魔の森の夜明け。
薄明かりの中、スノーホワイトはハンターの背後に立ち、両手で彼の肩につかまりながら、ため息を吐いた。
「本当に、目を閉じたまま歩くの?」
「私の言うとおりにすれば大丈夫だ」
ハンターが淡々と答える。
「感知能力で、私が魔力の流れを読む。他の者も同じようにして、後ろへ一列に並ぶんだ」
「では拙者が、姫様のお肩へ手を。失礼するでござるよ」
「我ら、運命の鎖に導かれし連環の魂。足並みを乱せば、たちまち均衡は崩れ去る……秘技、
「そんな魔法はないんだけど……」
七人のサムライたちが、わちゃわちゃとムカデ競走のように一団となる。
「順番ッ! 隊列を整えるでござるッ!」
一文字ナイトの怒号で、ようやく整列を終え、革命軍出陣!
「みんな、目を閉じて……行くわよ!」
「「「おー!」」」
ハンターを先頭に、スノーホワイト、七人のサムライたちが一列に固まりながら、行進を開始した。
「こ、これは、地味に怖い……」
「うお、ぬかるんでる! 靴下が濡れて気持ち悪い! 」
「ちょ、ホーチキの足踏んだの誰⁉ 今すぐ名乗り出ろ! 叩っ斬るぜ!」
「ミョウガよ、列を乱すな……さっきから誰の肩に手を置いてるんだ? そっちはムサシの分身だぞ!」
「ええっ⁉」
大騒ぎしながら、魔の森を進む革命軍。だが、誰ひとりとして、幻覚に惑わされて列から脱落する者は、出なかった。
数時間後、革命軍はついに森を抜け、街道に出た。その時、ハンターがピタリと足を止めた。
「前方、約千五百メートル。軍の接近を感知した。王妃が軽い
「吾輩が思うに、これは千載一遇のチャンスです。姫様、ここはぜひ闇討ち、不意討ちを……」
「よし、採用! 奇襲をかけるわよ!」
「判断が早い!」
「突撃ぃぃぃ! あ、カタナ持ってかなきゃ」
美少年サムライたちが、一斉に跳ねた!
ナイトの号令で隊列を整え、ムサシは分身して混乱を誘い、ゲンシュウは謎ポエムを詠唱しながら斬りまくる。
「貴様ら、何者だ⁉」
「ぐわっ⁉ こ、子供⁉ 軍が子供にやられてる――」
「甘く見たらアカンで! ワイら、維新の志士や!」
スノーホワイトは華麗に攻撃魔法を放ち、輸送車の車輪を凍らせて停止させた。
数分後、王妃軍の兵士たちが遁走して、戦闘終了。
奪った物資と財宝を運んで、最寄りの村へ向かう。スノーホワイトは深く息を吸い込むと、凛とした大声で、村人たちに告げた。
「革命軍軍報ーっ! ごきげんよう、皆様の『白雪姫』スノーホワイトです。サニー王妃が不正に集めた物資と財宝を、取り戻して参りました。ゴミはゴミ箱へ、民衆のものは、民衆へ!」
「うおおおお、生きておられたのか、スノーホワイト王女殿下!」
「お姫様が、義賊になってる……」
「あのショタ軍団のサイン欲しい!」
革命軍は農村地帯で、人気を爆上げしていった。その知らせは、たちまち公爵領にも届いた。
「スノーホワイトが、魔の森から出てきたようだな。山賊どもを率いて街道に現れ、軍の物資を奪って、民にバラまいてるらしい。さっき、王宮から討伐命令書が届いた」
ジョン・モンストラン公爵が朝のコーヒーをすすりながら、苦虫を噛み潰したような顔でアップルに告げた。
「本当に⁉ さすが、スノーホワイト。無事で良かった。完全に、主人公ムーブね」
パンにリンゴジャムを塗りながら、アップルはジョンに問いかける。
「それで、ジョン。どっちの側につくんですか?」
「いや、それはまだ……」
「スノーホワイトを、助けてあげて」
アップルの優しい声が、どこか寂しげに響く。
「それが、あなたの運命なのよ。もうすぐ、この国は二つに割れる。そしてあなたには、戦いの行方を左右する力がある」
アップルはジョンの目を見ながら、真剣に語りかけた。
「私は、あなたに白馬の王子様であってほしいの」
ジョンは黙ってアップルの話を聞いていたが、やがて、小さな声でつぶやいた。
「……可愛いお前の願いなら、仕方ないなぁ」
「えっ……」
アップルは固まった。
「い、今なんて……?」
「出陣の準備だ。リンゴジャム十瓶、用意はいいか?」
「えっ、本当にそれがあれば軍を動かしてくれるの?」
「戦争は、兵站が命だからな。俺、お前のスイーツが供給途絶えたら、すぐ死ぬタイプだから」
「ジャムが兵站って……三十瓶、作り置きしてあります」
「よし、それじゃお前も、早く旅支度しろ」
「えっ、本気で私も連れて行く気なんですか⁉」
「そう言ったじゃないか。お前のいない遠征なんて、ジャムのないジャムパンみたいなもんだ」
「それ、ただのパンでしょ」
ジョンとアップルは、いつものように掛け合いをしながら、戦の準備を進めていく。
王国を二分する決戦の幕は、すでに上がっていた。