今まで、皆にバカにされ、避けられるだけの俺だった。でも、今、この時、俺は初めて実力ある人から認められたと思った。林を駆け抜けその人の元へ着いた。一隊 隊長 九重 一。このMDCAで一番実力のある人だ。
「やぁ、杉山アカリ一番ノリおめでとう。」
怪獣を見つめるその後ろ姿は武者震いで震えておりこの戦いを楽しんでいることがわかる。
「俺でよかったんですか?」
九重隊長は俺の突然の問いにニヤた顔をこちらへ向けて答える。
「君がいいんだ。君の実力が必要なんだ。」
真っすぐ見つめるその瞳は燃えるように揺らめいている。この人がMDCAで一番強いこの人が俺の腕を求めている……。そして、他に呼ばれた六隊で「爪」の異名を持つ才牙オウカ隊長と砲撃を得意とする傀儡ユウも到着する。
「ようや…いっちゃんが私を呼ぶとか珍しいな。」
オウカ六隊長。隊服を着崩しへそ出しファッションをしている長身の女性。露出している箇所は古傷だらけで顔の真ん中にも大きな傷が一本大きく通っている。傷があってもなくてもとても美しい顔立ちの女性だ。そんなオウカ隊長に九重隊長は俺に向けたような目を向ける。
「来たか。オウちゃん……待ってたぜ。」
二人は顔を見ずにグータッチして九重は次に傀儡の方へ目を向ける。傀儡ユウは小さい身体で大きな兵器を持っているが、体幹もぶれることなく九重隊長と目を合わせても敬礼をする。
「傀儡ユウであります!今日は作戦での指名ありがとうございます!」
彼女もまた九重隊長と表情は硬いがグータッチをする。そして再び俺と視線をぶつけると下を見るように顎で指し示す。そこには九重隊長の拳があり、グータッチをするように促していた。
「よ、よろしくお願いします。」
「そう固くなるなよ。肩の力抜いてしまってこう。」
肩を軽く叩かれ俺には一層気合が入った。そして、九重隊長から作戦の説明をされる。
「いいかい?今背中が見えている№2だが、こちらを振り向かせてなおかつ攻撃をさせないでこちらに再び歩かせる。元の位置まで歩かせる。」
「そうかい。それで、私たちに囮なれってことだね?」
「そうだ……死ぬかもしれないけど…いいかい?」
九重隊長は俺たちをまっすぐ見つめる。それに答えるようにオウカ隊長と傀儡は首を縦に振る。俺だって、囮になるくらい……でも、死ぬかもしれないのか……死という言葉に俺は首を縦に振ることができない。正直不安なのは変わらない。実力を認めてくれるのはうれしいが、これは俺が参加していい作戦か?今まで他人のために命を懸けてきたことのない俺が、こんな作戦に参加していいのか?不安で戸惑っていると、九重隊長は肩に手を置いてきた。顔を上げるとあの目で見つめられる。
「今は、他人の為とか、変わるためとかじゃなくて自分のためにやってみるといい。そしたら考えはまとまる。」
「自分のため……」
自分の為。自分が何を成すのか……?知らないな。俺は、俺らしく生きたい。
「何発でも撃っていいんですね?」
その言葉に九重隊長はあの目で口角をさらに上げた。
「その意気だ……!それじゃ、行こうか三人とも。」
「「「了解!!」」」
俺たちは№2の背中を狙い砲撃した。
「
一斉に引き金を引き、一か所を狙う。俺たちの砲撃は見事№2の背中へ命中して№2を振り向かせることに成功した。
「よし、ここから二盾に分かれる。オウカと傀儡は真っすぐ既定の位置まで走りながら俺たちの後に砲撃だ。僕と杉山は攻撃を開始する№2へ横から攻撃してガス弾の放出を防ぐ。それを繰り返す。いいかい?」
オウカ隊長と傀儡は首を縦に振りそのまま踵を返して走っていった。俺は九重隊長とアイコンタクトを取り背中を追った。
まず、一撃目の攻撃阻止、№2はすでに息を吸い込んでおりガス弾を放出できる準備が整っていた。俺は慌てて№2の横顔に向けて砲撃をする。命中した№2は頬から煙を上げて吸い込んでいた息を吐きだしてこちらを向き再び攻撃しようとしてくる。だが、そこでオウカ傀儡班の砲撃が命中し、№2は再びそこへ歩き出し、息を吸い込んで再びガス弾発射の準備をする。
「やらせねぇって言ってんだろ!」
再び砲撃しガス弾を阻止、それを繰り返し№2は徐々に既定の位置まで戻っていく。九重隊長と目を合わせてうなずき合う。そのまま元の位置まで戻るかと思われた№2だったが、№2の進路の上空、丁度№2の顔の位置に何かが現れた。スコープを覗いて存在を確認するとそれは、眼球の歪んだ地蔵頭のタキシードの怪人だった。
「何だ、あいつ。」
「怪人みたいだね。でも情報にはない…№2の主とかか?」
九重隊長も困惑する。№2の主と言うのは間違いではないと思う。№2も地蔵頭を見ても攻撃を仕掛けようとせず地蔵頭の指示を仰ぐように見つめている。
「何にせよ、邪魔だね。あの怪人は僕が引き付けるから、杉山アカリ、ここは任せた。」
肩に手を置いたと思ったら九重隊長はすぐにその場から消え俺が視界でとらえるころにはもう数十メートルを走って小さくなっていた。
「任されたぜ、九重隊長!」
俺は九重隊長の期待を胸に引き金を弾いて作戦を続行した。
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№2は地蔵頭の怪人怨マと目を合わせると固まってしまった。杉山やオウカの砲撃では動きもせずただただ怨マを見つめている。怨マは呆れた様子で№2へ近づく。
「困った子です。せっかく仲間を探しに来たのに、こんな有様になっているとは……」
言葉に節々に恐怖を感じているのか№2は目を見開いたまま後ずさりを始める。怨マはじりじりと近づき№2へ触れようとする。その指が触れようとした時、背中へ衝撃を感じる。少し苛立ちながら怨マは振り返ると一隊 隊長 九重と目が合った。
「ここら一帯の中でも一番強い気を放っていますね。いいでしょう……相手して差し上げます。」
怨マは九重の前に舞い降りるように着地して対面する。
「よう…怪人……」
「怪人……?あぁ……我々のことを言っているのですね……ですが、それは間違いですよ。我々は
怨マはタキシードを脱ぎ捨てると黒い靄の体を操り周辺の岩や木々を使い一回り大きな体を作り出しそれを自分の体のように手を作り、足を作り指先まで曲げ伸ばしてちゃんとつながっているか確認する。
「……さて、準備はできました。相手して差し上げます。強い人間。」
「いいよ。すぐにゴミクズ同然にしてあげる。」
九重が砲撃すると怨マはそれを岩の手で防ぎ、巨体とは思えない速さで九重に拳を投げるようにぶつける。九重はその拳を躱して大型銃兵器をしまい、懐から大剣型の兵器を出して振りかぶったあとの拳にそれを叩きつけて切断する。
「対怪獣殲滅兵器:
みねの部分がのこぎり状になっており、刃は大剣と言うにはあまりにも薄い作りになっている。だが、そんな薄い刃はひらひらと倒れる訳ではなくきちんと真っすぐ天を目指して光輝いている。この兵器を作るにあたり日本でも選りすぐりの鍛冶屋を集め鍛冶屋同士時に尊敬しあい、時に喧嘩しながら作り上げた大剣型兵器、それが
「これは、名匠の腕とこの国の思いが一つになって生まれた最高の兵器なんだ……その腕、豆腐みたいに切断されただろう?」
「なかなか、やるみたいですね……いいでしょう。受けて立ちますよ…その思いとやらに……」
九重と怨マは互いを見つめ互いの間合いへにじり寄っていった。
EMG17:VS特別大災害級怪獣 №2 中盤
次回 EMG18:VS特別大災害級怪獣 №2 終盤