岩石の拳は九重を狙い、大きさとは裏腹に素早く飛んでくる。その岩石の拳に対して九重は特注の対怪獣殲滅兵器:
「……そちらの対策は万全ということですか……」
「言っただろう?この大剣は日本の名匠の腕と思いが乗ってるってさ……」
九重は大きく剣を振り回し怨マを切り付けていく。怨マはその剣撃を周りの木や岩を盾にして逃げる。
「ほらほら、逃げてるばかりじゃ僕は死なないよ?」
「厄介極まりない。」
怨マはバックステップで九重の隙を伺う。しかし、大剣を振り回しているはずの九重だがその攻撃には全く隙がなく全てにおいて洗練されている。そんな九重に怨マは逃げるようで悔しがりつつ後ろで誘導されている№2へ岩を投げつけてこちらへ誘導し始める。№2は九重たちの方を見ると息を吸い込みガス弾の準備を始める。九重はそんな状況に気づいていないのか攻撃をやめない。
「あなたが強いのは十分伝わった。だが、俺の目的はあなたじゃない……」
「あーそうかい!でもね、君の考えがわからないほど、こっちも場数を踏んでないわけじゃない。僕はね、信じているんだよ。彼らがしっかりあのデカブツを誘導できることをさ…」
№2の横顔へ砲撃が炸裂する。その撃音を聞き怨マは煙の上がる№2へ目を向けて驚愕した
「……厄介ですね。強い人が聡い仲間を引き連れていると」
「彼らもまた、僕を信じているんだよ。だから彼らは作戦を終了させるまでは決して不安
を抱かない。」
怨マは、九重を睨みつけるが、再び№2の方を見て体にまとっている岩や木々を解除しタキシードを着直す。
「おやぁ?逃げるのかなぁ?」
怨マは九重の煽りにため息を吐きながら呆れたような風に口を開く。
「先ほども言ったが、俺はあなたじゃない……俺の目的はあそこにある」
怨マは№2の方へ目にも止まらぬ速さで移動した。
「ちっ!何をしようと言うんだ!」
九重は対怪獣殲滅兵器:
「全体、№2の前にいる怪人は№2になにかしようとしている、僕は今からそいつのところに行く、ただ、№2への砲撃は続けていてくれ。」
『そしたら、九重隊長に当たる可能性が出てくるかと……』
「僕はいい感じで避けながら戦う。だからよろしくね……ってことで、技術隊例のアレ準備お願いね。」
九重の言葉を聞いて技術隊に選抜されている坂木イチヨは目を輝かせて待っていましたとばかりに返事をした。
『まぁぁぁぁってましたぁぁぁ!!!こちら坂木!例のアレ準備できているよぅ!いつでも発進おっけい!』
「元気なお返事ありがとね。んじゃ、もうすぐ着くから……」
九重は林を抜けて二、三班が待機しているキャンプへと着いた。坂木は九重の到着と同時にソレを準備していた。九重はソレに乗り坂木へ期待の眼差しを送る。
「これが、アレかい?」
「そうとも!これがアレさ!我々が空を制するための翼さ!」
大きさにして約1.5mの長方形の厚さ20㎝鉄の板。その板の中には羽径50㎝のプロペラが二つ付いている。プロペラが回転を始めると九重の身体が宙へ浮かび始める。
「これが…翼か……」
「そうさ、その名も……対怪獣殲滅兵器:【ヤタガラス】さ!」
その名に九重は目を輝かせて試しに低空で色々と動いてみる。前進、後退はもちろん変則的な動きまでして見せる。
「やっぱいいねこれ。それじゃ、行ってくる!」
九重は宙へ浮き空を飛んだ。だんだんと小さくなる坂木へ目を向けて敬礼した。坂木たちもそんな九重へ敬礼をして見送った。
「頑張ってくださいね。【ヤタガラス】」
─────────
怨マは№2の目の前まで来ると№2は先ほどのように固まるが、次は様子が違う。先ほどは恐怖から後ずさろうともしていたが、今回は息を大きく吸い込みガス弾の準備を始める。怨マはそんな№2を見て呆れた。
「あなたは人を喰らってからでしか生きられないというのに……まぁ、いいです。あなたの中に確かにいます。俺たちの仲間となる者が。」
№2はガス弾を怨マへ発射して攻撃したが、怨マには効いておらず怨マはそのガス弾を受けても平気な様子だった。
「はぁ、あなたはさっさと仲間を吐き出してくれればいいんです。」
怨マは辺りの岩石を宙に浮かせ№2の腹部めがけてぶつけ始める。№2は吸い込んでいた息を吐きだし、その後もぶつけられる巨大な岩に我慢できず有害物質と共に土を吐き出す。その中には今まで食べてきた人間の骨や、車、テントなども見える。
その中に一つ黒い塊があった。
他の白骨死体や錆びた車のボディとは違う明らかに怨マのような黒い靄を纏った塊が一つ。
怨マはその塊を見つけると嬉々としてその塊を回収する。№2はやっと止んだ岩石の嵐に息を整えて怨マをしっかり狙ってガス弾を吐き出そうとしたが、後頭部に砲撃をされた。ゆっくりと振り向いてみると【ヤタガラス】に乗った九重がこちらへ向かってきていた。
「こちら、九重!皆待たせたね。」
№2はそんな九重を見るがやはり狙いは怨マだった。№2は周辺の緑を食べ始め租借し終わると喉を鳴らして腹を満たしガス弾の準備を始める。そして今までよりも早くに準備を終わらせた№2は怨マを狙ってガス弾を連射する。
「まずいですね……」
怨マはその攻撃を避けながら、だんだんと離れていく。怨マが見えなくなった№2はここで初めて大きな咆哮を上げて出てきたところへ歩いて行く。そして、砲撃の中再び眠ろうと体を低くし始めると九重が目の前まで来る。
「お前、ここまでしといて眠れると思ってんの?」
対怪獣殲滅兵器:
「久しぶりに自分の血を見たのかい?」
なおも咆哮を続ける№2の体は深緑から赤色に染まり体も細く鋭利になった。そして咆哮に金切り声が混じり、周辺の隊員の鼓膜へダメージを与えた。この咆哮の影響で通信機が壊れてしまった九重は耳を開けて
「は、や……通信して伝達を……あ、壊れてたんだった……」
想定外も想定外。№2のこんな形態は今までのデータになかった。それは当たり前のことだった。なにせ今までの調査は怪獣の俳諧と食事のものだけで戦闘のデータはほとんどなかったのだ。興奮状態になるとこんなにも俊敏にそして凶暴になるのかと九重は体を起こして技術隊の元へ走り始める。
「っつ!こりゃ、折れてるな。」
あばらが数本折れている九重は怪我をかばいながら走るので今までの速さでは走れない。幸い、富士山の方まで飛んではきたがまだまだ緑が多いところだったので技術隊までそう遠くない。
「急げ…!僕が走らなきゃ……!」
九重は技術隊の方へ急いだ。
─────────
金切り声の混じった咆哮を耳にした杉山は、塞いでいた耳を開け咆哮は止んだのを確認し鼓膜に異常が無いか確認する。
「大丈夫そうだな……だが、一体何があったんだ……」
スコープを覗こうとしたが、ガス弾が無数に飛んでくる。杉山はその攻撃を急いで避けて技術隊と同じ距離のところまで来て改めてスコープを覗く。そこに映るのは赤い体色の雰囲気の違う№2の姿あった。
「何だよあれ……」
№2は今だに無造作に暴れてガス弾をそこら中に飛ばしている。
「あれが本来の姿なのか?」
困惑する杉山の後ろから氷室の声が聞こえてきた。振り向くと氷室や他に退避してきた隊の皆が到着していた。
「隊長!大丈夫すか?」
「あぁ、ここにいる皆は問題ないようだ。だが、九重だけがいない。」
「は?なんだよそれ……空飛んで戦ってただろ?」
「いや、補助の何人かが富士山の方角へ飛ばされたと言っているから死んではいない。それよりも、今はあの形態をどうするかだ。」
その場の全員が考えるが、杉山はそれを飛ばすように大きな声を上げる。
「今は考えても仕方ないだろ!俺たちは九重隊長が戻るまであいつをあそこに引き留めるだけだ。」
その言葉にその場の皆が静かに頷いた。
「坂木隊長。これより強力なマスクないんですか?」
「実験はしてないんだが、人数分あるっちゃある。だが、【ヤタガラス】と違ってテストしてない。機能が劣っているかもしれないが、どうする?」
杉山は出されたマスクを誰よりも早く取り天に掲げる。
「俺はこれにかける。皆はどうする!?」
氷室はそんな杉山の声に口角が上がり杉山に続いてマスクを装着した。
「杉山くんにしては生意気だが……いいだろう……私は乗った!」
氷室の行動に不安だった皆も次々にマスクを手に取っていった。その様子に坂木は再度説明する。
「一応、説明はさせてくれ……それは名前がないテスト機器だ。理論上どんなガスにも耐えられるフィルターをしているが実践だけしてない。だからこそ100%信用はしないでくれ」
その場の皆は無言でだが信頼の眼差しでうなずく。
「それじゃ、皆武運を祈る。」
実働部隊は全員坂木に敬礼して再び指定された場所へと走っていった。
EMG18:VS特別大災害級怪獣 №2 終盤
次回 EMG19:VS特別大災害級怪獣 №2 決戦