――ッ轟!!
『
それは練った気を刃の如く飛ばし、空気を切り裂きながら対象に向かって撃つ仙気の刃だ。
空間が歪んでいる程度の認識で可視化。半透明のそれは非常に見えずらいゆえ、初見での回避は非常に困難だろう。
だけど俺の首を撥ねんとする空刃をヒラリと避けたのは、既に何度も何度も、それこそ数万回同じような攻撃を受けてきたからだ。
「!」
俺と対峙している相手は白色に発光した人型エネルギー体。そいつは空刃を避けた俺に驚いた様子でリアクションしたが、すぐさま姿勢を低くし地面を蹴る。
――ッド!!
蹴った地面が爆ぜた。瞬き一つで目の前まで接近。
――シュイン!
手刀に仙気を纏わせた『
――ッバ!!
「!?」
跳ね除ける。
気刃の先が地面に深々と傷跡を付ける。
同じく仙気を纏った手で気刃を大きく跳ね除け、あまりの反発力にエネルギー体は大きくバランスを崩した。
「ッフ!」
すかさず俺は脚に仙気を纏い、体を捻って回し蹴り。纏った仙気が脚の軌道を残す様に可視化。
――ッシュバ!!
「!?!?」
肩に直撃。そしてそのまま腹部にかけて回し蹴りを捻り当てると、エネルギー体は肩、腹部から宿しているエネルギーを血の様に噴出し吹き飛んだ。
(今だッ!!)
――ッドワオ!!
両手に白銀の仙気を纏い、地を爆ぜさせて猛接近。
風を切り、吹きすさぶ血飛沫の様なエネルギーを頬に付着させながら接近。
「ッフ!!」
「!?」
エネルギー体の顎に掌底。その威力は衝撃波を生み空間を一瞬だけ歪ませる。
顎から宙に浮かせた俺はそのまま追撃。
「
――ッバンッッ!!
身体の芯に響かせ捻じ込む様に、エネルギー体の腹部に掌を強打。
可視化した衝撃波は閑静な桃林をざわつかせ、対象をそのまま更に宙へ。
「
――ッボクッッ!!
裏拳。更に宙に昇ったエネルギー体の背後に一瞬で移動。掌の攻撃で九の字に曲がった身体に勢いよく裏拳を喰らわせた。
まるで飛行物が高速で移動する金切り音を発生。一瞬にして地面に激突し、地がヒビを作り、土煙を上げる。
瞬間、俺は土煙の中に一瞬で移動。
「
――ッドッッ!!
地面に埋まるエネルギー体を蹴って浮かせ。
「
――ッバウンッッ!!
エネルギー体の首に仙気を纏った手で突き攻撃。モロにくらった白色は地面を更に砕いて跳ねるようにバウンド。ピキリと体にヒビが入った。
(今だッ!!)
右手で拳を作って一気に仙気を纏う。
スローモーション。左手で狙いを定め、右手に力を込めた。
そして右拳をバウンドした白色に打ち込んだ。
――ッド!!
「!?」
右を打ち次は左を打つ。
――ッドッド!!
それを交互に繰り返す。
速く。
――ッドッドッド!!
より速く。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――ッドドドドドドドドドドドッッッ!!!!
浮いた状態から絶対に地面に着かせない。この場で終わらせる。その様に攻撃する勢いは腕の付け根が何本にも見える程に高速に打ち込んでいる。
同時に白色のエネルギー体は大きくひび割れていき、顔面部分は既に変形していた。
「ッデイッッ!!」
「!?」
左手で深く打ち込み更に宙へ。
止めを決める様に右手に仙気を集中。
そして――。
「
「――」
――――ッ轟!!
「
『覇仙拳奥義
覇仙
連弾拳』
無数の殴打の末、致命の一撃を与えられたエネルギー体は。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
天高く打ち上げられ、砕け散った。
「……ふぅ。今回も手ごわかったな」
仙気の糸で創り上げた服――白い道士服をハラリと地面に脱ぎ捨て、昨日の晩から続いた連戦の汗を流すため、流れの穏やかな滝に身を入れた。
(あ~^気持ちいいんじゃぁ~~)
火照った身体に冷たい水が徐々に包み、戦いで熱した体温を下げてくれる。
「すぅ……」
もちろんこう言った時も胡坐をかいて仙気循環を忘れない。空気中はおろか、滝の中、そして水の中にも仙気は満ちており、休息をしながらも身の内を鍛える。これここに来てから学んだことね。
(でもまぁ、仙山に来てから30日……。つまりは一ヵ月は経った感じかぁ……)
そうこのダンジョンに来て既に30日経過した。例のアレだとウキウキ気分で探索するも、脳に直接声をかけてきた白い
仙人の最初の段階である
つまりは起きたら仙人に生っていた。
しかも仙人の修行法から始まりこのダンジョンの歴史の一端、御霊がどういった人物なのかとか、『覇仙拳』なる謎の拳法の知識がギッシリと脳内に詰め込められてる始末。
目覚めた瞬間、あまりの情報量にありえないほど痛い頭痛に苦悶。そして脱糞、失禁、吐瀉、射精、諸々汚れてまた気を失ったのは今でも覚えている。
だって目覚めたらウンコとシッコとゲロとザ〇汁に塗れた汁の中に倒れてたからなぁ……。
まぁそれは置いておいて。目覚めたら仙人だった。それはもう仕方のない事だし、今すぐ普通の人間に戻れる訳でもない。……まぁ人間に戻る方法は無いとは言わないけど、御霊の記憶――『覇仙拳』の創者の記憶は無視できるハズも無く……。普通に修行に明け暮れている訳だ。
(御霊の名前は未だにわからない……。いや、それどころか受け継いだ記憶の断片に靄が掛かっている……)
この仙山はどう言ったところなのか。このダンジョンに何が起こったのか。御霊はどうして魂だけ祭壇にあったのか。それらに関する記憶は靄が掛かっている。
(修行すれば……。俺が強く成れば記憶の靄は少しずつ晴れる……。それは確かだ)
つまりはレベルアップ。仙人としての練度がアップすれば、自ずと記憶は蘇ると分る。わかってしまう。
そう自問自答している瞬間。
「――ッ!?」
不意に気配。
(山の向こうから気配がする……)
――ザバ。
滝行を中断し、気配の正体を確認するためそそくさと着替えた。
――ッピュ!!
着替え終えると指笛を大きく鳴らし、息を吸い。
「
大声で呼んだ。
すると上空の雲の中からオレンジ色が。それは長い尾を残しながら超スピードで俺の前で静止し、今か今かとモクモクしている。
「よっと。頼むぜ觔ちゃん」
「!」
――ッシュンッッ!!
濃いオレンジ色の雲――