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第14話 白雪姫の姉ですが妹は完全に包囲されました

 ハンターとスノーホワイトは、魔の森の濃霧をついに抜けた。


 湿った冷気が嘘のように晴れ、空気が一変する。視界の先に、開けた台地が見えた。


 遠くには、広がる竹林と、田園風景、そして、わらぶき屋根の木造家屋が点在している。異民族の里だ。


「森を抜けたようだな」


 ハンターが静かにつぶやく。


「やっと、ここまで来た……」


 スノーホワイトは膝に手を当て、息を整える。


 何度も狂い死にしかけた魔の森を、ハンターの導きによって踏破できた。足はボロボロ、心はズタズタだ。しかし、彼女の顔は晴れやかな達成感に満ちていた。


「ここに、異民族の戦士がいるのね」


「そうだ。私も来たのは初めてだが、噂には聞いている。異国から流れてきた古の戦士が、独自の掟を守って暮らしていると。その名は『サムライ族』……」


「きっと、味方になってくれるはずよ。お父様から聞いたことがあるの。昔から、王家とサムライ族は、血の盟約を結んでるって」


 スノーホワイトは、王家の紋章が刻まれた胸元のペンダントを握りしめた。


 だが、その直後――


「おい、待たんかいゴルァァァァ!」


「くせ者発見! 問答無用で攘夷じょういでござる!」


「我ら、ナメられたら終わりの誇り高きサムライぞ!」


 ズババババッ!


 草むらから飛び出してきたのは、小さなキモノ姿の少年たち。総勢七人の剣士だった。


「まずは名を名乗れ!  どこのどいつだ、この野郎!」


「二人まとめて、お命、覚悟……」


 キレッキレでカタナを振り回しながら、囲んでくるサムライたち。全員、可愛い顔ぞろいなのに、殺意が本気すぎて怖い。


「ちょ、待って待って待って⁉ 私たちは敵じゃない――」


「黙れェェ! 取りあえず斬るのが我らの掟じゃあああああ! 斬ってから考える!」


(この里の『掟』、物騒すぎない⁉)


 スノーホワイトは首元に七本の刃を突きつけられ、人生最大級のピンチに陥った。


 だが、次の瞬間。


「えーい、控え控えぇーい、控えおろう! この御方おかたをどなたと心得る!」


 ハンターがとっさの機転で、声を張り上げた。


「この御方こそ、王位継承権第1位、美しき『白雪姫』スノーホワイト王女殿下にあらせられるぞ! ええい、頭が高いッ! この紋章が、目に入らぬくゎぁああーッ!」


 ハンターの芝居がかった口上を聞くと、スノーホワイトはあわてて胸元から王家の紋章入りペンダントを引き出し、サムライたちに掲げた。サムライたちの動きが、ピタリと止まる。


「あ、あの紋章は……!」


「そのペンダントは……白金の王家紋!」


「本物⁉ 偽物⁉ バッタもん⁉」


 ハンターが「何がバッタもんだ、無礼者!」とツッコミを入れる。


 サムライたちは一斉に、地面へ膝をついた。


「我がサムライ族は先祖代々、尊王の家柄でござる!」


「僕らの早とちりでした。驚かせてごめんなさぁーい!」


「姫様なら、命に代えてもお守りするぜ!」


「吾輩としたことが、相手も確かめず斬りかかるとは。人斬りの端くれとして、何ともお恥ずかしい……!」


「千年の昔から王宮の深淵に伝わるという、白金の魔紋だな……選ばれし者の血に呼応する、封印の鍵。世界の均衡を壊す災厄の扉がいま、開くか……」


「いや、七歳の誕生日にお父様が買ってくれた普通のペンダントなんだけど……」


 好戦的なサムライ族だったが、権威にはやたら弱いようだった。完全なる手のひら返し。七人のサムライたちはスライディング土下座する勢いで、スノーホワイトに忠誠を誓った。


「拙者は一文字ナイト!  一剣を磨く武士でござる」


「自分大好き、二刀ムサシです。分身の術、使えます」


「僕は、三宮ミョウガだよ……あれ、カタナはどこ行った?」


「俺様が四条ホーチキ様だ! どいつもこいつもバッサリと斬ってやるぜ!」


「吾輩の名前は、五行レンタロー。闇討ち、不意討ちなら、お任せを……」


「我は六波羅ゲンシュウ。漆黒の力に目覚めし者なり……」


「ワイは、七尾キョースケや。姫様の維新回天、助太刀しまっせ!」


 こうしてスノーホワイト&ハンターの旅に、やたら元気でハイテンションな七人のサムライが、仲間として加わることになった。


「我らは無敵の七人でござる!」


「自分が分身すれば、八人に増やせます!」


「ワイらの必殺剣法で、姫様を支えるんや!」


「ところで、両目眼帯の男よ、その漆黒の拘束具、ちょっとうらやましいな……フッ、我も力の封印を解くとするか……」


 スノーホワイトは苦笑しながらも、彼らの純粋な好意に、心を打たれていた。


(この子たちなら、きっと……)


「……ずいぶん、にぎやかになったな。剣士というより道化師だ。足手まといにならなければいいが……」


 ハンターがボヤく。


「あなたも、ちょっと楽しそうな顔してるじゃない?」


 スノーホワイトは、ハンターに微笑みかける。


「そう言われても、鏡が見えんから、よく分からんよ」


「こんな子たちだけど、伝説の戦士の末裔なのよ。彼らが味方なら、きっと王国を取り戻せるよね、ハンター」


「それはまだ、何とも言えん……」


 そう言いながらも、ハンターの頭脳はフル回転していた。


(確かに、この森を越えたことで、何かが変わったな。きっと、運気の流れが……)


 王妃に反乱を起こし、スノーホワイトを次世代の女王に推し立てる。そのための計画が、彼の中でも徐々に具体的な形を取り始めていた。


 スノーホワイト革命軍、旗揚げの瞬間であった。


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