「――ハーイみんなぁ!! ヤッハロハロー☆ しぶりんちゃんねるの緊急生配信始まるよー!」
》こんにちは!
》しぶりんキタ!
》キタ――(゚∀゚)――!!
》こんにちは
》ヤッハロハロー
》ヤッハロハロー
私の名前は渋川カレン。
しがないランカー配信者の一人だ。
「タイトルでもわかる通りなんとなんと!! ダンジョン『仙界の霊山』というダンジョンに転移ました!! まさか転移陣の誤作動で変なところに飛ばされるなんて思わなかった! だってアレでしょ? 誤作動すると止まる仕組みなのに飛ばされるのって、たしか天文学的数字の確立? ってやつぅ? うん」
》転移事故じゃん!!
》事故!!
》こりゃ政府に連絡入れないと
》無事でよかった
》どこだよ
》しぶりんが無事でよかったです
》脱出できるん
》大丈夫?
「みんな心配してくれてありがとー! 一応『もどり石』もちゃんと機能してるみたいだし、いざとなれば砕いて帰ります! まぁ自撮り用のドローンカメラとTPS視点のドローンカメラも正常。そもそも配信できる時点で空気中の魔力が濃いってことだし、何かあれば通報ヨロシク!」
ランカーとしてダンジョンに潜り、配信。録画動画だったり今みたく生放送で再生数を稼ぎ、お金を稼いでいる。
「まわりは木だらけの林か森!! とりあえず探索していくよー!」
》気をつけてー
》しぶりん可愛いンゴねぇ
》慎重に
》一応ランカーギルドには報告しておいた
聞いた事のないダンジョン――『仙界の霊山』
ランカーチューバーとしての知識をフル稼働しても引き出てこないダンジョンに、これは天の賜物、そして誰も足を踏み入れた事のないダンジョンにチューバー冥利に尽きるとワクワクし、林の中を歩いて行った。
そして後悔することになる。
》おいなんだアレ
》ヤバそう
》強そう
それは龍だった。
》モンスター!!
》クソデカい
》ヤバそう
》しぶりん逃げて
》逃げろ!
》ヤバイ!!
吐息は森を焼き。
》ヤバイヤバイ!
》ギルドに報告する
》とんでもないぞ
》しぶりん
》しぶりん!!
尾は山を穿ち。
》死ぞ
》しぶりん逃げて!!
》しぶりん逃げろ!!
》竜だ!
》龍かよ
》危ない!!
》間一髪
》放送事故や
咆哮は空間を震わす。
「きゃあああああああああ――」
どしゃ降りの様に降り注ぐ
耳を塞ぐも鼓膜が破れそうになる轟音。
立チ去レ。立チ去レ。
その様な意思がある様に、矮小な私を拒む。
「■■■■■!!」
龍の咆哮は黒い曇天を穿ち、その双角はバチバチと帯電。それを眼にした途端、私は膝から崩れ落ちた。
「あぁ……私ぃ……死んじゃうぅ……」
》しぶりん逃げて!!
》逃げろ!!
》もどり石で逃げろ!!
》しぶりん!!
雷の嵐から逃げ惑う中、頼みのもどり石はとっくに砕いていた。なぜもどり石が起動しなかったのかは知らない。もう、考えても意味がない。
目の前には国営ギルド総出で相手をするレイドボス級のモンスター。その怪しく光る眼光が私を映しているのは、距離が離れていてもわかる。
》しぶりん!!
》逃げろ
》逃げて
》逃げて
》ヤバイ
》しぶりん!!
自撮り用のカメラの端に流れるチャット欄は一つ一つのコメントが拾ない程に上昇していく。
「――はは」
死の縁に立っているのにチャットを見る暇があるのは、心の底から諦めているからだ。
すると、一際目の前が輝いた。
双角の帯電が激しくなり、顎を大きく開けてはち切れんばかりのエネルギーを私に向けていた。
龍の攻撃準備が整ったようだ。
それを眼にした私はクスリと笑い、ハイライトが消えた目でカメラを見た。
「パパ……ママ……みんな……。ごめんねッ。さよなら――」
「■■■■■■■■」
龍の首が動き発射体勢。
――その瞬間。
――ッボ!!!!
――――ッ轟ッッ!!
挙動不審。
龍の顎から衝撃波が迸った瞬間、顎は空に向けられエネルギーは轟音を置き去りにして発射。
曇天を瞬く間に消し去り、空へ高く高くエネルギーが発射された。
「――」
私は見た。そらを穿つ龍のエネルギーの外側をを渦巻く様に何かが昇って行くのを。
私は見た。長い長い朱い何かが空に出現し、暴龍の頭蓋を一撃で仕留めたのを。
「……。……」
》え
》え
》生きてるウゥゥ↑
》なにが起こって
》しぶりん!!
》逃げて!!
》は?
》龍が斃れてる
放心。それを他所にチャット欄が大いに流れている。
宙から地に沈む龍。しかして魔力ヘ還らないのは龍がまだ生きている証拠。
曇天だった空は晴れ、快晴を私に見せた。
それが嬉しくて、堪らなくて、生きていて。
「あぁ……ッ。ああああああ!!」
自然と涙が溢れ出た。
生きている。これからも生きてい行ける。死の縁からの生還に、脚に力が入らない。立つ事すらできない。嬉しさのあまり、大きな胸を押さえて嗚咽を漏らしてしまう。
「――ッ」
不意に、空が響いたのが聞こえた。涙を拭って音の方向を見ると、徐々に徐々に何かが近づいて来るのがわかった。
》なんか来てる
》ヤバイヤバイヤバイ
》逃げてしぶりん!
》今度こそヤバイぞ!!
》しぶりん!!
背後のTPSカメラにも私が見ている光景が映し出されている。
そして謎のナニカは段々ハッキリと姿を現し、その正体に私は空いた口が塞がらなくなった。
》!?
モクモクと浮遊する雲の上には胡坐をかいている男性が一人。背中を丸めて太ももに肘を置き、手で顔を支えている。そして朱い得物の棒を肩に起きながら、雲を低空飛行させて目線を合わせて来た。
「あのぉ、大丈夫ですか」
――キュン♡
「!?!?!?」
突如現れた白髪のイケメンに、私の心と体はみるみる内に火照った。
》これが子宮恋愛かぁ