ビルはなぎ倒されて辺りは焦土化していた。一・三隊の他にも到着しており、それぞれの役割をはたしていた。
「一・三隊!戦闘をする前に我々が人々の避難をするから怪獣の興味を逸らしてくれ。」
氷室隊長は無言でうなずくと怪獣を見上げた。隊長30~40mほどの巨体はうもうと酷似したモノで覆われており怪獣は丸々太った鶏のような見た目だ。怪獣は氷室隊長と目が合うと息を大きく吸い込み大きな鳴き声を上げた。
「コケコッコ!」
うるさ!マジで鶏の怪獣なのかよ!とりあえず、氷室隊長へ指示を仰ぐ。
「隊長。どうします?」
「避難が完了するまでは足止めだ。あまり興奮させるなよ。何をするか分からんからな。とりあえず、ゆっくりと向こうに見える山方面まで誘導するぞ。」
「よっしゃ、任せてくださいよ!」
俺は真っ先にわざと怪獣の視界に移りに行く。怪獣と同じくらいのビルの屋上に飛び移り動き回る。
「ほぉら!こっちだこっち。」
怪獣は鶏のような挙動で俺を視界に映すと勢いよく頭を下げてくる。ビルの屋上に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。頭を上げると屋上には怪獣のくちばしの形の穴が空いていた。
「虫に見えるってか?まぁでも……」
俺の興味が出たのなら好都合だ。俺は二個先のビルにしがみつき怪獣を誘導する。怪獣もそれに合わせて移動してくる。山まではあと数キロありそうな距離だ。だが、この調子だとうまくいく……そう思っていた矢先、次のビルにつかまった瞬間に社長と思しき一般人が窓を勢いよく開けて大声で怒鳴ってきた。
「てめぇ!人の迷惑考えろ!こちとら今仕事中なんだよ!見えねぇのか!」
こいつバカだろ……いくら怪獣が多い国だからってレベルT~T”で避難級の災害と一緒だぞ?それなのに……必死に引き金を弾くのを我慢する。一・三隊の皆もひやひやしながら俺の方へ注目しながら怪獣の動きも警戒する。昨日までの俺ならすぐに銃ぶっ放して黙らせてただろう……だがな、俺は変わるんだよ。今まで常識がないだの、普通じゃないだのと言われた俺だが、変わるんだよ。子供から精神年齢を上げるんだよ……と思ったんだがなぁ…やっぱ人間ってそう簡単には変われないもんだなぁ。
俺は引き金を弾き、一般人を黙らせる。
「お前。死にたいのか?こんな時も仕事仕事って……命あっての仕事じゃないのかよ!?」
氷室隊長や一・三隊の皆は顔に手を当てて愕然としていた。一般人は怪獣と目が合うと悲鳴を上げて窓を閉めた。窓には反射して俺と怪獣が写っており窓越しにお互い目が合った。そこで俺はやっと自分がやったことの重大さに気が付いた。
これ、咆哮されたら、俺、死ぬだろ……
怪獣は息を吸い込み大きな声を上げる。その衝撃波で辺り一帯の窓にひびが入りコンクリートの表面にもひびが入る。俺は鼓膜が破れたのか耳が聞こえなくなった。耳辺りを触ってみると血が出ているのがわかる。そして、鼻の下や瞼にも暖かいものがこみ上げてあふれているのがわかる。顔を下に向けると涙とは違う赤い液体が舌へ落ちていった。
「血涙に鼻血……ごぼぼっぞじで吐血……」
だんだんと全身から力が抜けていき、ビルの隙間を掴んでいた指が緩むのがわかる。一・三隊の皆や他の隊の皆も俺を見ながら動いていたが、怪獣がそれを阻む。だんだんと視界が逆さまになりやがて世界が反転した。
「……おちてる。」
今の状況の実況をして俺の視界はブラックアウトした。
あぁ、落下して死ぬんだな。と真っ暗な中考えたが、一向に地面とぶつからない。それよりも高度が上がっている。
薄っすらと目を開けると目の前が真っ白になっている。怪獣の体色も白だったが、怪獣の毛質とは違う質感の毛だ。見上げるとMDCA全体で特別大災害級怪人№4に指定されている「白い悪魔」だった。
「なんで……」
白い悪魔は声に反応し俺と目を合わせるとすぐに近くの救護隊の近くへ降ろした。
「白い悪魔だ!全員、気をつけろ!」
白い悪魔はそんな声に何の反応もせず、ただ、怪獣を一発殴って山のほうへ飛ばした。それに気づいた氷室隊長は一・三隊へ号令をかけた。
「全体!白い悪魔を援護しろ!」
その言葉に最初は驚いた様子だったが、真っ先に貝塚が援護射撃の為に山の方へ向かった。それを皮切りに骸も吉田も向かう。俺も、向かわねぇと…立ち上がろうとしたが体に力が入らない。いや、限界を超えろよ。俺の身体!
「ぐっ!うぉぉぉ…!」
「ちょ、杉山くん。君は安静に……」
「俺が行かねぇとなんかあった時に誰も氷室隊長を援護できない!」
力を振り絞って走る。皆よりも遅いが、何とか山の方へと到着する。俺は高い場所が無いか探して丁度よさげな大木を見つけそこへ向かう。大木のてっぺん付近まで登りスコープを覗く。
「よし、ここからなら援護できる。」
スコープの先では白い悪魔が怪獣へ拳を浴びせている。だが、怪獣は白い悪魔よりも大きさが何百倍もあるのでそんな攻撃は効かないと余裕そうだ。
「ニワトリヤロウ……」
俺は引き金へ指をかけて慎重に怪獣を狙う。怪獣はだんだんと押されて後ろへ後ずさっていく。スコープの中心を見つめ、怪獣の頭が合わさった時俺は引き金を弾いた。
一発は怪獣の頭部へ命中した。皮膚は分厚くなかったのか命中した箇所からは血がうっすらと滲んでいた。
「おし、もう一発!」
白い悪魔が拳を放ち、怪獣の体勢が完全に崩れて後ろへひっくり返った時、もう一発命中させる。怪獣の足に命中すると怪獣は立ち上がろうとするがうまく立ち上がれずに片足立ちの状態になった。
「よし、これで……あ?」
興奮して頭に血が上ってしまい、俺の視界はフラフラと歪みだした。
不味いな。やっぱ俺は俺らしく大人しくしときゃよかったな……
「杉山。よく当ててくれた。あとは残りで任せて君は落下する前に降りて待機だ。」
通信機から隊長の声を聞くと俺は言われるがまま木下まで何とか降りてついに意識もなくなった。
EMG12:非常識ハンドレッド
次回 EMG13:神か?悪魔か?