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EMG13:神か?悪魔か?

ニワトリの怪獣はなおも雄叫びを上げる。山が振動し、草木が崩れ落ちる。そんなニワトリ怪獣に六代は拳をぶつけて雄叫びを遮る。周りは六代ではなく、ニワトリ怪獣を狙って武器を構えている。


「援護か?」


『そのようだな…殺気が貴様ではなく、このデカブツに向いておる。』


六代はそのまま攻撃を躱しながら拳を当て続けるもなかなか怪獣は弱らない。


「こいつ、なかなか固いな…」


『だが、だんだんと弱ってきている。木の上から狙撃したあいつのおかげじゃな。』


ボロボロの杉山の姿が六代の頭によぎる。面識はないものの、杉山のあの目はこちらを信じ切った信頼の目だった。


「なぁ、大きくなる力とか無いわけ?」


『ないのぅ…だが、信仰の力をエネルギーに変えてあの巨体に大きな風穴を空けることは可能じゃ。』


六代は怪獣を見上げて様子を見る。山を荒らして雄叫びを上げる約30~40mの巨体。そんな巨体に風穴を空けることができるのかと疑問を持つ。


『ちっと時間はかかるがな。その間は例の奴らに任せておけば良いじゃろ。』


「どうやるんだ。」


『良い心がけだ。では、両手を掲げて手のひらにエネルギーを感じ取れ。』


「いや、すぐできるんじゃないのかよ。」


『時間がかかると言っただろう……おい、前を見よ。』


「何言って……ッ!?」


六代は白龍との会話に夢中で眼前に迫る怪獣に足に気を配ることができず踏みつぶされそうになる。寸前に受け止めるが、今にも潰されそうになった。


「クッソ、重いなコイツ!」


『おい、ちゃんと集中せよ。エネルギーが抜けていったぞ。』


「無茶言うな!」


膝が曲がって潰されそうになったその時、怪獣の足を何かが貫通する。


「何をしている!全体「白い悪魔」を援護しろ!」


聞き覚えのある声が耳に入る。いつもなよなよしていた一・三隊の唯一の真面目少女の声。六代はその声を聞くと自然と口角が上がる。


「立派に隊長なんてしやがって……!生~意~気~だぁ~!」


怪獣は体勢を崩してそのまま後ろへ倒れる。山肌が一部抉れると怪獣は土煙に飲み込まれて姿をくらます。


『今じゃ。さっさと気を溜めろ!』


「こうか?」


『そうじゃ。それでよい。エネルギーが溜ってきたはずじゃ。』


六代は手のひらに暖かいものを感じるとそこには輝く大きな玉があった。


「おぉ……すげぇ……ド〇ゴン〇ールの元〇玉みてぇ……」


『気を抜くな!奴が立ち上がったらまた攻撃が来るぞ。』


「分かってら!」


六代は怪獣を警戒しながらエネルギー弾を溜め続ける。土煙が晴れるとニワトリ怪獣は非常に興奮した様子で息を吸い込み雄叫びを上げながら火を噴いた。


「おいおい、やっと怪獣らしくなってきやがったな……」


怪獣は六代を見下ろすと目を見開き、火炎の漏れ出る口や鼻の中に息を吸い込み頬を大きく膨らませて火炎を吐く準備をする。


『おい、来るぞ!』


「まてまて!あんま慌てさせるな!」


六代はエネルギーを溜めたまま器用にバックステップを踏み怪獣の火炎放射の範囲から逃れようとする。だが、怪獣は十分に息を吸い込んだのか大きく口を開き喉の奥から火炎が放射される。六代はその火炎放射に間に合わず火炎放射を受けてしまう。


『おい!』


「大丈夫だ。問題ない!」


黒煤に火傷を覆った六代はエネルギーをまだ溜め続ける。その様子を見ていた氷室は察して大きな声で指令を出す。


「全体!「白い悪魔」を守れ!」


その声と共に氷室と杉山を除く一・三隊の全員が六代の方へ集まってきた。


「おいおい、こっちに来んなよ……」


六代は不安になり集まってきた一・三隊に囲まれる。そして、氷室と吉田が懐から対怪獣殲滅兵器の盾を展開する。全長2mほどの盾は六代の前を完全に塞ぐ。骸と貝塚はその横から対怪獣殲滅兵器の銃を取り出して怪獣に打ち込む。怪獣へ命中する弾丸は着弾後すぐに爆発し怪獣の目くらましになる。


「まだかかるのか?」


氷室の声に六代は声を出そうとしたが、声は六代のままなので何も言えず慌てている氷室は六代側へ振り返る。


「まだなのか?」


六代は氷室と目を合わせる。


この場でこいつに声を聞かせても問題ないな……


「もう十分だ……ありがとう。」


氷室はその声を聞くと飛び上がった白い悪魔を目で追った。六代はたまった大きなエネルギー弾を片手で持ち圧縮させる。直径10mはあったエネルギー弾は六代の手のひらまで圧縮される。


「何か技名とかないのか?」


『お主はこんな時に……そんな意味のないものはない。』


「んじゃ、俺がオリジナルで……龍昇破弾りゅうしょうはだん!!」


手のひらを広げると怪獣の腹部に向かって光の太い柱が怪獣を貫通した。怪獣は自分の腹の風穴を見るとそのまま後ろにばたりと倒れた。怪獣の後ろにあった山にも同じくらいの穴が空いており、その場の誰も放った本人でさえが驚愕した。


「これ、やばいな……」


『じゃから言ったであろう?こやつに風穴を空けると。後ろが町でなくてよかったの。』


六代は一・三隊の前に着地をする前に別の木を踏みなるべく遠くへ飛んでいった。六代の放ったものを見ていた一・三隊は皆ハッと我に返る。



「吉田。杉山を探してくれ。私たちは山の方へ行く。」


「了解……ですが、向こうは怪人が放ったエネルギーの影響があるはずですが……」


「だからだ。住民がいたら大変だ……骸、貝塚。行くぞ」


「了解。」


「(コクコク……)」


氷室と骸、貝塚はそのまま怪獣の倒れている亡骸まで走っていった。その様子を見送った吉田は山に空いている風穴を見て身震いする。


「これが悪魔の怒りなのか……?」


踵を返し杉山が向かった方角へ向かった。一方、氷室は山の惨状を見ながら白い悪魔の声を思い出す。


「六代隊長の声に聞こえたが……気のせいか?」


白い悪魔と目が合い、声を聞いた氷室の耳には六代の顔と白い悪魔の顔が重なる。


「まぁ、あの人ならどんな姿になっても……」


その様子を見ている影がふたつ。一つは彼岸花の頭をしている男。もう一人はムカデがとぐろを巻いたような顔の白無垢を着た女性。


「あれが、噂の怨者うらみびとになった人間ね……まるで神の御業。美しい光でしたわ。」


「のんきなことを言っている場合かしょう。」


「えぇ、のんきなことを言っている場合よ?此方こなた


お互いに睨みあう二人の怨者うらみびとの間にもう一人現れる。眼球の歪んだ地蔵の頭にタキシード姿の男だ。


「お二人さん。声を荒げては見つかってしまう。」


二人は地蔵を男を見上げると舌打ちをする。


「「怨マえんま」」


「おや…息が合いますね……とりあえず、ここで見ていたらいずれバレる。どこか静かな場所に……」


「チっ!」



「まぁ、一理ありますわね……」


異形頭たちは黒い渦へ入り消えていった。


EMG13:神か?悪魔か?


次回 EMG14:怨みと陰口と渇望と

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