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第2話 天道 悟

 ――ピピピ! ピピピ! ピッ!


「……朝か」


 いつものように日が昇り、いつものようにスマホのアラームに起こされ、いつものようにベッドからムクリと起き上がる。


「……ねむ」


 俺こと天道てんどう さとるは半開きの眼でスマホを見た。


 時間にして朝の八時。実家住みの学生だったら何で起こさなかったんだと親にキレ散らかし、大急ぎで支度している時間。それこそトースターから焼き上がったトーストを口に咥えて玄関を出たり入ったり。あ、入りはしないか。


 とまぁ、実際にあった俺の学生時代の一ページだけど、それも去年の春には卒業。今年の誕生日で二十歳になる俺からすれば、それも良い思い出だ。


「あ~む」


 むしゃむしゃと食べる朝の朝食は変わらずトースト。いやはや習慣とは怖いもので、朝は米じゃなくてパン派と変わらない良さがあるも、去年の様なまだ学生気分だった世間様を舐めたクソガキの俺が静かになった、良くもあり悪くもある変化もある。


《――横浜第四地区に出現したダンジョンに、政府公認の攻略チームが入って二日経ちましたが未だに――――》


「大型ギルドでも時間かかるって、トラブってんのか?」


 世界にダンジョンが出現し、モンスターを倒しダンジョンを攻略して安定化させる『ランカー』が出現して既に三十年が経っている。


 世界が目覚ましい規模で発展していく世界にて、ダンジョンの出現とランカーの出現は科学技術の進歩を遅らせたのは最早言うまでもない。


 2055年の今、科学技術のレベルは2030年ほどのレベルだと一般的にはなっている。


《続いてのニュースです。アメリカの――》


 ダンジョンを攻略するランカー誕生の黎明期。問題はいくらでもあったらしいけど、先人たちの頑張りで今ではランカー育成の学校から、ランカーが組するギルドの存在。そしてランカーによるダンジョン配信まである始末だ。


「HEYシフ。チューバーのラブの戦士最新動画開いて」


《ラブの戦士最新動画にアクセスします》


 音声認識で地上波放送からチューバーのちゃんねる動画にディスプレイを切り替えさせる。


 俺がちゃんねる登録しているこのチューバー配信者のように、『スキル』が目覚めていない人もいる。というか、目覚めていない人の方がまだ多いまであるけど、その数は年々目減りしていっている。


《パック開封デスマッチで勝負だ! アッアッアッアッ!!》


「これだからラブゴリはやめらんねぇよなぁ」


 『スキル』保持者と一般人の間に亀裂があるのも社会問題の一つだけど、幸か不幸か十歳の頃に『スキル』が宿った俺は小学校を卒業すると、中学からはランカー養成の進学校へと半強制的に通わされた。


 成績はと言うと鳴かず飛ばずの良くて普通。勉強も特別できるでもないし、身に宿ったスキル『仙気』を駆使しても学校上位カーストの仲間入りとはいかなかった。


 スキル『仙気』


 身に宿る『気』を操るスキルだ。


 拳や脚に仙気を纏えば岩も砕けるし鉄骨だって凹ませることができる。というか、俺はそれしかできない。


 他の『仙気』持ちの人は学生時代に何人かいたけど、仙界なる場所から使役できる動物呼んだり、仙気で生成した符を使って火球やら何やら出して戦ったりする人たちばかりだった。


 そんな中、まぁ他の人より秀でているのは仙気を高める循環くらいで、基本中の基本しかできない俺はマジで目立つことも無くひっそりしている学生だった。


 その高める循環すらもこの頃練度が上がらない一方だ。


《罰ゲームをくらえこの魔女めえええええ!! キャー!!》


 罰ゲーム。


 才能ある生徒は大型ギルドに引っ張りだこで王道を歩む一方、うだつが上がらない俺は小さなギルドの仲間入りするも、内部分裂で解散。三ヶ月の在籍だった。分裂の内容は簡単に言うと方向性の違いだ。罰ゲームかよ……と思ったのは内緒だ。


 親に無理を言って去年から独立。しかし就職先のギルドは早々に解散し宙ぶらりん。今は政府が運営する国営ギルドが仲介するクエストをこなしてその日を過ごし、コツコツと貯金している現状だ。


「よいしょっと」


 顔を洗い歯磨きも済ませ、朝食を食べ終えた俺は身支度。国営ギルドに行く前に用を足す。


 便秘気味な今日この頃。目を閉じケツに集中しながら身に宿る『仙気』の循環をするのが既にエブリデイ。


 ――ブリ☆ ――ドクン!


(お! この感覚は!?)


 と一本糞を捻り出す最中、幾年ぶりかの仙気の練度アップの感覚。全身に力が漲る。


 そんな時だった。


 ――ヒュ。


(ん? 風?)


 不意に頬が撫でられる感覚を覚えた。


 遂に換気扇が壊れたかと目を開けると。


「……え?」


 青い空。


 白い雲。


 澄んだ空気に少し冷たい風。


 桃林が連なる園。


 なにがなんだか理解が追いつかない俺は閉じた口が塞がらない。


 そんな中、捻り出した声。


「ケツにうんこ付いたまんまなんだけど……」


 誰かトイレットペーパーください。


 あと空気椅子しんどいッス。

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